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イラスト・もりたあゆむ

レ ト ロ ス ポ ッ ト ガ イ ド 「 ま ぼ ろ し 酒 場 」


第2回「北千住 大はし」

 北千住の「大はし」が閉店してしまった。ショックである。
「千住で2番」のキャッチフレーズで知られる名店中の名店。明治10年創業(今年で126年目!)の老舗でありながら気取ったところが全くない。

北千住 大はし

 安く美味い肴、建物、もてなし、全てが超一級品の「まぼろし酒場」の教科書のような店。ここ数年、元気をもらいに足しげく通った酒場だ。仕事に気が乗らなかった金曜日や、手持ち無沙汰な土曜日に、ついつい吸い寄せられるように北千住に向かっている自分がいた。

肉どうふ 客あしらいは超一級品。店主の神野さんは、カウンターの奥にしつらえられた「肉どうふ」の大鍋の前に陣取り、煮え具合を確認しながら頃合を計り肉と豆腐を足している。
同時に、まるで剣の達人のような緊張感で店中に気を配り、注文の気配にカウンターの中、さっと駆け寄ってくる。
その見事な立ち振る舞いを「舞い」のようだと評していたのは誰だったか。時々、客に一言二言かける時の笑顔が、また良いのだ。仕事に懸命に打ち込み続けた、自信に裏打ちされた優しい笑顔、とでもいうか。

北千住 大はし 2月1日に行ったばかりだったが、2月末で閉店とは知らされなかった。ファンは、あまりにも多かったから、きっとギリギリまで知らせなかったのだろう。名物焼酎「宮」のボトルキープ期限が1か月。ちょうど閉店日に切れるボトルを僕は置いてきた訳だ。
 
 閉店日2月28日。所用で行けず。心残りを引きずりながら、その日は地元、下北沢の 老舗ビストロ「*ジャックポット」に飲みに行った。しかし、なんということか、この店も、今日で閉店とのこと。
昭和の街並みをズタズタにした「悪夢のバブル」を乗り切った店は多くない。その数少ない名店もこうして突然姿を消す。
(もっと大勢の人に「まぼろし酒場」の魅力を知ってほしい。このページも、もっと早く更新しないと…反省。)閉店のメッセージ

閉店1週間後の3月7日、この店を訪れてみた。入り口には店主からの丁寧なメッセージが張られていた。(写真)

「大はし」は旧日光街道沿いに面している。かつて江戸から日光や奥州に向かう街道の、最初の宿が千住であった。昭和初期の写真を見ると、千住のヤッチャバ(青物市場)に向かう大八車や馬車で、通りは、たいへんなにぎわいだ。近くには遊廓(赤線)もあったそうだから、江戸から昭和初期にかけては東京の北の一大繁華街といったところだったのだろう。その旧日光街道も、今はパチンコ屋、美容院、100円ショップなどが並ぶ普通の商店街だ。「大はし」も新築後は、この平成の風景になじんだ店になるのかもしれない。

 店の脇の路地を奥へ入ってみた。ぽつりぽつりと外灯がつき入組んだ暗い路地。表の商店街とは別世界だ。回遊路のような路地を歩くと、ふっと小広場のような空間が開けたりする。かなり古い木造の家屋も多い。狭い路地の両脇に、歯科医院、和裁教室、書道教授、母の会、などの看板がぽつぽつと並んでいる。奇跡のように生きている下町。
バブルの荒波から「大はし」が守ってきたかのようだ。…と言ったら思い入れすぎか。

 その昔、松尾芭蕉は、この千住から「奥の細道」紀行に旅立った。
「〜前途三千里のおもひ胸にふさがりて 幻のちまたに別離の泪をそそく」
心安い馴染みの門人との別れを惜しみつつ、これからの冒険に心時めかせる芭蕉の気持ちが良く伝わるフレーズだ。閉店は本当に残念だが、僕もあんまりメソメソしてはね…。

 「大はし」は新築し、この12月には装いも新たに帰ってくる。お尻にすっかり馴染んだ丸椅子や、時代を感じさせた美しいガラス小窓などは残すようだ。もちろん店主も元気に登場してくれるだろう。新しい「大はし」を楽しみに、見知らぬ「まぼろし酒場」を開拓しつつこの1年を過ごすとしよう。

*「やってます」の看板はこの店が発祥だとか。

文:原ノリオ


2003年4月2日更新
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