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「隕石がぶつかった」
最初、乗組員はそう思った。
4月11日、アメリカ中部時間13時13分に発射されたアポロ13号だったが、2日経って地球から321,860km離れたところで、酸素タンクが爆発した。
月面着陸を諦めて、命からがら、それも宇宙空間において見事にアナログな手作業で、宇宙飛行士たちは地球に帰ってきた。
大阪では「人類の進歩と調和」の万博で、アポロ11号のおみやげの「月の石」が人々の熱視線を浴びていた頃だった。
遠藤賢司のファーストアルバム「niyago」がURCからリリースされたのは、4月8日のこと。
バックを務めたのは、はっぴいえんどの細野晴臣、鈴木茂、松本隆。バンド名をばれんたいんぶるうから、はっぴいえんどに変えて間もなくのことだ。はっぴいえんどは、このあと岡林信康のバックバンドをしばらく務めることになる。
あのときラジオのFENから流れてきたボブ・ディランの「LIKE A ROLLING STONE」が、遠藤賢司をエンケンにさせたのか。いや、人は様々なきっかけに触れながら、自らの魂とココロとカラダで歩き出すのだ。ディランではない、エンケンがエンケンになったのだ。
ギターの音は、静けさと激しさ、優しさと強さを往復し、それらがひとつの人間のカタチであることを示す。
呟くような、しかし轟くその歌声が、人生で大切なことはひとつだけであることを思い出させる。
エンケンは、影響を受けたミュージシャンを問われたときに、三橋美智也や島倉千代子、こまどり姉妹といった名前をまず挙げる。
ボブ・ディランやニール・ヤングの名を出す前に、最初に日本の歌謡界への敬意を払う。
それは、フォークソング黎明期のシンガーの中では、とても珍しいことだと思う。
「ぼくらには先輩がいないので」
そう言う、60年代から活動しているフォーク、ロックのミュージシャンは多い。
それは、URCや関西フォーク、日本語ロックといったものが、自分の言葉で歌う自由な表現行為としての音楽として、それまでの芸能界の商業ビジネス的な歌謡曲と一線を画していたからである。
だから、あの60年代後半に姿を現したフォークやロック、とりわけフォークキャンプやフォークジャンボリー出演者、音楽舎(高石音楽事務所)所属アーティストにとっては、簡単に言ってしまえばアンチ歌謡曲、アンチ芸能界なのだから、当然、「先輩はいない」のである。
しかしエンケンは、最初から違ったんだと思う。
そのスタイルこそ、ボブ・ディランやニール・ヤングのように、ギターを担いで自由な叫びを歌にしているけれど、彼にとってフォークもロックも歌謡曲も、何も隔てなどなく、大切な憧れでありエネルギーなのだ。
だから彼は、のちに純音楽家と名乗るようになる。
遠藤賢司のライブに行けば、彼は必ず言う。
「フォークでもロックでもジャズでもブルースでもソウルでもラップでも演歌でも歌謡曲でも何でも、いい音楽はいいわけで・・・」
そしてエンケンにとって、すべての素晴らしき芸術はライバルであり、愛しながら乗り越えていくべきもの。
で、そうした生き方を聴く者たちにも熱烈に勧める。
がんばろうって思えるのだ。
四畳半の内面世界から、アポロが月を目指す銀河宇宙まで、エンケンは飛ぶ。そして、切ない情感。
ああ、エンケンが紅白歌合戦に出るような、そんな時代になればいい!
にゃーご!!!!


 ああ なんかいい事ないか
 ああ なんかおもしろいことないかと
 夜汽車は 夜汽車は走るのです

 この窓ガラスの向こうの暗やみに
 そう この窓ガラスの向こうの暗やみに
 なんかが ひそんでいると
 僕はいつでも思ってしまうのです

 だから この暗やみを抜ければ
 そう この暗やみを抜ければと
 夜汽車は 夜汽車は急ぐのです

 ああ なんかいい事ないか
 ああ なんかおもしろいことないかと
 夜汽車は 夜汽車は走るのです


 「夜汽車のブルース」詩・曲:遠藤賢司

 


niyago
遠藤賢司「niyago」
1. 夜汽車のブルース 2. ほんとだよ 3. ただそれだけ 4. 君がほしい 5. 雨あがりのビル街(僕は待ちすぎてとても疲れてしまった) 6. 君のことすきだよ 7. 猫が眠っている、niyago


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    藍見澪 -Rei Aimi + Folksong Institute-
    「フォークソング」という言葉の意味を再定義し、日本のフォークやロックの歴史を研究、ひいてはすべての歌に繋げる実験・・・のつもり!

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