第2回は『名画座の時代』をテーマにお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は本体価格と税込価格の並記としました)
むかしむかし、レンタルビデオ文化が存在しなかった「昭和」の時代の頃、ロードショー公開で映画を観るなんて年に1〜2回の贅沢、大抵の映画ファンは「名画座」の2本立て、3本立てプログラムでご贔屓俳優の出演作、ご贔屓監督の過去の作品などを観る為に、ラインマーカー片手に「ぴあ」をチェックしていたのです。私も、三鷹・飯田橋・高田馬場・池袋・大塚など、しばしば通いましたですね〜、若かったあの頃、3本立てを観るだけの体力・精神力があったのだった。
時間だけはたっぷり持ち合わせていた学生時代に「名画座文化」を満喫できたのは本当に幸運な事でした。現在、自宅でビデオで映画鑑賞する時も、部屋の電気は暗くしてしまう私です。
今回は、そんな「昔気質の映画鑑賞」の良き友となるお勧め本を、ご紹介しましょう。
最初にご紹介するのは、文句無しに見るだけで楽しめるシリーズです。
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●「SCREEN特編版/
チラシ大全集・外国映画の戦後50年」
part1/1945~1969
近代映画社発行
4-7648-8067-9
税抜き価格¥1456(税込¥1529) |
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part2/1970~1979
4-7648-8068-7
税抜き価格¥1456(税込¥1529) |
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part3/1980~1989
4-7648-8069-5
税抜き価格¥1456(税込¥1529) |
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part4/1990~1995
4-7648-8070-9
税抜き価格¥1456(税込¥1529) |
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part5/1995~1999
4-7648-8083-0
税抜き価格¥1500(税込¥1575)
(20世紀の外国映画) |
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洋画公開時の「チラシ」を年代別に編集した、『大全集』。
映画好きにとっては、映画のチラシやポスターは見ているだけでも楽しいものです。それぞれに工夫を凝らされたデザインや大胆なコラージュで眼の保養をしたり、馴染みの俳優の年若い頃の姿を発見したり…。
ちなみに、私が初めて自分のお金で観た映画は「ポセイドン・アドベンチャー」。水泳が苦手な私は本当に恐ろしかった。part2の1973年を見てみると、大きく載っています、3月公開だったんですね。そう、春休みに友達と観に行ったんでした。「チラシ」を忠実に掲載しているので「日比谷/有楽座3月17日(土)より大ロードショー」であり、「ロードショー料金・大人¥800のところ前売だと¥600」であった事が判明。お隣に掲載のチラシはウディ・アレンの「ボギー!俺も男だ」。「燃えよドラゴン」「スケアクロウ」、そしてスピルバーグ監督の「激突!」が公開された年でした。
年ごとに、同社発行「スクリーン」の読者投票結果や世相ダイジェストが掲載されているので、70年代前半はアラン・ドロンとオードリー・ヘプバーンが圧倒的な人気だったなぁ〜、トイレット・ペーパーの買い占め騒動は大騒ぎであったことよのぅ〜、というような事も思い出してしまうのであります。
さらに、『スクリーン表記探し』(「マーロン・ブランドー」「F・フェッリーニ」など雑誌「スクリーン」独特の人名表記を味わう)『レタリング合戦観戦』(大ヒット映画のタイトルの書体デザインが下世話に真似されていく様子を味わう)『ドパルデュー探し』(どんな遊びでしょうか?ご想像にお任せします)など、様々な楽しみ方が味わえます。
part1からpart5まで、それぞれ時代ごとに、見る度ごとに違った愉しみ方が出来る映画ファンの宝箱と言えるでしょう。
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●「外国映画ぼくの500本」
双葉十三郎
文春新書(文芸春秋社発行)
4-16-6603132
税抜き価格¥950(税込¥998) |
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少し背筋を伸ばして、映画の事を考えてみようと思い立った時、私が手に取るのが「外国映画ぼくの500本」。淀川君、双葉君と呼び合っていたという映画評論の長老の「ストイックな映画愛」が抑制の効いた文章の行間から伝わってくる一冊。
2001年菊地寛賞の受賞でも有名な「西洋シネマ体系/ぼくの採点表(全6巻)」(本文・三段組で分厚いハードカヴァー。高嶺の花だった…)に収録された8867本の外国映画評論より「文句無く面白い!500本」という観点で再構成された評論集なのでして、資料性も高く、本当に密度の濃い内容になっています。
欧米で出されたオリジナル映画ポスターが豊富にレイアウトされているのも楽しい。白黒図版のため、より絵柄のバタ臭さが強調されて、「気分」が出てます。
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●「日本のみなさんさようなら」
リリー・フランキー
文春文庫PLUS(文芸春秋社発行)
4-16-7660369
税抜き価格¥733(税込¥770) |
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これは極めて危険な書物である事を事前に通告します。
無条件の愛を捧げる対象(原節子、吉永小百合、ゴジラ、宮崎駿など)をお持ちの方は決して手に取らない事。公衆の面前での読書・飲食中の読書は最も危険ですのでおやめ下さい。
日本人は、何故か日本映画には非常に厳しい。洋画には寛容なのに、国産の映画に対しての評価は辛くなる、それは「わかる」から。時代背景が、
登場人物の発言の不自然さが、描ききれない微妙な空気が、やるせない程の間の悪さが、「わかる」からこそ、日本映画に腹が立つ。でも、「わかる」からこそ好きになるし「もっとわかろうとする」のだ。
リリー・フランキーが「もっとわかろう」と、日本映画の名作・珍作を無差別攻撃した「魂の叫び」が本書「日本のみなさんさようなら」であります(『ぴあ』誌での連載「あっぱれB級映画」を再編集したもの)。
この本は映画評論ではありません。リリー・フランキーの極めて個人的な映画感想絵日記と言った方が良いでしょう。学生時代、親しい友人が「こ〜〜んなろくでもない映画を昨日観ちゃったんだよ」と極めて楽しそうに「いかにつまらないか」をダイジェストレポートしてくれたので、思わず自分もその「駄作」を観に行ってしまったが、やはり「駄作」だった…、まさに!そういう感じであります。毒を隠さない文章も心地よいけれど、「ささやかな愛」や「不可避な毒」をさらりと描いてしまうその画力が素晴らしい(注:リリー・フランキーはイラストレーターであり、純粋日本人)。
時間的に余裕があり、この本を一気読みしてしまった後、「ルパン三世・念力珍道中(実写!主演目黒裕樹1974年作品)がどうしても観たくなって、レンタルビデオ屋を訪ね歩く事になっても構わない、との太っ腹な覚悟のある方にお勧めします。
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●「映画の昭和雑貨店」シリーズ
川本三郎
「映画の昭和雑貨店」
小学館ショトルライブラリー
4-09-3430314
税抜き価格¥1460(税込¥1533) |
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「続・映画の昭和雑貨店」
4-09-3430322
税抜き価格¥1460(税込¥1533) |
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「続々・映画の昭和雑貨店」
4-09-3430330
税抜き価格¥1460(税込¥1533) |
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「続々々 映画の昭和雑貨店」
4-09-3430349
税抜き価格¥1500(税込¥1575) |
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「映画の昭和雑貨店・完結編」
4-09-3430357
税抜き価格¥1500(税込¥1575) |
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懐かし本界の大立者(?)川本三郎が、長らく雑誌『サライ』に連載していた「映画の虫眼鏡」を単行本化したシリーズです。
古き良き時代の日本映画の名作の中から、「『名傍役』を演じた小道具や、風俗」を採集した映画観察スクラップノート。「とんでもハップン」「アプレ」「ボンネットバス」「スクーター」「見合い結婚」「屋上」「オルガン」「熱燗」「井戸」
などなど、流行語から生活・風俗まで。無数の日本映画作品から毎回テーマごとに、『名傍役』の登場場面をスクラップした、まさに「労作」です。
例えば「外食の楽しみ」の回。小津安二郎「麦秋」(昭和26年)では、丸の内OLの原節子が兄夫婦(笠智衆/三宅邦子)と銀座の小料理屋で夕食を。丸山誠治「男ありて」(昭和30年)では、プロ野球監督である志村喬が奥さんの夏川静枝を誘って銀座へ。戦後の混乱期が終わって、ささやかな庶民の贅沢が楽しめる「ゆとり」が戻って来ている事がわかります。現在の無精者夫婦が晩御飯をサイゼリアですましてしまうのとは、かなり趣きが異なりますね。
ふんだんにレイアウトされた当時のスチール写真も見ごたえ十分。現在活躍中のベテラン俳優さん達のお若い頃の麗しいお姿には、心底びっくりの私です。特に女優さん方のスタイルの佳さに驚かされます。
スチール写真を見ているだけでも時間を忘れてしまうし、掲載作品のVTR&DVDインデックスも付いているし、まぼろしチャンネル愛読者の方だったら、一頁でどんぶり飯三杯は軽くいける楽しさではないでしょうか。
第2回『名画座の時代』、いかがでしたか。
皆様からのご質問、ご要望など、お便りをお待ちしております。
どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。
『あのころの風景』
2004年4月27日更新
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