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『りぼん』

14.『なかよし』少女たちの
お友達

加藤真名


 昭和50年代の『なかよし』といえば、「キャンディ・キャンディ(昭和50年4月号〜)」「フォスティーヌ(昭和53年3月号〜)」「おはよう!スパンク(昭和54年2月号〜)」などの人気連載漫画が目白押し。これらの作品には原作者がつけられていることも多く、大河ロマン風のドラマ性を前面に押し出していました。この「ちゃんとした読ませるストーリー、ドラマチックさ」は講談社の少女漫画誌の傾向だったそう。その結果、漫画作品や登場人物を読者により印象付けました。
 これはあくまでも私の場合なのですが、この当時の両誌について尋ねられたとき、『りぼん』は○○先生の漫画というように作家の名前がまず思い浮かびます。一方『なかよし』はというと、△△という漫画もしくは△△という漫画に出ていた□□ちゃんという作品名・登場人物が先にくることのほうが多いのです。

 しかし、いくらストーリー重視とはいっても『なかよし』のメインターゲットは小学生なので、年少読者が理解・共感できる「わかりやすい」内容であることが第一です。その上、絵柄の多くはかわいらしさを感じさせ、ピンクを中心としたパステルカラーが基調。『りぼん』の読者ページには「もう一方の雑誌は子供っぽい」などの投書が掲載されることもあり、ハイセンス・お姉さんっぽさをウリにする『りぼん』の読者からみると「お子様向け」と思われてしまうのも仕方がないでしょう。

 しかし、この「子供っぽさ」すなわち「少女らしさ」こそが『なかよし』の魅力でもあったのです。

 読者の少女たちと同じ目線に立って、少女たちに楽しんでもらうために作り出された『なかよし』のふろく。ゲームや占いがついたノート、持ち手がついたスケッチブック、ティーバッグやレストランの紙ナプキンの形をしたレターセット、電話や牛乳パックの形をした小物入れ、ひげやほくろで変装できたり切手の形をしたシール、紙より丈夫で水にも強い新素材やビニールを用いた手さげ、さらには流行の玩具・テレビ・CMなどを上手く取り入れたりと、新しい・面白いものに目がない少女たちを飽きさせないアイデアにあふれています。
 遊びゴコロ満載、一見おもちゃのようでまさに「子供っぽい」もの。しかし『なかよし』のふろくはそれゆえに、「使うのがもったいないくらい豪華」といわれる『りぼん』のふろくとは対照的に、「使ってみたい」「遊びたい」という気持ちを少女たちに呼び起こしたのです。

 そうさせたのは形態だけではなく、漫画の登場人物(ペットも含む)をマスコット的ににデフォルメするなど、イラストにおいての工夫もあったのでしょう。街で人気のキャラクター・ファンシーグッズを意識して、よりかわいらしくすることで、少女たちにより似合うに仕上がりました。漫画作品・登場人物に力をいれていた『なかよし』ならではの戦法で、この工夫によって、付録というモノと漫画、そして読者の少女たちとをより密接に結びつけることに成功したのです。

 高いところから手招きし、大人っぽいもの・おしゃれなものへの憧れを抱かせるお姉さんが『りぼん』ならば、『なかよし』は駆け寄ってきて「いっしょに遊ぼ」と声をかける友達のよう。どことなく誌名にあったイメージを抱かせますね。

『なかよし』

 料理や手芸などの趣味・実用路線も、この時期の『なかよし』の特徴でした。小中学生の少女たちというと、お菓子や料理、小物作りに興味を持ち、自分でいろいろと作ってみたくなる年頃で、私も友達と図書館で本を借り、自宅でよくゼリーやクッキーなどを作っていたものです。そんな少女たちのために、お菓子やマスコットなどの作り方を漫画やふろくに盛り込んで、手作りの世界へと導きました。作ることの楽しさだけでなくそれを通じて、自分で考え工夫して何かを成し遂げることの素晴らしさを少女たちに伝えたい、そんな作り手側の思いもあったのでしょう。国語や算数といった学校の勉強ではないけれど、かつての少女雑誌が持っていた教育的役割がまだここに残っていたのです。

ふろく

 ふろくでは、人気作家のイラストと料理レシピなどを一枚にまとめたカードを集めた「ビバ!クッキングイラスト24(昭和55年9月号)」「NAKAYOSI手づくりカードコレクションバラエティーイラストギャラリー(昭和56年9月号)」のほか、シリーズ別冊ふろく「なかよしギャルズ百科(昭和55年3月号〜)」などが趣味・実用路線の代表的なものです。

ふろく

 「なかよしギャルズ百科」は、1ヶ月1テーマ1冊の全10冊シリーズ。料理や手芸だけでなく、占いやおしゃれ、友達づきあいなど少女たちの日々の生活に役立つ情報が、文庫本よりひとまわり小さいサイズで48ページの冊子の中にギッシリつまっています。人気作家のイラストや漫画もいっぱいの楽しくわかりやすい内容で、次の巻は何だろうとつい待ち遠しくなってしまう、大好評のふろくになりました。
 ラインナップは以下のとおりです。

1.愛のクッキングブック 昭和55年3月号
2.あなたとかれの占いブック 昭和55年4月号
3.サマークッキングブック 昭和55年7月号
4.夏のチャームブック 昭和55年8月号
5.アイディア手芸ブック 昭和55年10月号
6.愛のフラワーブック 昭和56年5月号
7.センスアップブック 昭和56年11月号
8.自分発見ブック 昭和57年5月号
9.マイフレンドブック 昭和57年11月号
10.シークレット版血液型占いブック 昭和59年6月号

 また『なかよし』は、花を使った新しい手芸“ポプリ”を少女たちに紹介し、流行させました。

 ポプリとは一言でいうと花の香水のようなもので、作り方によっていくつか種類はありますが、乾燥させた花・葉などにスパイス・ハーブ・オイルを混ぜ合わせた“ドライ・ポプリ”が主流で、その香りを楽しみます。“ポプリ”という言葉はフランス語ですが、今と同じ方法でつくられるものは16世紀のイギリスで生まれたといわれています。

 『なかよし』では昭和55年に、ポプリ作りが趣味の少女が主人公の漫画が連載されたことがブームのきっかけになりました。宝物が詰まった宝石箱のようなカラフルで賑やかな見た目はもちろんのこと、花びらを乾かしたりシナモンやクローブといった普段あまりなじみのないスパイスを使って作るといった新しさ・珍しさ、さらにはいろいろな材料を混ぜ合わせて“自分だけの”オリジナルな香りが作れるという点も少女たちの心をくすぐったのでしょう。
 この漫画を読んだ「私も作ってみたい」という少女たちの声に応えて、作り方をまとめた本も出版され、ハーブやポプリ材料の専門店「生活の木」と提携するようなかたちで、その月のポプリの作り方を掲載したり、オリジナルポプリのコンテストを行うなどして、爆発的な人気となっていきました。ちなみにこのオリジナルポプリコンテスト、なんと20万通以上もの応募があったそうです。

 さすがにポプリそのものはふろくにはならなかったのですが、昭和56年10・11月号では「若菜ラベンダーポプリ全員プレゼント」として、フランス直輸入のラベンダーポプリ+サシェ(ポプリを細かくして入れるための小さな布袋、におい袋のようなもの)+ラベンダーガイドブックの3点セットを190円分の切手で読者の少女たちに届けました。

 ポプリ関連のふろくでは、花の名前と見つけた場所を書く欄や、星座別ラッキーポプリの作り方コーナーもある日記帳「マイ・ポプリダイアリー(昭和57年7月号)」ほか、前述のイラストカードやギャルズ百科の中にも作り方、楽しみ方などを載せています。

ふろく

 当時『なかよし』読者だった私も御多分に漏れず、ポプリ作りにハマりました。とにかく主材料である花びらを集めるのに一苦労。当然のことながら花びらは乾かすと見た目の半分ぐらいに縮みます。ポプリを作るのに最低限必要な量を集めるためには、それだけの花びら(きれいなものでないとダメ)を探す労力や、乾くまでの時間だけでなく、花屋さんで買うならお金もかかるため、想像以上に根気のいる作業となりました。
 しかし、乾かすには蛍光灯でなく白熱灯を使うことから2つの灯りの違いを知ったり、高級スーパーや輸入食料品を扱っている店にスパイスを探しに行ったり、ポプリを入れるかわいい空きビンを探したりと、それを補って余りあるほどの楽しさを味わえたことも事実です。材料を揃える過程もポプリ作りの面白さの一つで、休み時間ごとに校庭に咲いていた金木犀の木の下で紙袋を持ち、花びらが落ちてくるのをじっと待っていたことも今では良い思い出です。
 こうしてポプリが完成したときは、お手本どおりのきれいな見た目ではなくても「できたー、やったー!」と叫びたくなるほどのうれしさと満足感でいっぱいでした。初めて作ったローズ・ラベンダー・ポプリは20年以上経った今でも本棚に飾ってあります。ビンに鼻を近づけるとまだほのかにバラの香りがするのですが、さすがに恐ろしくてフタは開けられません。

 私はいつのまにかポプリ作りとは縁遠い生活を送るようになってしまったけれど、『なかよし』がきっかけで大人になってからもポプリやハーブに親しんでいる人は結構いらっしゃると思います。そんな人にとっては、大人になっても続けられる趣味を見つけられたのは『なかよし』のおかげでもあるのでしょうね。

 雑誌は世に連れ人に連れ変化していく生き物のようなものなので、世の中の流行・嗜好が変わってきたり、次の世代の作家が出てきたりすると、雑誌はまた別のスタイルを見せていきます。実は私が気付けなかっただけで、昭和30〜40年代にも当時の読者が感じ取っていた両誌それぞれの持ち味があったのかもしれません。ですが、本格的な漫画雑誌に変わってから初めて、正反対ともいえるほどの明確な個性が出た昭和50年代の両誌は、とても興味深いものといえるのではないでしょうか。

 参考文献:『別冊太陽子どもの昭和史 少女マンガの世界2』平凡社 1991年


2004年6月9日更新


13.『りぼん』ハイセンスなお姉さん
12.キャラクター時代へのカウントダウン
11.あの先生のグッズがほしい
10.ニュースとふろく 昭和30・40年代
9.スターはいつまでもスター
8.遠い世界に思いをはせて
7.ステキな衣裳を着てみたい
6.気分はバレリーナ
5.おしゃれ小物
4.ふろくでお勉強
3.別冊がいっぱい
2.『りぼん』『なかよし』が生まれた時代
1.ふろくって何?


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