まぼろし書店神保町店/第18回は『日本の夏・花火と夏祭り』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)
日本の夏。と来ればやっぱり「花火」です。
どーん!と視界いっぱいに大玉が開いた瞬間、本当に無心になりますよね。
あの瞬間を味わうためなら、何度でも祖母を危篤にしますとも。
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●「日本の花火」
ちくま新書 670
小野里公成
筑摩書房
978-4-480-06374-8
税込価格998円 |
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日本全国では、数千の花火大会が開催されるといいます。その中から著者が厳選した花火大会の情報を、花火好きのツボを押さえて解説した、コンパクトながらも中身の濃〜い本になっています。
一般客向けの観覧環境が冷静に記述されていて、非常に親切で実践的。
鮮明な花火の写真はそれだけでも十分見応えがあり、「十号・三重芯変化菊(株式会社磯谷煙火店)」とキャプションで花火業者名もわかるのが、心憎い工夫。
それぞれの花火大会の、見どころの演目の特徴やプログラムの妙味が、極めて具体的に表現されているので、花火フリークの心を刺激し、いてもたってもいられない心地になってしまいます。『この大会の特徴はまさに花火そのものの質の高さにある。物量よりも見応えで勝負の業者が担当するだけに、一発ずつの比類無きできばえと削ぎ落された玉数で繰り広げられる花火世界は、独特の魅力と圧倒的存在感を放っている。(「海の日」名古屋みなと祭花火大会)』見たい!見たいよぅ〜!!
スターマインとは、花火の名前ではなく「打ち上げの方法」を指す…って、知ってますか?
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●「花火の本 線香花火から、
仕掛花火のスターマインまで」
冴木一馬
淡交社
978-4-473-03177-8
税込価格1,575円 |
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こちらは「花火図鑑」的にとことん花火を解説している本です。前置きの解説などが無く、いきなりスターマインの写真から本文に入ってくれるのが嬉しい。とにかく花火が見たいわけなので、スターマイン・割もの・ポカものとカラー写真で延々と紹介してくれる前半でかなり満足ですよ〜。花火の歴史や、全国の花火グッズ紹介なども押さえていますので、ちょっとした花火うんちく話を仕込む事も可能。
私のお勧めは「声に出して読みたい花火の名前」遊び。花火の名前(玉名という)は、その花火の性質・見え方を決まりに則って表現していながら、本当に美しい言葉で構成されているんです。
八重芯紅菊先霞草(やえしんべにぎくさきかすみそう)。昇り紅竜芯入り菊(のぼりべにりゅうしんいりぎく)。昇り朴付芯入り千輪変化牡丹(のぼりぼくつきしんいりせんりんへんかぼたん)。声を出してゆっくり読み上げると、何だか久方振りに、胸のときめきを感じるのでした。
[こんな本もあります]
・「東京屋形船あそび」/青幻舎/978-4-86152-019-8/税込価格1,260円
花火見物には「屋形船」という大人の選択肢も。下町情緒も味わいつつ、ちょいと優雅な花火見物なんて良いではありませんか。ただし、乗物酔いなさる方は、事前に薬を飲んで行かれる事を、強くお勧めいたします(経験者は語るです)。
・「夏と花火と私の死体」/乙一/集英社文庫/978-4-08-747198-4/440円
今回のまぼろし文学はこちら。いっさいの先入観なく、読んでいただきたい逸品。
そして、日本の夏といえば。夏祭り、お神輿、祭装束の粋な男たち、 盆踊り、 縁日ですよね。
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●「江戸の心意気『祭り』がわかる」
落語カルチャーブックス・
志ん生で味わう江戸情緒1
凡平
技術評論社
978-4-7741-2405-6
税込価格1,974円 |
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「お祭り気分」を満喫するために、周辺知識を押さえておきたい方は、この至れり尽せりの一冊で決まりでしょう。
付録のCDで志ん生落語を愉しみながら、江戸の風物の解説をながめるうちに、山車と行列・市と縁日・火事と喧嘩は江戸の華……などなど江戸っ子の心意気がちょっとずつわかってくるというしくみです。
[こんな本もあります]
・「『日本の祭り』はここを見る」/祥伝社新書053
八幡和郎・西村正裕/祥伝社/978-4-396-11053-6/税込価格819円
民俗学的に向学心が芽生えた方はこちらをどうぞ。祭りの用語集もついていて懇切丁寧な作り。
・「奇妙な祭り 日本全国〈奇祭・珍祭〉四四選」 角川oneテーマ21 B-96
/杉岡幸徳/角川書店/978-4-04-710103-6/税込価格760円
さらにディープな知識欲が芽生えた方には、こちらはいかがでしょうか。「奇祭?という事は▽▲や▲△を$#◎ %に祀ったりしちゃってるのであろうか」という、貴方のまったりした期待を上回る、不思議なお祭りが大集合しております。
・「とんまつりJAPAN 日本全国とんまな祭りガイド」/集英社文庫/みうらじゅん/978-4-08-747724-5/税込価格580円
ディープな知識をディープな文章(とイラスト)で読みたい時には、やっぱり「みうらじゅん」。「奇妙な祭り」と読み比べると、みうらじゅんの意外に冷静な文章構築力に感心させられます。しかし、2册でほとんど祭が重複していないんですよね、日本全国には一体どれだけの奇祭が??
・「つな引きのお祭り」たくさんのふしぎ傑作集/福音館書店/978-4-8340-2137-0/税込価格1,365円
東北にも、沖縄にも、そして世界のいろいろな国で、「つな引き」がお祭りとして行われている。 カナダのイヌイットは「耳にひもを引っかけて」つな引きをするんだって。「うちのお祭り」に夢中な子ども達の元気一杯の写真で、心を浄めましょう。
さて、気を取り直して、祭りの花形である「祭装束」の本を紹介いたします。
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●「祭と鳶/ワールド・ムック 422」
ワールド・フオト・プレス
978-4-8465-2422-7
税込価格2,900円 |
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日本全国の祭を練り歩き、撮影・取材をかさね、神輿や鳶装束の男たちと祭の興奮を臨場感たっぷりに再現した熱い写真集。
写真・図版・コラムなど満載のこの本ですが、圧巻は後半の「鳶装束」部門。鳶の歴史が語られた後は、現在の鳶装束のあらゆるアイテムについて詳細な解説が。「ニッカー勢ぞろい」「地下足袋百選」はとてつもない力作。鳶の歴史は1ページだったのに「地下足袋の歴史」には8ページが費やされているあたり、素直に表現された著者の情熱が微笑ましく、付録の「現行寅壱型録」を何故か熟読してしまう私なのでした。
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●「印半纏 祭の日の必需品−
しるしばんてん」
岩田アキラ
青幻舎
978-4-86152-057-0
税込価格1,260円 |
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地名や連の名が誇らしげに踊る印半纏の後ろ姿。いや、全く眼の保養です。いろいろな意味で。江戸から続く意匠を凝らした印半纏、その雛形図版も資料として豊富に収録されています。江戸火消しの人たちの印半纏、職人が仕事師としての自負を込めた印半纏、江戸の華ですねぇ〜。
○こんな本もあります。
・「噺家の手ぬぐい 江戸の粋が詰まった、愛すべき小道具たち」/五明楼玉の輔/日東書院本社/978-4-528-01884-6/税込価格1,575円
祭装束の仕上げは、お気に入りの手ぬぐいできりりと鉢巻。小紋など、モチーフが小さな柄の方が鉢巻に映えるそうです。
お祭り野郎達と同じく、手ぬぐいが重要な小道具なのは落語家さん達。高座では演目に合わせて柄を選び、毎年お馴染みさん方に配るオリジナル手ぬぐいは楽しい趣向を凝らして…と、彼等のこだわりと愛情が伝わる、これまた粋な一冊です。
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●「懐かしの縁日大図鑑」
らんぷの本
河出書房新社
978-4-309-72730-1
税込価格1,575円 |
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わたあめが出来上がっていく行程がたまらなく面白くて、延々と見てしまう子ども。自分はやらないくせに、ほかの子が金魚すくいに挑戦するのを「あ〜、惜しかったね」などと寸評している子ども。温存したはずのお小遣いで、結局、ひょうたん型の入れ物に入った七味唐辛子とか買ってしまって、「何に使うの」とあきれられている子ども。それは私です。
わたあめ、カルメ焼き、ハッカパイプ、金魚すくい。ヨーヨー釣り、射的、輪投げ。「懐かしの縁日大図鑑」のページを開くと、あの時、境内を何周も何周もして心に焼き付いた縁日の光景が、鮮やかによみがえって来ます。昭和玩具コレクションのページには、迷いに迷って購入したのに、いつの間にかどこかにいってしまった、懐かしいあのおもちゃが掲載されているかもしれませんよ。
お出かけして見る大きな花火大会は心踊るイベントですけれど、地元のお祭りでの花火を、お寺の境内や、自宅の縁側からのんびり眺めるのも、また格別のものです。ビールと枝豆、まぼろし書店で選んだお気に入りの一冊で、今年の花火を楽しんでください。
第18回『日本の夏・花火と夏祭り』、いかがでしたか。
皆様からのリクエスト・情報提供など、心よりお待ちしております。
どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。
『屋根裏部屋の旅行鞄』
『やられた!』
『渦巻き(二の巻)』
『渦巻き(一の巻)』
『まぼろし書店のおすすめ新刊/2005年・赤の巻』
『まぼろし書店のおすすめ新刊/2005年・黒の巻』
『万博と近未来の夢』
『雪月花のこころ/桜の巻』
『懐かしの町・街角散歩/後編』
『懐かしの町・街角散歩/前編』
『だまされる快感』
『秘密基地大作戦』
『疾風の新着情報!!』
『疾風の新着情報!』
『入魂の一冊』
『名画座の時代』
『あのころの風景』
2006年7月27日更新
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