田端宏章
第3回 銭湯が消えてゆく……
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現在、東京では9割以上の家に内風呂があると言われています。家に風呂があるのに、わざわざ金を払ってまで銭湯に行く人はごく稀でしょう。そう、街から銭湯が消えているのです。
先日、5月15日に、私の勤めている出版社から『二十世紀銭湯写真集』という本を発売いたしました。約1年半の取材・制作期間をかけて、北海道から沖縄に残る旧き佳き銭湯を取材、撮影したものを一冊にまとめた永久保存判の写真集です。もちろん撮影はカメラマンの方にお願いしたのですが、車での移動や宿探し、取材拒否など、色々な面で苦労しました。その甲斐あってか、とても素晴らしい本に仕上がったと自負しています。なんだかんだでお金がかかってしまい、定価は7000円と高価な本になってしまいましたが、7000円以上の価値はある本だと思っています。
この本を企画したキッカケは、銭湯研究家の町田忍さんに出会ったことも大きいのですが、何よりも、これだけ日本の文化で重要な位置を占める「銭湯」を、誰もきちんとした形で発表していないという現実に驚いたことです。今までは町田忍さんが一人で頑張っていたのですが、大手の出版社や公共団体が全く動いていなかったことに、私はガッカリしました。やはり、平成の世の日本人は、アメリカやヨーロッパの流行に毒されてしまったのでしょうか…。そうした失望の念を抱きつつ、私は、あることを思いつきました。「そうだ、私が外国人になったつもりで銭湯を紹介すれば良いのだ」と。
浮世絵や能、歌舞伎、座禅といった日本文化は、日本人には見向きもされなくなりましたが、今では世界的に高い評価を受けています。日本の文化を見直し再評価出来るのは、皮肉なことに、今では外国の人くらいしかいないのです。
私は外国人になったつもりで、日本の銭湯について、改めて調査してみることにしました。そして、なるべく「人情味を抜いた」撮影方法で、とにかく銭湯を「記録」することに徹しました。「懐かしの銭湯」という表現をせず、あくまで「銭湯の博物学的記録」を全面に打ち出したのです。もちろん本文、キャプション全部に英文訳も併記しました。そして、外国で銭湯を再評価させて日本に逆輸入する、というような体裁の本に仕上げました。なので、本のタイトルには大きく『SENTO』の文字が踊っています。
本音を言えば、こんなことにならない方が良いにきまっているのです。カメラで記録しなければならないほど、銭湯は、もはや「貴重なもの」になりつつあります。こうした現実に指をくわえているわけにはいかない、なんとかしなきゃ、でも何もできず、しかし何もしないよりはマシだと思い、この本を作りました。
これからの時代、きっと、街の銭湯が隆盛を極めるようなことは二度と無いでしょう。低俗化した日本の現状に失望した私にとって、銭湯は唯一の安息の場なのです。そして、今なおあの輝かしい「昭和」時代を感じることのできる数少ない空間の一つなのではないのでしょうか。銭湯文化よ、永遠なれ!
(たばた ひろあき 有限会社DANぼ書籍編集部 編集員)
★発刊プレゼント!
旧き佳き銭湯の情報を全国から募集します。日本各地、今回の本で紹介できなかったところにも良い銭湯はあると思います。ナイスな情報をもたらしてくれた3名様に『二十世紀銭湯写真集』(新刊・DANぼ発行、税込み7350円)をプレゼント。<yorodu@icbiy-japan.co.jp>まで情報をメールでお知らせください。
2002年6月25日更新
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