エノケンが日大病院に緊急入院した元旦、高石友也事務所は音楽舎と名前を変えた。
すでに日本に高石はいない。
彼はアメリカで旅の空だ。
フォークのゴッドファーザー高石友也なきあとも、音楽舍はURCという魔術的音楽製造所から、自由に作品を世に送り続ける。
前年に「あくまのお話」をリリースした秘密結社○○教団は、2月に「愚」とバンド名に変えた。
ぐう。
フォークであり、ロックっぽくもあり、そしてボサノヴァ風味。
当時は、フォークとロックの論争や、日本語ロックと英語ロックの論争などが大きくあった頃。愚は堂々と、フォーク系でないコンサートにも出演した。
メンバーは、金延幸子、中川イサト、松田幸一、村上律、瀬尾一三。
愚がリリースしたのは、一枚のシングル盤だけ。
A面が「あかりが消えたら」、B面が「マリアンヌ」。
不思議な歌詞、闇と毒、そして甘さ。
透き通ったようなブレない声と、美しい音のハーモニー。
この頃の時代性なのか、いまと比べて、あまりに人の活動するスピードが速いように思う。愚もまた、すぐに活動休止、それぞれの道を歩くようになる。
あの高田渡の老成した感じ、岡林信康や高石友也の姿を消してしまう感じ、中川五郎や早川義夫のすぐに引退してしまう感じ・・・何かがいまと違う。
60年代、70年代は、怠惰な時代ではなかった。
あかりが消えたら またつけてください
目を閉じるには まだ早いの
あなたにはこの気持ちは伝わらない
わたしはこんなにさびしいのに
あかりが消えたら またつけてください
ためいきが出るのは あきらめているのね
あかりが消えたら またつけてください
暗闇にひとり うずくまっているの
あなたの面影が笑いかける
わたしは何も思い出したくないの
あかりが消えたら またつけてください
もう一度だけ わたしを見たいの
あかりが消えたら またつけてください
ベールはみんな はぎとられ
のこったのはみじめなわたしだけ
でももう悲しいとも思わない
あかりが消えたら おいのりしてください
ベッドにわたしがいたら 息がたえてるわ