タイムマシン「フォーキー」の四畳半で、ワタルとピックが眠っている。
昭和元禄のおめでたさをBGMに、時間旅行の疲れを癒そうとしていたのだ。
ようやく起き上がったワタル。今度こそフォーク・クルセダーズの調査・・・と思ったら、タイムマシンが勝手に動き出した!
驚いて飛び上がるピック。倒れたブタさん蚊取り線香がころころと転がる。
いつのまにか、ワタルとピックは再び2409年へ舞い戻っていた。
「いったい、なんなんだ! いつになったら日本のフォーク・シーンの研究が始まるんだ!?」
扉を開けて、外に出る。
いせや公園店跡ののれんをくぐり、フォークソング研究所に入ってゆく。何かタイムマシンの故障があるのかと思い、工具を取りにきたのだ。
すると、そこには、水色に燃える炎が浮かんでいた。
炎には手があって、口もあって、テーブルの上でお味噌汁飲んでた。味噌汁の中には、白米が入っている。なんだか、ものぐさな炎だ。
「ひゃあ、おばけ!」
「ふぎゃー!!」
腰を抜かしたワタルとピックの前で、謎の炎は一礼したかと思うと、勝手に喋り出した。
「ええと、わたしは、れい・・・澪という人間の魂です。この研究所の所長です」
「なんだって、所長はぼくじゃなかったのか・・・!」
拍子抜けするワタルに、炎は話し続ける。
「わたしは、きみのご先祖様かもしれない高田渡も生きていた、21世紀の人間です」
壁の額縁に、オートハープを抱えた高田渡の写真。
ワタルは、ポケットに入れておいた、がま口を思い出して、写真に向かって深々と頭を下げた。
「それで、あなたはタマシイになってからも、ここで研究を続けていたんですね。そうか、そういえばぼくもおかしいと思っていたんだ」
ワタルがこの吉祥寺に流れ着いたとき、廃墟と化した街中で、この店と、それから小さな森と池を見つけた。
「いせや」と書かれたのれんをくぐると、「フォークソング研究所」という看板があって、CDやレコードやカセットテープや書籍、それから楽器や機材と、いろいろなものが揃っていた。
それらはどこか懐かしく、しかし同時に鮮やかで新しい音楽だった。
それからワタルは、ときどき現れるピックとともに、フォークソングなる音楽の研究を始めたのだった。
「所長がいたなんて、知らなかったなあ」
「わたしも、きみたちが研究を始めてくれて、よかったです。どうも、魂だけでは、いろんなことがうまくできなくて・・・。たとえばCDプレーヤーのボタンがうまく押せません」
「ははあ、なるほど。所長、話はだいたいわかりました。しかし、いつになったら、日本のフォークソングの研究に入るんですか? 毎回、『次回こそフォークルだ!』って言ってるような気がするんだけど・・・」
ワタルがいささか呆れ顔でそう言うと、所長の魂は、その炎の色を青から黄金に変え、ぼおっと燃え盛ってみせた。
「では、ついに1967年、ザ・フォーク・クルセダーズの登場の年に行こう! ここからは、わたしも一緒に行きます」
魂は、研究所のデスクの上にあった飲みかけの珈琲を口に流し込むと、ものすごい早さで研究所を出て、フォーキーに乗り込んだ。
「炎が一緒かぁ、ますます変な時間旅行になってきたもんだ」
「畳が燃えないかニャー・・・」
そして、3人は新たな歴史の旅に出る。
まずは、もういちど、1967年へ!
きょうのエンディングテーマは、高田渡で「いつになったら」。