鴨たちが、ばさばさと羽音をたてて空に舞う。
誰もいない井の頭公園の池の真ん中に、タイムマシンが浮かび上がった。
フォーキーが、時空の波を超えて、再び2409年の吉祥寺に戻ってきたのだ。
少年ワタルは、いせや公園店の扉を開ける。
フォークソング研究所に入ると、古い机の引き出しに手を突っ込んだ。
探しものは、なんなのか。
見つけにくいものなのか。
緊張と興奮のあまり、額に汗がたらりと流れる。
ない、ない、ない。
どの引き出しにも、あれはない。
三毛猫ピックが、机の上に乗ったかと思うと、ぴょーんと壁に掛けられた額にジャンプした。
ねこパンチだ!
少年ワタルのご先祖様の写真が斜めになって、額の裏から、何かがぽとりと落ちてきた。
「これだ!」
ピックが見つけてくれたのは、がま口だった。
ワタルは、がま口の中を確認しようとしたが、開け方がわからない。
試行錯誤の末、がま口を開けるまでに、愚かなことに1ヶ月ほど経ってしまった。
でも大丈夫、こちとら時間旅行をしているのだ。1ヶ月過ぎようが1年過ぎようが、戻る未来は同じ年だ。
がま口には、確かに古い硬貨がいくつか入っていた。それから、豪儀なことに紙のお金も1枚だけ入っている。
ワタルとピックは、斜めになったご先祖様の写真を元に戻し、お辞儀をし、研究所を出た。
フォーキーは再び未来へ。
今度はほとんど日本での研究旅行になる。
1960年代の日本。
ワタルは、どうしても、1964年に発売される「かっぱえびせん」が食べたかったのだ!
そして、おませなワタルのことだ。「平凡パンチ」も読んでみたいに違いない!
そうなのだ、未来のお金では昔の日本で買い物は出来ない。
何につけても、世の中、お金である。
呆れ顔のピックだが、彼もまた、2400年代の味気の無い食べ物や人気のない街にはうんざりだった。
何か楽しいことがあるだろうか?
そして、ワタルのご先祖様らしきあの子供は成長しているだろうか?
機体は再び、超高速で玉川上水を滑走する。
大いなる歴史の針が逆戻りし、2人を昭和30年代の日本に連れていく。
カセットから流れるのは、ご先祖様かもしれない人の歌声。
「頭をかかえる宇宙人」・・・。