2409年、東京・吉祥寺。
人っ子ひとりいないゴーストタウン。
「いせや」と書かれた看板がぶら下がっている建物。
ここは「フォークソング研究所」。
少年ワタルは、ここに住んでいる。
耳元で斉藤哲夫の「吉祥寺」が流れてる。
壊れかけの古いiPodからだ。
きょうはついに旅立ちの日。
大いなる音楽の時間旅行。
ワタルは研究所を出る。
井の頭公園のボート乗り場に来た。
錆びついたジュースの自動販売機。
ある順番とリズムでボタンを押す。
お池の水が引いていく。
鴨たちがざわめいた。
真ん中にタイムマシンが浮かび上がる。
「フォーキー」にワタルは乗り込んだ。
中道通りに住む三毛猫ピックも飛び乗った。
フォーキーは玉川上水を滑走する。
玉川上水の水面がさざめく。
太宰治の幽霊が紫陽花の葉にしがみつく。
三鷹駅バスロータリー跡で眠る大トトロが目を覚ます。
スピードが増していく。
気圧と衝撃でとうとうiPodは壊れた。
ピックが持ってきたカセットテープ。
ワタルはそれをラジカセに入れる。
高田渡の「ごあいさつ」。
なんだ、あっというまに終わっちゃった。
ワタルとピックを乗せて、加速する機体。
そして三鷹駅地下でフォキーは姿を消した。
大いなる音楽の旅のはじまりです!
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1492年、コロンブスによって「発見」された新大陸は、アメリカと名付けられ、ヨーロッパの国々はこの新天地に続々と入植していった。
幾度もの戦争があった。独立戦争、インディアン戦争、南北戦争・・・。
「開拓」の名のもとに土地を踏み荒らし、「独立」の名のもとに他人の土地でドンパチをし、「自由」と「民主主義」の名のもとに海の向こうのあちこちさえも領土化し、いつだってまるで歴史がそのとき始まったかのような素振りで、先住民や黒人奴隷を差別し迫害し、そうやってアメリカという国は育っていった。
ヨーロッパからの移民たちの歌う故郷の民謡、そして奴隷として連れてこられた黒人たちのゴスペルやブルーズ。
これらが混ざり合い、いくつもの枝葉に分かれ、多様な音楽ジャンルが生まれてゆく。
その根っこは同じである。
フォークだロックだ何だというのが馬鹿馬鹿しくなる。
エンケンこと遠藤賢司がいうように純音楽、いい音楽はいい!
だから、フォークソングがどんな音楽なのかじゃなくて、それはロックンロールでもジャズでも歌謡曲でも音楽じゃなくてもいいのであって・・・。
ただ、誤解されまくりの日本におけるいわゆるフォークについて、ちゃんと書きたいのだ。
そのためには、ある時代のアメリカから物語を始めなければならない。
世の中、順序があるのである。そう簡単には、中津川には行かないのである。
記念すべき初回のエンディングテーマは、少年ワタルのご先祖?かもしれない高田渡の、「ごあいさつ」と「銭がなけりゃ」。
どうもどうもいやどうも
いつぞやいろいろこのたびはまた
まあまあひとつまあひとつ
そんなわけでなにぶんよろしく
なにのほうはいずれなにして
そのせつゆっくりいやどうも
「ごあいさつ」詩:谷川俊太郎 曲:高田渡