第9回 「青梅探石行と日原鍾乳洞」
●多摩「採石」道中記
11時15分立川発青梅行に乗る。 青梅の駅はレトロな蕎麦屋ができているなど全体にレトロな色で統一してあり、しばらく見ない間にずいぶんと変わっていた。蕎麦屋には「思ひ出そば」というのがある。“思ひ出”と字面を変えれば懐かしくなるという手法は、もう手垢がついてきてしまいましたな。
12時11分、青梅発の奥多摩行きに乗る。車窓に向けて2人ずつが座る、「四季」という列車がやってきた。
沢井駅で下車。田舎の駅なのに、なぜか簡単なスイカ(=Suica:デポジット式乗車券)の出札装置がついていて、スイカでそのままで出られる。駅を出て坂を下りきって左に行くと澤之井の売店や利き酒処がある。利き酒処ではお酒が200円。どうもお猪口がついての値段のようで、お猪口は自宅にお土産として持って帰ることができる。
おつまみが欲しいときはレジの目の前のかごのなかから好きなものを2種300円で選ぶ。昔のビジネスホテルの廊下に並んでいたようなおつまみの自販機を発見。 袋のなかに何が入ってあるかを表示してあるのを見ると、結構面白そうな珍味があるので200円を入れてダイヤルを回す。
驚くべきか、白い箱に入って出てきた。まるでガチャガチャだ。いい大人が「なんだこれは!」と大騒ぎしているのを見て、利き酒売りのお姉さんが「そのおつまみは機械の都合で袋では入らないのよ」と申し訳なさそうに弁解してくれる。いやいや別にそれでいいんですけどね。
酒造の庭を通り、多摩川を渡ると鐘付き堂があるので遊歩道のある方向へ。
鐘付き堂にはちゃんと千社札が貼られている。川は昨日来の台風の影響で大増水して流れが速い。子どもが落水したら死亡事故につながりそうだ。これから先の探石が危ぶまれる。
見晴台はキノコだらけで座る気がしない。
パンツに「男おいどん」のサルマタケが生えてきそうだ。遊歩道とはいいながら、そんなに整備されているとは感じることなく、登山道のような道を歩く。左手の山側から細い滝が流れてきたり、川の子どものようなものがあったりするので、地面はおよそ水びたしである。長靴を履いてくればよかったと思うが、電車に乗ることを考えると恥ずかしさで無理。
うのせ橋を渡り右へ行くと童謡『お山の杉の子』の歌の記念碑がある。童謡記念碑蒐集家Aさんの労力を少なくするためにとりあえず写真を撮る。すでに持っているとは思うけど。
腹がへった。途中で休憩できそうな茶寮と古民具の店「ついんくる」がある。ゆず茶やあゆ料理が名物のようだ。しかし私はゆずもあゆも好みでないため、妥協点がどこにもないので残念ながら入店できぬ。
川をはさみ大きい巨岩がある。河川スポーツをする人やスケッチしている人が多いスポット発見する。さっきから石を探しているのだが、あまり良いものがない。しかし御嶽小橋の手前で石を結構拾う。体力がなく重い石は×なので、さっき拾った妥協の石より良いものが現れると一個捨てる。
名づけて「プリン石」を見つけたのが収穫だった。わからない人はわからなくてよろしいが、いまやっている「探石」とは、昭和30年代、40年代には趣味として確立していた、川で石ころを拾っていく趣味である。 水石趣味は拾った石の外形が何かに似ているとか、表面に何かが見えるとか、そういう「見立て」の遊びであるが、わからない人はこの良さはまったくわからない。なので説得はしないし共感もいらないです。「石ころを拾って何が面白い?」と言われれば返す言葉がない……。
腹が減ったので階段を渡って道路に出ると、蕎麦屋があった。青梅にもあるが同じ名前の玉川屋という店だ。縁側のある大きな日本家屋で、レトロ好きにはたまらないたたずまいだ。 白井喬二、山岡荘八、太宰治らの色紙が店内に貼ってある。客は若いカップルが多い。若い人たちはこの色紙にはまったく興味は示していない。意識もしないのだろう、不思議だ。
私はざる650円を注文。見ていると、とろろそばを頼む人が多い。山芋が採れるこの土地ではとろろそばが名物なのだろう。でも初めて来店してなぜそれを知っているのだろう。
そばはザルにちょびっとしか盛っていないので、“うーむ、観光地盛りか”と落ち込む。しかし、それは誤解でした。食べていくと結構量があった。オッサンになったから、食べる量が少なくなったせいかもしれないのだが。
そば湯は濃い。まるで箸が立つほどにねっとりと濃い。ルチンたっぷりで健康になりそうだ。そばを食ったあとは口のなかにねぎと醤油の匂いが立ち込めて、それが引くまでの時間、「ああ、いまそばを食ってきたなあ」と思い続けるのがちょっといやである。
青梅で仕事があるため、駅へ進む。御嶽駅は立派な屋根を持つ駅で駅改札口を出てすぐのところに八百屋が出店中であった。
ゆず、みょうが、しいたけ、栗、むかご、かりん、自然薯、辛味大根、くるみ大福が売っている。かりんはどうやって食べるのかとオバサンに聞くと、
「アルコールに漬ける。のどにいいよー」とのこと。
「自然薯は採れるの?」
「そうね、もうここで何十年もやっているよ」
とチグハグな会話をして電車に乗って青梅に行き、ちょいと仕事をして、レトロなH屋旅館に泊まる。風呂場などは昔泊まったときとはかなり変わっていたが、基本は変わっていないので落ち着く。
●「日原鍾乳洞」道中記
H屋旅館で海苔と目玉焼き中心の簡単な朝食を済ませて、日原へ向かう。
青梅駅で迎えた8時42分発「ホリデー快速奥多摩号」は新宿からの観光客、登山客を満載していたので、御嶽駅からやっと座れた。御岳がそんなに人気がある観光地であるとは知らなかった。
奥多摩駅から日原へは西東京バスだが、日曜はマイカーで込むせいか、終点の鍾乳洞までは行かず、途中の東日原までで折り返し運転とのこと。
東日原からは徒歩30分の距離だがそれくらいは簡単なハイキングと思えばなんてこともない。不動産を買うときに「徒歩30分」と聞いたら引くが…。
9時30分発のバスの次は11時である。観光客が多いことを見越してかバスは増発して2台来た。駅で、まず90%は出会わない確率の知人たちに偶然会う。ものすごいビックリした! なんでここにいるのか。お互い様だろうが。彼らは鷹巣山へ登るためにやってきたという。
話しているうちに、2台来たバスをモタモタとただ見てしまって座れなくなってしまった。終点まで立ち詰めかと思ったが、途中の登山口入り口で座ることができた。バスは長野県の美ヶ原行きのバスのようにカーブの多い山道を蛇行して走る。道幅が狭いせいだろう、バスを降りて誘導をするための車掌が同乗している。
東日原からはいい感じのレトロな酒屋や民家が点在していて、歩くのに飽きない。途中に「山崎珍石店」という看板を掲げた民家があるが、定休なのかやっていない。
普通の家の玄関前をショーケースにして石屋、しかも「珍石」というからには水石趣味の主人だろう、そんな「つげ義春」の世界のような店があるとはビックリだ。
集落を抜けると風が強く、落ち葉が舞い落ちてきてうらさびしくなる。渓流の音がドウドウと轟音で聞こえる。マイナスイオンは科学的証拠がないというが、やはり気持ちがよくなる。オジサンがいる、あまりやる気のない土産物兼食堂の前にはどうやって採ってきたのか、鍾乳石が置いてある。
しかし、まだ着かない。歩いていると左側に水場があり、一石山神社に参る。千社札が貼ってある。千社札を貼る人たちはこのような小さい社も見逃さずに張るものなのだなあ。
関東最大級の鍾乳洞に500円で入洞(割引料金)。
最初は背をかがめないと進めない。とてもひんやりして夏なら気持ちがよさそう。水滴がいっぱい落ちてくる。思った以上に結構歩く。蓮華岩、白衣観音、など仏教的にいろいろなものを石に見立てている。
水きん窟もあるが音は人工だそうだ。新宮洞の最深部には広々とした地下ドームがあり、沖縄で行った玉泉洞のような感じがする。途中には心無い観光客から鍾乳石を守るための金網が張り巡らせてあったり、一円玉がびっしりと壁に貼り付けてあったり、観光客はひでぇものよと思う。実際に鍾乳石は切りとられていた。
新洞へ行くとかなりヘトヘトになる。あともうちょっとの帰り道間近の登りの階段は、サスペンスドラマに出てくるような安いアパートの鉄の階段のような音。カンカンカンとする。結構疲れて、少々危ないところもあったので油断はしないほうがいい。子供は危ない。
休憩所でお菓子を食べ、鍾乳洞裏の川原へいき、今日も石を採る。多摩川の青梅よりいっぱいよいものがある。水がきれいで気持ちがいい。
日原なんとか食堂で山菜うどん550円、帽子につけるバッチを400円で買った。私は観光地のバッチを記念に集めている。
帰りはバス停近くの「珍石店」に入ろうと歩く。途中、森林館の人に聞くと、今日はやっていないそうで残念。このあたりには石灰岩の採石会社の社宅があり、「昔は1000人はいたけど、いまは120人くらいしか住民がいない」とのこと。
森林館ではビデオを強制的に10分間見せられる。2階に古銭の展示、巨樹の資料、動物の剥製などが置いてある。土産売り場は特にない。菊花石は川乗山で出るようだが……と聞く。
森林館下の珍石店を見られないものかと、なんとかシャッターの横から目をこらしてのぞく。山崎寓の表札があったのでよほどベルを鳴らして尋ねようかと思ったが、開けてくれたはいいが、思いのほか高いものを勧められたら断るのも失礼なので遠慮。
帰りの奥多摩駅行きバスのなかから、「国際マス釣り場」とか「大増鍾乳洞」のレトロな観光施設の立て看板を見た。特に鍾乳洞のほうは小さい感じだが「白さ抜群!」と洗濯洗剤のようなコピーが目新しく映った。「白さ抜群って」すごいコピー……。
駅前の食堂で「のりまき」を食べた(1桶にカンピョウ巻が3巻なので、同じ味が続いて辛かった)。そしてレトロ風情のお土産屋(駅前に古いお土産屋が多いのです)で「奥多摩羊羹」、農家が漬けたわさび漬けなどのお土産を買い込む。
帰宅は奥多摩始発の電車。疲れた体を着席して休むことができたので助かった。
2009年10月14日更新
第8回 「会津若松・野口英世青春通り」の巻 後編
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