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トランポリン・松岡

トランポリン・松岡

第四回『青春マスターベーション』


 ここだけの正直な話、最近は手帳に書かれたナニ日印の青丸が滅多になくガチョーンと言いそうな僕であるが、そんな僕でも懐かしい中学生の頃はセックスの虜で燃える日々を過ごしていたのだ。
 中一の僕は、夜はテレビで、SFアニメの流星号応答せよで始まる三十世紀の未来からやって来たタイムパトロール隊員のスーパージャッターや、網ヘルが少し自衛隊風ながらポッチャリ顔で大人気の忍者部隊月光などがあるので、放課後に家からセックス関係の本や雑誌を持ち出して文ちゃんの所に自転車でよく出かけていた。

忍者部隊月光

青春時代のトランポリン・松岡  何も知らず勉強会と勘違い。勉強頑張ってネと言っておばチャンが出してくれる砂糖たっぷりの甘いインスタントコーヒーとカステラを楽しみながら、実は、文ちゃんと僕は、クラスの一部で噂のマスターベーションの方法を知りたくて熱心にセックス本を読んでいたのである。
 当時、僕がよく持ち出した本は、父が使っていた曇りガラス戸で両開きの本箱から出した何々世界と言う、女だけの秘境に迷い込んだ男がセックスの奴隷生活に陥り一日中セックスを続けさせられてやがて狂い死ぬといった話や宇宙人とセックスした話が載っていた季刊雑誌や、性のセや妊娠のニといった頁がある百科辞典などで、文ちゃんも、内容的に僕にはショックだった豊かな性生活といった緑色した婦人雑誌の付録本や、男女両性解剖図と言う医学的なスタイルの紺色で幅厚の本を僕に見せた。

勉強会

 豊かな性生活には、潤いを感じたらペニスを挿入といったようなどこか刺激的な説明文章が次々にあって興奮。また、男女両性解剖図には、横から見た下腹部と性器結合の線イラストが頁半分に描かれ、その性交体位での挿入は浅い深いといった解説まで付いていたが、僕たちが一番知りたい肝心のマスターベーションの具体的方法については全く掲載されてなくて、息が止まりそうなくらい興奮はしても全然役には立たなかったのである。
 そのうち二人が持ち寄るネタ本も尽きてトランプをして賑やかに遊ぶようになり、僕もマスターベーションのことでは文ちゃんの所へ遊びに行かなくなっていった。
 結局、一番肝心な精通が僕にあったのが中一の冬。文ちゃんにその困惑話をすることもなく過ぎたずっと後で、暗中模索と言うか、弄っていて偶然ピュピュッと経験してしまった文ちゃんから、僕はマスターベーションの具体的な方法を聞かされて知ったわけであるが、知ってみればメチャクチャ単純な行為に文ちゃんも僕も何だこれだけのことかと言う感じであったのだ。
 本には、手で性器を刺激すると説明があっても、具体的にはどんなふうに手で刺激するのかは書いてなかったのである。
 僕は、手軽にできるこの画期的快楽に耽ったが、擦ることで皮膚が捲れてキュッとなる感覚に先っぽから雑菌が入りそうで怖く、慣れたのは十数回経験後。中学二年の春休みに覚えた僕は、誰でもがそうであるように激しい日には数回する程の虜になっていった。
 あの頃、ケネディ大統領の暗殺事件が起こったり、男性スーツダーバンのモデルで映画俳優アランドロンやアイドルをさがせの歌手シルビーバルタンの来日が騒がれ、あの東京オリンピック開催を期に、日本は世界有数の経済大国の道を歩み始め、昭和四十年は今までとは違い時代が大きく変わりつつある感じを覚えていた僕ではあるが、不良がするものと言われたエレキギターやボーリングが流行ったくらいで中学生の僕の日常生活はそれ程大きく変わらなかったのである。
 僕の中二は、丁度あのイギリスの四人組・ビートルズが日本に来る前くらいで、ラジオから流れるヒットチャートのビートルズに夢中のヤツが結構いて教室の窓辺で四、五人集まっては英語でアッハーディズゥナイーとか歌って騒いでいたが、英語が得意でもない僕はそんな彼らを少し羨ましく思いながら、北原白秋追憶の手紙などが載っている本を読んで昼の休み時間を過ごしていた。
 家には誰もいない冬の午後、ストーブでホンワリ暖かい部屋で僕はすることもなく一人寝ころがっていたのであるが、何ともなく手で弄っているとすぐに硬く膨らみ、僕は、つい習慣になった快楽に身を委ねていった。
 若く二十四時間性が目覚めているあの頃は、勿論、オナペットといった言葉もなく、自分好みで肉感的な想像などは不要。触れる手指の刺激で簡単に快感は湧き上がっていたのだ。
 そんな頂点でプッと切れて落下して行く快感に動きを止めて僕がウッとなった瞬間、襖がスッと開いてそこには父が立っていた。夢中で、裏木戸から帰った父に全然気づかなかったのである。
青春マスターベーション
 信じられない突然のことに、膨らみ切ったナニを握りしめたまま僕は何も言えず二メートル向こうの父を見て、父もまた一瞬オウッといった表情を見せた後にユックリ襖を閉めていった。頭の中はパニック状態で、止まった時間の中にいるような僕の耳には、隣の家の白いスピッツの喧しく吠える声がひどくハッキリ聞こえていた。
 あの頃のそんな暴走する逞しさと後悔で溢れた僕の青春マスターベーションも、今では南の島の波音のように遠くひどく遠くの話になってしまい、偶に腰を浮かすと湯舟にホンワリ浮かぶ名残モノも、最近はプルッともしないで一呼吸遅れて力なく揺れる、それだけである。


2002年7月11日更新


第三回『ワッチャンの超極太チンポ事件』
第二回『中高年男性、伝説のモッコリ。スーパージャイアンツ』
第一回『トランポリンな僕のこと、少し話しましょうか。』


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