その34−オオカミ
動物園の最奥部、暗い闇の中に浮かぶふたつの目!
その目は残忍そうな光を帯び、見ているだけで寒気がします。
ぐるるるっ……不気味な唸り声まで聞こえてきました。
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日本の多くの生態学者は気づいているが、
わが国の森林が早晩消滅してしまうのは自明である。
といえば、訳知り顔の自然保護論者の声が聞こえてきそうだ。
「乱開発するからそんなことになるんだよ」
「植林で杉ばかり植えたせいに決まっているさ」
「地球温暖化のせいだろ? アメリカと中国が悪い」
ま、どれも間違えてはいないかもしれない。
が、どれも核心はついていないのである。
日本の森林が滅びるのは、もちろんシカのせいである。
あの温厚で従順なシカのせいに決まっている。
シカにそんな破壊力はあるまい、などと侮ってならない。
なんとなれば、シカは案外大きな動物なのである。
日本の森でシカより大きな動物など、
カモシカかクマくらいしかいない。
カモシカがいるのは岩場のある山岳地帯だし、
クマが棲んでいるのは奥深い森林の中である。
この2種に比べたら、シカは桁違いに数が多い。
大きいうえに数が多い、ここが問題である。
シカはその大きな体を維持するために、
毎日大量のえさを食べねばならないわけだから。
奈良公園のシカならば、鹿せんべいにありつける。
しかし、野生のシカは自力で食べ物を探さねばならない。
シカのえさはご存じのとおり、草である。
毒草以外のありとあらゆる草を食む。
数多くのシカが毎日大量の草を食い、やがて子ジカを産む。
子ジカはバンビちゃんと人から愛され、
邪魔されたり妨害を受けたりすることなく、ぐんぐん育つ。
その過程でまた大量の草が消費される。
草がなくなりゃ木の芽を食べる、果ては樹皮まで食べる。
かくして日本の森林は崩壊する、はずである。
シカは太古の昔からいるのに、森は存在しているじゃない。
そういう反論があろうかと思う。
それは正しいが、物事の一面しか見ていない。
いま日本の森で急速に鹿口密度があがっているのは、
天敵がいなくなったせいである。
太古の昔からいたオオカミが絶滅したためなのである。
ニホンオオカミは1905年に吉野で捕まった個体を最後に
絶滅したと考えられている。
オオカミがいなくなって100年が経ち、
いま日本の森ははシカの王国なのである。
絶滅したはずのオオカミであるが、
なぜかときどき目撃情報が寄せられる。
この獣にとりつかれたあまたの人がいまも捜しているのだ。
秩父で見ただの、日向に現われただの、吉野で遇っただの、
人騒がせな情報の大半はガセないし野犬の見違いである。
しかしなかには真実味を帯びた目撃談もないではない。
オオカミ=大神であるから、
この人は幸運にも森の神さまに出くわしたのかもしれない。
オオカミはかように神秘でロマンに満ちた絶滅動物である。
オオカミの持つロマンのことを狼漫と書き記す次第である。
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【ニホンオオカミ】
オオカミは食肉目の哺乳動物で、ユーラシア大陸と北米大陸の温帯
から亜寒帯地帯に広く分布する。日本にはニホンオオカミとエゾオ
オカミの2種類が生息していたとされるが、いずれも絶滅している。
このうちニホンオオカミは大陸産のハイイロオオカミの亜種という
説と別種という説がある。
※画像提供…さえきあすか氏
2007年8月9日更新
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