エヂソンバンドとオヂサンバンドは語感が似ている。いま思いつきましたが「マジソンバッグ」ともチト似てますな。
え、あなたエジソンバンド知らないの? うーん、進んでるう。レトロなモノはそうやってどんどん捨てて忘れていかなきゃいけねえよな。
エヂソンバンドとはですね、額につける「頭がよくなる」健脳器具だ。やっぱり雑誌広告に良く出てくる「ミヤタバンド」ってのはハーモニカね。そこんとこ勘違いしないように。
戦前の大人気少年雑誌である『少年倶楽部』には、「健脳器ピグマ」という名前で広告がでていた。戦後は、同じものが「エヂソンバンド」という名前で有名であった。対抗したのか「ノーベルバンド」というのもある(これがもともとにノーベルにあやかったのか、湯川秀樹のノーベル賞受賞にあやかったのかはわからん)。
……てなこといいましたが、実はエヂソンバンドの広告資料がないのです。「少年」の昭和29年に協和製作所に「ニュー・エヂソンバンド」というのがあったのでそれで勘弁してください。
で、このエヂソンバンド、なんでこんなネーミングかというと、「エヂソン」が考案したからだという。
本当か? 本当にエヂソンが発明したのか。恐山のイタコを呼んで、エヂソンに聞いてみるぞ。いいのか?
とりあえず、エヂソンの発明リストをアメリカのエヂソン博物館のhpで見てみることにした。この一連の健脳器は永久磁力線の働きと、空冷式で頭がよくなるというのがウリなので、磁気という点に注目する。磁気を額にあてることで身体および脳に影響を及ぼすという発明なのではないかということだ。エヂソンの発明一覧をみると、マグネットということばはもの凄くたくさん使われている。めんどくさいな英語のなかを探っていくのは。10分、20分、60分。ようやく671個目の発明として、1890年の「磁気ベルト類(
Magnetic Belting)」というのを見つけました。おそらくこれがそうなのではないだろうか。特許番号は#457,343
だ。次に早速アメリカの特許商標庁のhpにアクセスして番号検索から図面をみる。まったく違う、なんつーか自転車のギヤに巻きつけるベルトのようなものだった。しょうがないからバンドでもベルトでも探してみるが、出ない。
結論としては、「エヂソンが考案した」というのは誇大広告だろう。いくらエヂソンが1000個以上の発明をしたとしても(1000といってもだいたいは同じものの改良で、まったく新しいものを1000も発明したのではないぞ)、機械に関るものが多く、人体に関するものはないのだ。
この手の健脳器は図でみるとおわかりのように、時計のバンドのようなものを額にあてる。これはパソコンや機械の放熱器である「ヒートシンク」と同じものである。ヒートシンクは熱伝導性の高い金属ブロックをシャーシーの上に沢山植えたものである。空気による熱伝導を使って、発生した熱を空気中へ拡散させるという空冷式である。これを頭にとりつければ、勉強のやりすぎで熱くなった頭を冷やし、『頭寒足熱』の状態になるわけだ。頭寒足熱とは下半身、特に足を暖め、血行を促進して各細胞に酸素と栄養素を運び、老廃物・体毒を取り去って体を活性化させる状態だ。
それが「頭を良くする」というのはしないよりもいい効果を産むだろうからある程度理にかなってはいる。
もうひとつの謳い文句である。「永久磁力線の働きでイオンの作用で血液を良くする」(「少女」昭和35年掲載の「マンテン増進器」より)というのも、あながち嘘ではない。
磁気治療器は、薬事法で「血行をよくする」と効能の表示をしてよいことになっているのだ。
中学校の理科で習ったと思うが、イオンとは、プラスまたはマイナスの電気を持つ原子のことだ。血液の中には、いろいろな成分が溶け込んでいて、一部はイオンに分かている。なお、原子にはイオンになりやすいものとなりにくいものがあり、すべての原子がイオンとなっているわけではない。磁気を作用させると、血液の動く運動エネルギーの一部が電気エネルギーに変化し、血液中に新しい電気が発生し、その電気によって、今までイオンになっていなかったものが、イオンとなる(イオン化)。血液中のイオンが増加すると、自律神経に作用し、流れの悪くなった血液の循環をよくする命令を自律神経に出させるのだ。血液の循環がよくなれば、体の隅々に酸素を送り込み、老廃物を早く取り除く事で、肩こり、腰痛、便秘などに効果がある。
要するにエヂソンバンド系の健脳器は、空冷で頭を冷やしたり、磁気を作用させることで血液の流れをよくするのだ。
インチキなように見えて実は科学的に説明できるというシロモノだったのである。ただし、勉強は集中力だとか、記憶力などが必要なので、血行を良くしてそれらが改善されるというのは完全には請け合えないだろう。
ところで薬事法の改正や景品表示法などの関係で、あまりにも誇大表示な効能・効果は謳えなくなっている。消費者を守るという観点からいいことだが、世の中からオカシナものやイカガワシイものを全て駆逐してしまうのはどんなんだろう。たまにはちびっと騙されてもいいんだがな。いま、エヂソンバンドが復活したら売れるような気がしないでもないけど無理なんだろうなあ。
●書き下ろし
2002年11月8日更新
第3回「スパイカメラ」の巻
第2回「コンプレックス科 体重・体格類」の巻
第1回「コンプレックス類 身長科」の巻
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