南陀楼綾繁
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【前編】
金曜日。夕方、仕事場にライターの岡崎武志さんが打ち合わせに来た。「今日は暑いのお。今週は神田も五反田も高円寺もそれから京王もあるやろう。きっと死ぬヤツでるんちゃうかな、ヒッヒッヒ」。
解説しよう。東京では、神保町と五反田と高円寺に「古書会館」があり、そこで古本市が開かれる。神保町はだいたい毎週開催で、五反田は月一回、高円寺は月に3回といったところだ。しかし今週は、その三カ所で同時開催(神保町=金・土、五反田=金・土、高円寺=土・日)される上に、新宿の京王デパートでも古本市が開催中なのだ。
べつに、わざわざ全部行かなくても一向に構わないハズなのに、古本好きの連中はかならず全部行く。それがアタリマエなのである。その証拠に、「死ぬで」と云った岡崎さんのリュックには、すでに昼間、五反田と神保町で買い込んできた古本が十数冊おさまっている。コレはかなりキツイ週末になるぞ、と覚悟を決めた。
7時過ぎに、大江戸線の牛込柳町駅に向かって歩く。ちょっとヒマがあったので、〈ブックオフ〉を覗く。ココのところ、5年ぐらい前のマンガが読みたくなったが、新刊書店でも一般の古書店でも手に入りにくいので、しかたなく(あの明るさと元気良さがウザイので)出入りするようになった。
『銀花』のバックナンバー
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今日はマンガに収穫なし。その代わり、奥の雑誌コーナーに『銀花』(文化出版局)の初期の号が50冊近く並んでいた。豆本蒐集家としても知られる今井田勲が編集長だった時期で、古書や限定版に関する記事が満載されている。古書価がけっこう高い雑誌なのに、一冊100円はあまりにも安い。コレから出かけるというのに、目次を見ながら30冊選び、ビニール袋に詰め込んでもらって、浅草まで死ぬ気で運ぶ。暑くてツライ。ヨメの旬公に会い、「コレ、全部『銀花』だよ」と云うと、「エライ! よく買った」とホメてくれ、半分持ってくれる(ヘンなヨメだ)。
合羽橋の喫茶店「オンリー」
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旬公と待ち合わせたのは、合羽橋にある〈オンリー〉という喫茶店の前だ。この店、「魔性の味」コーヒーというのを出していて、旬公は以前にも飲んだことがあるという。以前からそのハナシを聞いていて、やっと合羽橋に来るついでができたのだが、残念ながら営業時間は終わっていた。看板には、たしかに「魔性の味」と書かれていた。
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さすがに合羽橋。
段ボールハウスも
どことなくセンスがいい。
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合羽橋道具街の味わい深いショーウィンドーを眺めながら歩き、商店が途切れるアタリで左に入ると、〈なってるハウス〉があった。こんなトコロにライブハウスがあるなんて、サイトを見てはじめて知った。ライブハウスには珍しく一階にあり、テーブルが数席の狭い店だ。ステージは申し訳程度に高くなっているだけ。要するに、演者と客の距離がとても近いのだ。
店に入ると、先客が数人。その一人は、今日、ソロで演奏するピアニスト渋谷毅だ。ジーパンにシャツというラフなスタイルで、本を読んでいる。この間、江古田のライブハウスで偶然このヒトのピアノを聴き、それ以来、すっかり気に入ってしまい、京都でもソロを聴いている。8時半になると、渋谷は「やりましょうか」と立ち上がり、ピアノに座ってすぐ弾きはじめる。ナンて繊細な音色だろう。マスターも入れてわずか6人の客で、渋谷のソロを聴けるとは、ゼータクな気分。休憩を挟んで、10時過ぎまでに2セット。10数曲を聴き、満足して店を出る。
入谷の交差点近くでまだ開いていた古本屋を覗き、マンガを数冊。タクシーで西日暮里まで帰り、お気に入りの韓国料理屋へ。ソウルで食べたコトのある料理はだいたい揃っているし、安い。朝5時までやっているのもイイ。トガニタン(牛の膝軟骨のスープ)にご飯をブチこんで喰うと、なんだかホッと生き返る。「マシッソヨ」(うまかった)と店を出る。いよいよ明日は、古書展に出陣じゃ。(この項続く)
2002年9月4日更新
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