イラスト・もりたあゆむ

レ ト ロ ス ポ ッ ト ガ イ ド 「 ま ぼ ろ し 酒 場 」

名酒と肴をたっぷりと！こたな木

　東京・江戸川区の中央部に一之江という町がある。かつて「葛西田圃」とよばれた江戸川西岸の沖積地。南部の江戸川三角州はハス栽培と金魚、コイの養殖が盛ん。現在でも春江町にかけて日本を代表する養殖場である。
「日本地名百科事典」（小学館）
　今回紹介する「肴こたな木」は、一之江の住宅地の一角にひったりと佇んでいる店だ。俗に、ひなにはまれなという表現があるが、まさにこれがピッタリである。

　都心からやって来たら、東京の外れにこんな店が！と一驚するに違いない。寡黙な主人は、一流店で修業しただけあって、腕前は一級品だ。同様に寡黙な妻と、二人三脚で営う良心的な店である。
　ただ俺が住む葛飾区からこの店のある一之江に来るのは、交通事情がいささか悪いのが難点だ。一番時間が確実なのは、京成立石より浅草線の東日本橋へ出る。そこから新宿線の馬喰横山より一之江までの乗り心地はたっぷりとしたものがある。JR総武線の新小岩駅前までバスに乗り、またバスに乗り換えて一之江へ行く手もある。どちらにしても少し往生する。また新宿線の21時以降は、めっきり本数が少なくなるので注意されたし。
　つまり早く店に行って、早く切り上げるのが一番だ。

　お奨めメニューは、冬場なら鍋料理がイチ押しである。大出血サービスの一人前500円は、安売り家電店並みだ。安くてもしっかり下ごしらえした味は格別！
　海鮮寄せ鍋、あんこう、肉チャンコ、かもと堂々の品揃えだ。酒は日本酒も、焼酎も旨い物がズラリと並ぶ。俺の好きなのは秋田の地酒である。
　刺身はどれも新鮮で（当然だが）、満足出来る。房総の漁師料理であるあじのなめろうを、食べてぬる燗をやればもうそこは桃源郷である。
　水槽にはいつもあじが元気に泳いでる。またこれらが切れても馴染みの魚屋がすぐに配達する（俺が先日、行った夜もそうだった）ので安心して訪れてもらいたい。

　素敵な居酒屋は、儚い磁場のようである。そこに惹かれて、今夜も男達は通って来る。
　山口瞳の名作に「居酒屋兆治」がある。これに近いムードを楽しめるのが「肴こたな木」だ。東京の下町に住む人は勿論、それ以外の人は是非一度足を運んで欲しいものだ。

■東京都江戸川区一之江6丁目
　tel 03-3652-3691
　火曜定休

文：坂口団吾

2005年４月14日更新
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