園長 ペリプラ葉古
その4−デメキン
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おやおやっ、大きな水槽が見えてきました。
泳いでいるのは、あら懐かしい、金魚じゃないですか。
子どもの頃、水の中をひらひら泳ぐ姿を愛しく感じた金魚も、
いま改めて見るとちょっと不気味じゃないですか?
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金魚はすくうものである。
とはいえ、川や池でたも網を使ってすくう獲物ではない。
縁日の金魚すくいの四角いプールの前にしゃがんで、
針金の枠に和紙を張った特製の網ですくう小物なのだ。
小物といってもあなどることはできない。
和紙の網(ポイというそうだが)はすぐに破ける。
水圧にも弱いし金魚の体重を支えるのもつらい。
うまく金魚を和紙に乗せたと思った次の瞬間、
でれんと破けてしまう。
慣れない人がそう簡単にすくえるものではない。
結果、悔しいので何度もトライすることになる。
よくできた商売である。
さて、金魚すくいのプールを久しぶりにのぞいてみよう。
ほとんどが赤くて小さなお魚然とした金魚である。
これは小赤とそのものずばりの名前で呼ばれる雑金魚。
赤白まだらで尾がみっつに裂けたワキンを作る過程で生じた
粗悪品を大量養殖したものだ。
肉食魚などの餌用にペットショップで一匹20円程度で売っている。
売価が20円ならば、卸価はいかほどのものだろう。
こんな雑金魚は何匹すくわれたって
金魚すくい屋のおじさんは痛くも痒くもないはずなのだ。
よくできた商売である。
小物中の小物の小赤にまじって、
金魚プールで人気を集めているのがクロデメキンである。
飛び出した両目とぴらぴら動く尾びれが人目を引く。
こいつを捕まえてやろうと、金魚すくいに挑戦する。
こいつ、いかにも優雅に泳ぐ貴婦人のようであるが、
ポイを近づけると、急にすばしこくなって逃げ惑う。
なんとか和紙の上に追い込んだと思っても、
小赤よりも目方が重いのですくいあげる途中で断念。
仕方なく小赤狙いに気持ちを切り替えねばならない。
ほんと、金魚すくいはよくできた商売である。
金魚すくいの事業構造を考察する項ではないので、
話をデメキンに戻そう。
運良くすくえたデメキンを、
または悔しくて金魚屋で買ってきたデメキンを
家庭の水槽に移して観察してみる。
金魚すくいのプールの中ではあんなに輝いて見えた
デメキンもこうして一匹だけまじまじと見てみると
すこぶるへんてこりんである。
不自然に突き出た目(この目でちゃんと鼻先が見えるのか?)、
花びらのようなひれ(泳ぐのに相当なエネルギーが要りそう)。
一般的な魚の規準からかなりはみ出た変わり者である。
醜いだけならもっと際立った金魚もいる。
「たま」が魚で一番悲しいと断言した、ランチュウである。
頭にこぶを持ち、背びれを欠き、ぶくぶく太った金魚。
これはもはや魚の規準から逸脱寸前である。
ランチュウやデメキンは、いわば奇形なのだ。
これらを愛玩する人の美的趣味はかなり倒錯している。
金魚は中国が発祥の地といわれるが、
さすが纏足を生んだ国民の独特の感性である。
ランチュウもデメキンも、育てるのが難しい。
過剰に人工的な生き物なので生命力もかぼそいのだ。
人が面倒を見なければすぐに死んでしまうという意味では
確かにペットの鑑といえなくもない。
これらに対して小赤はしぶとい。
金魚すくいでゲットして育てた経験がある人も多いだろうが、
うまく飼えばやつらはどんどん大きくなる。
そしてある程度大きくなると、実にたくましく生きる。
水槽が狭くなって近所のどぶ川に放しても、
地元のフナに混じってちゃんと一匹生きたりもする。
雑金魚と呼ばれようが、餌用の魚として売られようが、
千載一遇のチャンスを生かして川に戻れる可能性は
小赤のほうが高いのだ。
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【金魚】
フナを人工的に改良してつくった愛玩用の淡水魚。
日本には16世紀頃、中国から伝わったといわれる。
ワキン、リュウキン、デメキン、ランチュウ、スイホウガンなど種類が多い。
*たま
奇妙にねじれたポップセンスを売りに音楽創作を行うフォーク系グループ。
80年代から知久寿焼、柳原幼一郎、石川浩司、滝本晃司の4人編成で
インディーズ界にて活動を続け、「イカ天」への出場を経て、
90年「さよなら人類」でメジャーデビュー。
95年に柳原が脱退後は3人で活動。
文中の「らんちう」はシングル「さよなら人類」とカップリングされた名曲。
2002年9月26日更新
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