さえきあすか
その7 ピンク色のお面の巻 前編
古いモノを集めはじめた時に強く印象に残る色。それはピンク……と思っているのは、私だけでしょうか。
ピンクというのは、いったいなんの色かというと、セルロイドです。
セルロイドは、プラスチックの前に使用された合成素材で、プラスチックと比べると薄く、押さえるとベコベコと音がします。日本では明治時代から使われてきましたが、主要原料である樟脳が安価で、色彩、仕上がりが美しく、加工がしやすいために、昭和初期には玩具を中心に、たくさん海外に輸出されたそうです。
けれど、セルロイドには弱点がありました。引火性が強いのです。昭和7年に東京・日本橋の白木屋デパートでの出火が、セルロイド玩具に引火して大惨事になりました。この事件をきっかけに、不燃性のセルロイドが開発されましたが、あまりにもコストが高く、苦悩していた矢先、プラスチックにその座を取って変わられ、姿を消していったのです。
また、セルロイドは、玩具はもちろんのこと、筆箱や下敷きなどの文房具から、石鹸箱、水筒などの生活雑貨まで、さまざまなモノに利用されました。余談になりますが、セルロイドの筆箱で、フタが真ん中から割れてしまった時は、線香で両方に穴を開け、毛糸など太めの糸でつなぎあわせて使っていました。火で簡単に穴が開くことを知っていたのですね。以前にそんな修理を施された筆箱を見かけたことがあります。モノがなかった時代を偲ばせる、大切に使われた筆箱でした。
ピンクが使われているセルロイド製品といえば、なんといっても玩具です。キューピーなどお人形をはじめ、浮き玩具、ガラガラ、お面など、すごくきれいなピンクなんです。
古いモノに興味を持ちはじめた当初、はじめていった自由が丘のアンティークショップで、白い医療ケースの中にキラキラと輝いている、ピンクのキューピーたちを見た時の新鮮な印象は、忘れることができません。どういうわけか、医療ケースってディスプレイ用の棚として人気があるのです。うっとりと眺め、あこがれの色に変わりました。
時は流れて今年の6月30日のこと。東京・平和島にある流通センターにて、年5回開催される骨董まつりの最終日、それもお昼過ぎに会場に入った私は、それぞれのお店が片付けはじめた様子を横目に見つつ、大慌てでまわっていました。その時です。思い入れのあるピンクが、強烈に視界に飛び込んできたのです。
(後編につづく)
おまけ:私の本を見てほしいのです。その1
『ガラクタをちゃぶ台にのせて』 さえきあすか著 (定価2,100円)
晶文社(http://www.shobunsha.co.jp/)発行
「ネクタイ更正器、博愛マスク、オゾンパイプ、無針紙綴器‥‥これって、なんだかわかるかな? いまだ骨董とは呼ばれない、名もなき生活道具から、珍妙でハイカラな暮らしぶり発見」と、ピンク色の帯に書かれた本です。昭和戦前に生まれた、ヘンテコなガラクタがいっぱいです。
2002年9月9日更新
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その6 ベティちゃんの巻
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