イラスト・もりたあゆむ
レ ト ロ ス ポ ッ ト ガ イ ド 「 ま ぼ ろ し 酒 場 」
堂々の店構え、銀座・秩父錦
気の利いた幇間ならきっとこう言うに違いない。「誠に乙でげすな」 こんな酒蔵が銀座の秩父錦だ。今回紹介する秩父錦は、月光仮面のように誰でも知っているので「まぼろし酒場」のイメージとは少し合わないが勘弁して欲しい。百聞は一見に如かずと言う。とにかく一度訪ねてくれ!
堂々たるつら構え、いや店構えに圧倒されるだろう。周囲のビルに目をつむれば、明治時代にタイムスリップした気分になって来る。
まるで古武士の如き風格がある。往年の名大関である琴ヶ浜や北葉山に通じるものが感じられる。
酒は秩父錦一本だ。この銘柄も一時はまぼろしと呼ばれたこともある。かつて「中洲通信」で健筆をふるった伍東道生は、この酒を求めて秩父路を旅した話を聞いたことがある。やっと一本購入して帰りの電車に乗るため駅に着いた。何と!駅の売店に秩父錦がズラリと並んでいる光景を見た伍東の落胆ぶりが目に浮かぶ。
黒光りしたカウンターは、つわもの共が夢のあと、といった趣が充分でこれから飲む酒の味を引き立ててくれるに違いない。つまみも値ごろで豊富に揃っている。酢豆腐何て出さないから安心してくれ。
俺のイチ押しは鯛などの高級魚を原料にしたさつま揚げだ。ほのかな甘味が、酒をまた旨くする。刺身も良い、何といっても東京の台所、築地市場が目と鼻の先だ。新鮮なことは太鼓判を押す。
冬ならおでんの盛り合わせもイケるぞ。夏の冷酒も悪くないが、秋から冬の燗酒はキリっとした辛口で申し分ない。
本好きなら昭和通りを渡って奥村書店を覗くのも悪くない。ここは俺の好きな芸能、映画関連の書籍に掘り出し物が多い。知る人ぞ知る古書店である。先日など「円谷英二特撮世界」(勁文社)を何と800円で買った時は思わず心の中で笑い出したほどだ。まあ夕方、奥村書店で好みの本を入手したらその足で秩父錦へなだれ込んで欲しい。たそがれ時から一杯やるのも大人の休日の楽しみとしては最高じゃないか。ある小説には、俺が紹介した両店も登場したらしい、というのはこの本を読んでいないから正確なことは判らない。居酒屋の正統派、秩父錦の発展を祈りたい。
文:坂口団吾
2005年8月10日更新
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