夜明け編(1970)の最近のブログ記事

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「ぼくのしるし わらべうた24」というアルバムが、URCから発表された。
有馬敲の書いた子供向けの詩を歌にしているものだ。
彼は、60年代後半からフォークソング運動に関わってきている。
曲をつけて歌うのは岩井宏、バラーズ、マヨネーズ。
童謡はフォークソングとなり、フォークソングは童謡となる。
そこには人間臭い情念の濃密さもなければ、強い政治的思想表現もない。
岡林信康の失踪劇もないし、五つの赤い風船の巫OLK脱出計画もないし、高石事務所の不正に見切りを付けて東京を去った高田渡もいない。
主張や抵抗と同じくらい大切なことは、見ること。
小さなものを見つめる。
歌は宿っている。
あらゆるところに。
初期の相棒・高田渡と一緒に、風刺に溢れたコミックソングを歌うことも多かった岩井宏だが、ここでは、ほのぼのした岩井宏的世界。
のちの彼のソロの曲タイトルを並べれば、よくわかる。
「かみしばい」「赤ん坊さんよ負けるなよ」・・・。
尖ったアタマに童謡。ロックやプロテストからの解放。
いつの時代にも、子供はいる。
列島1億人の子供たち。
フォークだロックだ70年だと言っても、人間みんな、結局は子供だ。
バンジョーの深い音は、生まれてくる前の記憶に通じている。


 ぼくのはなぺちゃ だれににた
 だれにもにない ママににた
 うさぎがにひき いえにいる

 ぼくのべたあし だれににた
 だれにもにない パパににた
 やもりがにひき いえにいる

 ぼくのでべそは だれににた
 だれにもにない ぼくのもの
 ぼくがぼくである しるし


 「ぼくのしるし」詩:有馬敲 曲:岩井宏


ぼくのしるし わらべうた24

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大阪万博花盛りのその眩しさの影で、たとえば五つの赤い風船は、3枚目のアルバム「巫OLK脱出計画」をリリース。
「巫」は「フ」という読みもあるので、つまり「巫OLK」は「フォーク」である。
すでに「フォーク」という言葉には大きな意味が付随してしまい、聴衆の期待は歌い手を苦悩させた。
フォーク、巫OLK。ふぉーく。
運命背負ったバランス感覚。一級のひねくれ根性。
2枚目のアルバムのときから、メンバーの流動がある。
1969年9月に中川イサトが脱退し、10月に東祥高が加入している。
東祥高はピアノ、フルート、ビブラフォンなど様々な楽器を担当した。
ボーカリスト藤原秀子、ベーシスト長野隆。
そして、マエストロ西岡たかし。
西岡たかしのつくり出す歌は、笑えない。
わかりやすい感動は求めない。
歌詞にはたとえば固有名詞は出てこないし、その視線の行き先も何か特有のものにはいかない。
反戦のメッセージさえも、叙情的な美しい文学となる。
そのくせ歌の合間のトークでは、関西人らしく観客を笑わせる。
しかし、歌では笑わせない。
キザだ。
理論的に叙情的な作品をつくる音楽家。
熱いからこそ、どこまでもクール。
ポップでダークで、それでいてメルヘン。
そんなミュージシャンは、時代が決定し要求してくるイメージから「脱出」せざるを得ない。
「巫OLK脱出計画」収録曲の「殺してしまおう」は、数ヶ月後、放送禁止となる。


 かわいそうだけど 殺してしまおう
 おれのペット達を 君のペット達を
 かわいそうだけど 殺してしまおう
 君のペット達を おれのペット達を
 世界がもうじき暗くなってしまうから
 かわいそうだけど 殺してしまおう
 君のペット達を おれのペット達を

 かわいそうだけど 殺してしまおう
 おれのペット達を 君のペット達を
 かわいそうだけど 殺してしまおう
 君のペット達を おれのペット達を
 世界がこんなに 狂ってしまうから
 かわいそうだけど 殺してしまおう
 君のペット達を おれのペット達を

 今すぐみんながみんな いなくなってしまうから
 かわいそうだけど 殺してしまおう
 君のペット達を おれのペット達を


 「殺してしまおう」詞・曲:西岡たかし


巫OLK脱出計画

五つの赤い風船 / 巫OLK脱出計画
1. #-い ×○△×× 2. てるてる坊主 3. 小さな夢 4. 一度だけでも 5. あるいて歩いて 6. ささ舟 7. どこかの星に伝えて下さい 8. 私の宝もの 9. いやなんです 10. これがボクらの道なのか 11. バカなうた 12. 信者の唄 13. 時は変ってしまった 14. プレゼント 15. 殺してしまおう 16. 巫OLK脱出計画 17. #-ろ ××△○×

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「70メートルの塔をつくるから、大屋根の真ん中に穴をあけてくれ」
大阪万博。EXPO70。
岡本太郎は、すでにできていた丹下健三の作品に穴をあけさせた。
そして聳えた太陽の塔。
人々はリニアモーターカーに興奮し、月の石に目を輝かせた。
「戦後」から解き放たれた気になって、宇宙を夢見たりしていた。
時は経ち、21世紀。
世界はいまだに平和にあらず、ますます混迷を極め、しかし科学や文明ばかりが進み過ぎている。
「人類の進歩と調和」という言葉と万博の熱気が日本中に踊っていたとき、あのフォークシンガーたちは何を思っていたのだろうか。
岡本太郎は塔の内部に、無名の人たちの写真をたくさん展示した。
歴史をつくってきたのは、名もなき人々。60年代後半に現れたフォークシンガーたちもまた、「無名の人」である。
ぐるぐると時代をうねる、混沌と狂乱の島国。
BGMは、フォークもロックも歌謡曲もごちゃ混ぜに。
太陽の塔は、3つの顔でその様子を見据えていた。
世紀を超えたいまも、大阪吹田にそれはある。
三波春夫の歌う万博テーマソング、「世界の国からこんにちは」が日本中に響いていた。
ここで陽気に歌われる「世界」とは、あのURCのシンガーたちが歌う「世界」とほんとうに同じだろうか。
塔の内部には、人類誕生までの歴史の模型に、世界のお面や像。フォーク。
そして塔そのものは、万博自体を含む現代へのアンチテーゼ。ロック。
太陽の塔は、フォークでロックだ。


 こんにちは こんにちは 西の国から
 こんにちは こんにちは 東の国から
 こんにちは こんにちは 世界の人が
 こんにちは こんにちは 桜の国で
 1970年の こんにちは
 こんにちは こんにちは 握手をしよう

 こんにちは こんにちは 月の宇宙へ
 こんにちは こんにちは 地球を飛び出す
 こんにちは こんにちは 世界の夢が
 こんにちは こんにちは 緑の丘で
 1970年の こんにちは
 こんにちは こんにちは 握手をしよう

 こんにちは こんにちは 笑顔溢れる
 こんにちは こんにちは 心の底から
 こんにちは こんにちは 世界を結ぶ
 こんにちは こんにちは 日本の国で
 1970年の こんにちは
 こんにちは こんにちは 握手をしよう

 こんにちは こんにちは 握手をしよう


 「世界の国からこんにちは」詞:島田陽子 曲:中村八大


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Author


    藍見澪 -Rei Aimi + Folksong Institute-
    「フォークソング」という言葉の意味を再定義し、日本のフォークやロックの歴史を研究、ひいてはすべての歌に繋げる実験・・・のつもり!

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