キノコみたいな髪型をした痩せた青年。
アコースティックギターをかき鳴らし、唸るように。
唸っているからといって浪曲ではない。
確かにロックと浪曲では、音も似ていればソウルを含んでいることも似ているが・・・。
あの夏の日、ラジオから聴こえてきたオーティス・レディングの歌が、東京郊外の少年にいろんなことを教えたんだ。
忌野清志郎、19歳。
悲しい瞳のスーパースター、キヨシロー。
の、キノコの頃。
3月5日、RCサクセションはデビューした。
「宝くじは買わない」。
作曲の肝沢幅一とは、清志郎の変名。彼の父親が、沢田研二のことを何故か決まって「肝沢幅一」と言っていたことかららしい。
このときのメンバーは、国分寺市立第三中学校の同級生、忌野清志郎、小林和生、破廉ケンチ。
編成は、アコースティック・ギター2人とウッドベース1人。
それは確かに生ギターのはずなのに、エレキギターみたいな音がする。
清志郎の裡に宿された闇や情念や絶望そのほかが、6本の弦を叩くようにかき鳴らす。
美しく自由に展開されるメロディ、響くギターの音、後方で魂の鼓動を打つウッドベース、不適に笑いながら唸るボーカル。
ロックンロールとは、宝くじは買わないことだと誓ってみせた。
400万円が当たったって、もし時が過ぎて賞金が1億4000万円になったって、それでも買えないものがあると。
ROCK & ROLLとは、愛を歌うことである。
ブルーズの悪魔に魂を売ったからって、宝くじを買うためのカネはない。
宝くじは買わない だって僕は
お金なんかいらないんだ
宝くじは買わない だって僕には
愛してくれる人がいるからさ
どんなにお金があったって
今より幸せになれるはずがない
宝くじは買わない だって僕は
お金で買えないものをもらったんだ hey...
400万円があたっても
今より幸せになれるはずがない
宝くじは買わない だって僕は
恋をしているから何もいらない
宝くじは買わない だって僕は
お金で買えないものをもらったんだ
お金で買えないものをもらったんだ
ah... wow...
「宝くじは買わない」詞:忌野清志郎 曲:肝沢幅一