園長 ペリプラ葉古
その5−アリジゴク
お次は砂場でしょうか。
こんな砂地にどんな生き物が住んでいるのでしょう。
よく見ると小さな穴がぽこぽこ開いています。
そうか、アリジゴク園なのですね。
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神社・寺院の床下や山道の脇の崖下などで
小さなすり鉢状の穴を見たことがないだろうか?
一見雨粒が落ちてほげた穴のように見えるが、
実はこの穴の底にはしごく獰猛な蟲がひそんでいる。
写真提供 : 裏庭観察記
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あなたが好奇心(いたずら心ともいう)旺盛な子ども
だったとしたら、きっと穴をほじくり返したはずだ。
そして、穴の主を見て驚いたことだろう。
あまりにもおぞましいその姿に。
腹部はぶよぶよのずた袋のような状態で、
中年おやじの太ったビール腹を思い起こさせる。
頭部に生えた長い2本の牙は常に戦闘状態で、
近寄る敵に噛みつかんとする狂犬さながらである。
醜さと兇悪さをあわせ持ったその蟲。
誰が名づけたか、アリジゴク。
漢字にすれば蟻地獄。
言いえて妙なる名前である。
あなたが向学心(残忍性ともいう)に満ちた子ども
だったならば、多分アリを穴に落としてみただろう。
さらさらの砂でできた急角度の斜面は登るに登れない。
もがけばもがくほど足場が崩れ、次第に落ちていく。
さらに底からアリジゴクが
砂かけババアよろしく砂をかけるのである。
これにはアリもたまらず、あわれ、底まで転落する。
落下したアリはアリジゴクの毒で瞬時に麻痺させられ、
体液を吸い尽くされてしまうのだ。
餌食になるのはアリばかりではない。
ダンゴムシでもクモでも地上を歩く蟲なら何でもござれ。
うっかり足を踏み外した獲物を一撃必殺の猛毒で倒す。
あっぱれ、アリジゴクである。
写真提供 : 裏庭観察記
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このアリジゴクの親はウスバカゲロウである。
漢字にすれば薄馬鹿下郎。
ではなくて、薄羽蜻蛉。
はかないことで有名な蜻蛉(かげろう)と似た名前だが
実際には仲間が違う別のグループである。
ともあれ、トンボとガをかけあわせたような
いまいちインパクトに欠ける成虫の寿命は短く、
幼虫の存在感に比べて影が薄いことは否定できない。
アリジゴクのような人という形容がある。
「あいつは女を食い物にするアリジゴクのような奴だ」
と言われれば、自分の領分に来た女性は絶対に逃がさずに
手当たり次第食っちゃう貪欲な男だと言われているようで、
いい気持ちはしないかもしれない。
が、よく考えてみよう。
アリジゴクは本当は粘り強い蟲なのだ。
近くを獲物が通らなければ、何ヶ月も絶食して待つ。
「アリジゴクみたい」と言われたら、
「辛抱強い性格でして」と返す余裕を持とう。
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【アリジゴク】
脈翅目(みゃくしもく)に属するウスバカゲロウ類の幼虫のこと。
すり鉢状の巣を作ってアリなどの昆虫が落下するのを待つことに
その名が由来しており、巣自体をアリジゴクと称することもある。
*砂かけババア
水木しげるの傑作『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる脇役。子泣きジ
ジイとセットで登場する印象が強いが、もともとは柳田国男の
『妖怪名彙』にも登場する由緒ある妖怪。
※ ウスバカゲロウの写真を提供して頂きました。
もっとアリジゴクについて知りたい方は……
画像元 裏庭観察記 http://home.n02.itscom.net/wad/u/
2002年10月16日更新
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