まぼろし書店神保町店/第6回は『秘密基地大作戦』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)
物心ついた時から筋金入りの室内派だった私ですが、近所の原っぱで忍者ごっこをしたり、「首吊り森」を探検したり、それなりの子どもらしい野外活動は行っていたのです。でも本当は忍者修行を極めたかったし、本格的(?)な秘密基地の建設計画も常に更新していました。「自分はインドア派だから」と子供らしからぬ諦観をいだいてしまって、アナーキーな冒険をしそこねた子供時代を、今でも、心から悔やんでおります。
さて、今回のまぼろし書店は『秘密基地大作戦』と題して、「失われた冒険を悔やむインドア派人間」が魅惑されずにはおれない本達を紹介します。
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●「小屋の力」(ワールド・ムック310)
ワールド・フォト・プレス
4-8465-2310-1
税込価格3,800円 |
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「小屋好き」な方々がこのように大勢存在するとは!
475頁という、この分厚い写真集を成立させるだけの魅力が「小屋」にはあるのです。世界中の小屋好きが、その撮影した小屋の記録やレポートを寄せているのですが、惜しみなく凝縮されたその情報量にまず圧倒されます。見開き2ページに24葉もの小屋ポートレートがレイアウトされていたりするので、どんなに貪欲な小屋好きの方でも満足できるでしょう。しかも、どの写真も高品質、小屋の格が高い物件ばかりなのです。
またぎ小屋、旧い駅舎、バス停、舟屋、農機具小屋、藁小屋、炭焼き小屋、ビーチハウス、芝居小屋、バードハウス、ツリーハウス、茶室、見せ物小屋、屋台。微妙に傾くたたづまい。
トタンの錆具合、意外に大胆なペンキの配色、臨機応変に選ばれた素材。雪原にポツンと立っている小屋。ツタに絡み付かれて森と一体化している小屋……。「いつでも、好きなだけこれらの小屋達を眺める事が出来るのだ」と思うだけで幸福感で胸が一杯になる事、間違いなしの力強い一冊であります。
小屋好きな方々のために、関連書籍をいくつか紹介します。
・「小屋の肖像」/中里和人著/メディアファクトリー/4-8401-0130-2/税込価格3,360円
「小屋の力」の中でも、「小屋の写真第一人者」として大きく紹介されている写真家中里和人の、日本列島小屋行脚写真集。氏によると、小屋の写真を撮り続けているうちに「小屋そのものが、小屋を建てた人の肖像のように思えてきた」という。
・「小屋 働く建築」/安藤邦廣他著・中里和人撮影/INAX出版/4-87275-810-2/税込価格1,575円
INAXギャラリーにおける「小屋 働く建築」展に併せて刊行された写真集。撮影はやはり中里和人。
・「逢魔が時」/中里和人写真・中野純文/ピエ・ブックス/4-89444-296-5/税込価格2,520円
小屋の写真家、中里和人が新しいテーマに挑戦。いつまでも友達と遊んでいたい気持ち、今日が終わって欲しくない気持ちが蘇ります。
最強の「秘密基地」は、やはり「樹の上の家=ツリーハウス」!
というわけでツリーハウスの専門書2冊をご紹介しましょう。
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●「ツリーハウス・ブック」
小学館
4-09-104789-0
税込価格1,470円 |
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さすがにBE-PALを出版している小学館、ツリーハウスの作り方マニュアルを出しています。見取り図から完成まで、実際のツリーハウスでの一年間のレポートなどかなり本格的な内容なので、実践的なアウトドア派の方であればツリーハウスを建てる事も出来そうです。
インドア空想派にとっても、「ツリーハウスが登場する小説・ビデオ」「ツリーハウスに似合うアコースティック楽器の大研究」「水木しげるの理想のツリーハウス」など、ぐっと来るコーナー満載。何と言ってもツリーハウスと言うと、ゲゲゲの鬼太郎の「鬼太郎ハウス」ですよね。作者である水木しげるは、戦いに疲れた鬼太郎が「木の中で」霊力を養う、というイメージであの樹の上の家を描いたそうです。
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●「ツリーハウス」
ピーター・ネルソン
ワールド・フォト・プレス
4-8465-2425-6
税込価格1,600円 |
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「ツリーハウス」の第一人者であり、BE-PAL編集部に招かれてツリーハウスを作った男、それがピーター・ネルソンです。彼はもともと建築会社に勤務していて、ツリーハウスを愛するあまり「ツリーハウス建築」を会社業務に組み入れてしまいました。「プロフェッショナル・ツリーハウス・ビルダー」という仕事が成立するほどアメリカでは「ツリーハウス建築」が一般的であるという事ですよね、いろんな意味でうらやましいです。
1994年に発表されたこの「ツリーハウス」は7年間の調査と研究の結果をまとめた労作。世界各地のツリーハウスが美しい写真や図版とともに紹介されており、「樹の上の家」にはどの国の人でも魅せられているんだなぁ〜と感心してしまいます。どうやって建てたの!?と思うようなアバンギャルドなデザインのツリーハウスや、地上60フィートの高さのツリーハウスなど(さすがのネルソンも取材時に恐怖を感じたそうです)。鬼太郎ハウスにそっくりなツリーハウスもありましたよ。
ツリーハウスを語る人々は、みな、熱いですね〜。働く建築である「小屋」の、潔い「いい加減さ」と好対照で、興味深く感じます。
次にご紹介するのは眼の保養度満点の図鑑シリーズ。
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●「拾って楽しむ 紅葉と落ち葉/森の休日1」
平野隆久 写真・片桐啓子 文
山と渓谷社
4-635-06322-4
税込価格1,680円 |
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●「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり/森の休日2」
平野隆久 写真・片桐啓子 文
山と渓谷社
4-635-06321-6
税込価格1,680円 |
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●「調べて楽しむ 葉っぱ博物館/森の休日3」
亀田龍吉 写真・多田多恵子 文
山と渓谷社
4-635-06323-2
税込価格1,680円 |
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●「見つけて楽しむきのこワンダーランド/森の休日4」
大作晃一 写真・吹春俊光 文
山と渓谷社
4-635-06324-0
税込価格1,680円 |
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この「森の休日」シリーズは、図鑑としてよりも写真集として愛でている読者がほとんどだと思います。写真自体も、レイアウトも大変に美しく、自然の造型美をとことん楽しむ事が出来ます。まさにインドア空想派のバイブルと言えるでしょう。
或日、駐車場に行くと、車の屋根に小さなドングリが枝ごと落ちていました。いそいそと、「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり」を開いてみましょう。「ドングリ勢ぞろい」のコーナーでマテバシイ属のドングリらしい事が判明、「ドングリの背くらべ」コーナーを見てみると「シリブカガシ」が最有力候補。それでは、シリブカガシのページを見てみようかと思うのですが、チラリと眼に入る各ページの楽しさ、色んなドングリの樹、その様々な葉っぱの形の面白さの虜になってしまって、もう全てのページをまったりと眺めずにはいられません。真横からのドングリの多様な曲線美。真上から見ると、イガ座ぶとんがまるで太陽のようなクヌギのドングリ。ベレー帽のようなドングリの殻斗(かくと)の様々なバリエーション、横縞のベレーもあれば、ウロコ型の編み目模様のようなベレーも。ブナ科の植物達を鑑賞していると、あっという間に半日が過ぎてしまいました。松ぼっくり部門はまだ手付かずなのに、です。至福のひとときでした…。
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●「葉で見わける樹木」
林将之著
小学館
4-09-208022-0
税込価格1,838円 |
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フィールド派の方にもおすすめの美しいハンディ図鑑です。
スキャニング撮影された写真は、従来の図鑑とは比べものにならない鮮明さで、微細な部分まで本当にリアルで美しい。「葉で見わける」と唄っているだけに、ほぼ実物大の葉っぱが掲載されていて、各樹種の説明文も平易でわかりやすく、初心者でも楽しく使いこなせそうです。
最後に登場するのは白土三平です。
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●「白土三平 野外手帳」
白土三平著
小学館
4-09-460704-8
税込価格893円 |
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白土三平といえばカムイ伝であり、カムイ外伝なのでしょうが、私の白土三平は「サスケ」なのです。「サスケ」になりたい、とかなり長い間念じていましたが、インドア気質の小学生に忍者の修行はあまりにも敷居が高く、おこづかいをやりくりして古本屋で白土三平の本を購入するのが精一杯でした。しかも、その貴重な一冊は「サスケ」ではなく、「カムイ伝」の途中の巻だった…。あまりにも難解なその一冊を、前後を想像しながら、何回も何回も読み返し、登場人物の三白眼のかっこよさに心底シビれたものです。
白土作品の中での忍法や自然現象の「解説」は大変に真摯なもので、子供だった私は「大人のマンガは違うなぁ〜」と感心しておりましたが、その真摯な姿勢は作者白土三平の「自然と共に生きる」姿勢そのものだったのでした。
そんな白土三平の「野外手帳」です。まず、この表紙の写真を見て下さい。これらは白土三平の愛用する磯遊びの道具で、用途に応じて細かく使い分けるのです。貝掘り。大型巻貝用のサザエムキ。二枚貝用貝ムキ3本。トコガネ2本。年期の入った道具類の並んでいる様子はまさに堂々たる風格。
なにしろ白土三平の「野外手帳」です。生半可な「野外」ではありません。毒キノコを識別し、行者ニンニクを求めて遠野まで。釣りには外道とされる魚を浜の料理法で絶品の酒の肴に仕立てる。白土三平にとっての「日常」が抑制された文章で語られます。私のような軟弱なインドア空想派をも拒まない、「人間・白土三平」
の度量の大きさを感じさせる一冊なのです。
第6回の『秘密基地大作戦』、いかがでしたか。
皆様からのご質問、ご要望など、お便りをお待ちしております。
どうぞ、これからも末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。
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2004年10月8日更新
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