「まぼろしチャンネル」の扉へ
「番組表」へ 「復刻ch」へ 「教育的ch」へ 「東京カリスマch」へ 「日曜研究家ch」へ 「あった、あったch」へ 「再放送」へ 「ネット局」へ
ら〜めん路漫避行
まぼろし書店・神保町店
少女漫画 ふろくの花園
帝都逍遙蕩尽日録
定食ニッポン
駅前ガラクタ商店街
日本絶滅紀行
怪獣千一夜
秘宝館
掲示板
マガジン登録
メール
まぼろし商店街
まぼろし洋品店

「蕩尽日録」タイトル

南陀楼綾繁

11月某日 晩秋ノ銀座デ裏通ヲ歩キ昔ノ雑誌ニ読ミ耽ル事


 朝十時にウチを出て、山手線に乗る。ここ二週間ほど、雑誌の仕事が押し詰まって、自宅と仕事場を往復するばかりの毎日だ。こういう時には、映画でも観てうさばらししたいのだが、そうもいかない。今日銀座にやってきたのも、仕事の資料の受け渡しなのだ。

 有楽町で降りて、交通会館のヨコを通って、プランタンの前へ出る。そこから「マロニエ通り」(と云うんだそうな)を歩き、中央通りにぶつかる。道を渡った左側、〈ティファニー〉の隣りにある文具の〈伊東屋〉ビルに入る。クリスマス、正月が近いとあって、開店直後なのに、もう店内にはヒトが一杯。ココのエレベーターは小さいし、なかなか来ないので、上にあがるまでにえらく時間が掛かった。七階のギャラリーのヨコにある喫茶コーナーに入る。数席しかないがいつも空いているので、待ち合わせにはイイらしい。

『小説現代』10周年記念号
『小説現代』10周年記念号の表紙
(1973年2月号)

 ここで、『小説現代』の編集長だったOさんにお会いして、同誌の創刊号や10周年記念号をお借りする。その場でページをパラパラめくると、コレがじつにオモシロイ。たとえば、1971年5月号は「創刊100号記念特別号」だが、小説は松本清張、梶山季之、五木寛之、戸川昌子、川上宗薫、山田風太郎という面々。つい先日亡くなった笹沢左保の「木枯らし紋次郎」シリーズも載っている。吉行淳之介「変った種族研究」、野坂昭如「黒メガネ道中記」、筒井康隆「乱調文学大辞典」などのエッセイがその脇を固める。巻頭マンガは、滝田ゆうの「泥鰌庵閑話」とこれまた豪華。


『小説現代』の目次

同号の目次

 コレらの名前、いまの20代にはまったくピンとこないだろうな。いや30代だって同じだろう。35歳のぼくがなぜハゲシク反応したかと云えば、ぼくらが中学校から高校にかけて読みまくった文庫のエッセイやミステリなどの多くが、1970年代に『小説現代』などの中間小説雑誌に載ったものを単行本にまとめ、さらにそれが文庫化されたのだと気づいたからだ。つまり、我が青春の読書は、片手に80年代のサブカル、もう片手には70年代の小説やエッセイだったというワケ。だから、その当時の雑誌が妙に懐かしく感じられるのだろう。


『小説現代』の目次

 ところで、同号掲載の渡辺淳一「解剖学的女性論」第五回には笑った。「浮気な女」とは何かを論じて、そのラストに、浮気な女を正常な女に戻すには、「個性の強いベテランの男が徹底的に女を打ちのめし、自己過信を捨てさせ屈辱の底から愛を教えこむことである」と云うのだ。現在の渡辺センセイの行動は、この頃の持論を有言実行されたモノなのですなァ。


『小説現代』の目次

 〈伊東屋〉を出て、また裏通りへ。今度は松屋のヨコから「松屋通り」に入る。昭和通りを渡って、マガジンハウスの本社へ。この上にある資料室で担当のKさんにお会いして、同社がまだ「平凡出版」と名乗っていた頃の雑誌の表紙写真をお借りする。年代順に誌名を挙げると、『週刊平凡』『平凡パンチ』『アンアン』『ポパイ』『ブルータス』『オリーブ』となる。ココの資料室は、自社のすべての雑誌の全号を所蔵し、ぜんぶの表紙が写真に撮ってあるそうだ。

『平凡パンチ』創刊号の広告
『平凡パンチ』創刊号の広告

 表紙だけでなく中身も見たいと頼むと、各雑誌の創刊号を、合本されてないバラの状態で出してきてくれる。めくっていくと、楽しい記事がたくさん見つかる。『平凡パンチ』の創刊号では、「創刊記念 いすずベレットが当たる!パンチ・クイズ」という広告があり、スーツを着た巨人の長島茂雄(もちろん現役)がいすずベレットのヨコに立っている。「長島選手のようなスマートでシックな紳士の"おしゃれ一揃い"」も当たるそうだ。どれぐらい応募があったのだろうか?

 このままイツまでも、ココで古い雑誌に埋もれていたいという欲求に駆られるが、数十ページのカラーコピーを頼み、資料室を出る。外部のヒトには利用が制限されているのだが、いつかまた、ココで資料探しをさせてほしいものである。裏口を通ったら、賃上げ交渉のシーズンなのか、労働組合の垂れ幕が貼ってあった。マガジンハウスではなく「平凡出版労働組合」と書かれているのに、歴史を感じた。

 マガジンハウスの隣りにある書店〈新東京ブックサービス〉で、出たばかりの『「明星」50年 601枚の表紙』(集英社新書)を買う。マガジンハウスの看板雑誌だった『平凡』のライバル誌の全表紙が載った本を買うのも、ナニかの縁だろう。地下の居酒屋で、ランチのラーメンを食べながら流し読みする。銀座のイイのは、安くてウマイ昼飯に事欠かないところだろう。この店も、700円でかなり味が良かった。

 食事を終えてブラブラ歩いていると、〈奥村書店〉という看板に出会う。銀座では老舗の演劇専門の古書店だが、コレは最近できた支店のようだ。小さな店だが、棚の間隔が広くとってあるので、本が見やすい。しかも、値段が結構安く、いつか買うつもりでいた常盤新平『アメリカン・マガジンの世紀』(筑摩書房)、大谷晃一『評伝 梶井基次郎』(河出書房新社)、中山義秀『私の文壇風月』(講談社)などをいずれも1000円以下で手に入れる。

 銀座というとつい大きな道ばかり通るので、裏通りを歩くのは久しぶりなので、いろいろと発見があった。午前中に行くと、安い昼飯を食べられるのもイイ。ああ、これでこのあと仕事がなければなあ。。


2003年1月9日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com まで


11月某日 秋晴ノ鎌倉ヲ優雅ナ一日ヲ過スモ結局何時モ通リトナル事
9月某日 渋谷カラ表参道マデ御洒落ノ街ヲ本ヲ抱エテ長征スル事
9月某日 小淵沢ノ夢幻境ニ遊ビ甲府ノ古本屋ニ安堵スル事
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【後編】
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【中編】
7月某日 週末ノ三日間、熱暑ノナカ古書展ヲ巡回スル事【前編】
7月某日 炎天下中ニ古書店ヲ巡リ、仏蘭西料理ニ舌鼓ヲ打ツ事
6月某日 W杯ノ喧騒ヲ避ケ、三ノ輪ノ路地ニ沈殿スル事
6月某日 昼ハ最高学府ニテみにこみノ販売法ヲ講ジ、夜ハ趣味話ニ相興ジル事
5月某日 六本木ニテ「缶詰」ニ感涙シ、有楽町ニテ「金大中」ニ戦(オノノ)ク事
4月某日 徹夜明ケニテ池袋ヘ出、ツガヒ之生態ヲ観察スル事
4月某日 電脳機械ヲ購入スルモ気分高揚セザル事


「カリスマチャンネル」の扉へ