さえきあすか
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
ひさしぶりに会う友人、知人、みんなため息ばかり。
だって、自営業や出版社勤務の人が多いせいか、不景気な話ばかりなのです。しまいには、「嫌ですねぇ。遊びましょう!」ってなります(もちろんヤケ)。
でも、不景気とばかりもいってられません。つぎつぎと新たな挑戦(?)をし、変化していく人もいます。骨董屋さんになった人。シングルマザーになった人。フト気がつくと、それぞれの人にとって、節目というか変化の時期に遭遇することが何度となくあり、感心するやら驚くやら。十人十色とはよくいったもので、各様の生き方があるのですね。
先日もそうです。10月中旬のことですが、ひさしぶりに会った61歳の男性が、易者さんになるそうで、お会いした2日後には占いのお店をオープンされるとか。いきなりの展開にビックリです。
「60という節目の年齢になったから、あとはボランティアのような気持ちで生きたい」とのこと。5歳まで満州の大連で育った彼は、幼少期にたくさんの死と遭遇したことから、霊が見えるとか。ちなみに私はまったく霊感がありませんが‥‥。
「さえきちゃん、それでね。うちのガラクタをもらってもらえないかな? 捨てるのはかわいそうだから」
「ガラクタですか?」
もともとは漫談の世界におられ、古いこけしを商い、絵なども描かれる方です。どんなガラクタがあるのかなぁと思い、ずうずうしくももらいにいっちゃいました。それも紙袋3つぶんです。
狭い店内には、こけしがたくさん並んでいます。まっすぐにピンと立っているこけしたちを眺めていると、なんだか竹林を連想させ、静か〜な気持ちになるから不思議です。そうそう、こけしって禅につうじているそうです。けれど、床の上はダンボールの山。ご自身いわく、
「ハチャメチャな人生を送ってきたから」
といわれるのですが、確かにどこか浮世離れした方で、思いきりよくモノを処分される姿に、
「なんだかすごい変化をしようとしてるみたい」
というと、
「この歳だからね。もうモノはいらないよ」
とのこと(こけしや仏像は処分しません)。モノをいただいたからではありませんが、今後いい方向に進んで欲しいと、切に願ってしまいます。
彼の節目の産物というか、立会いモノというか、いただいたモノのひとつが、ご紹介する狛犬の香炉です。とても渋い一品です。なんでも昭和初期に日本でつくられたモノだとか‥‥? このテの代物は時代の判別って難しいですね。ずっしりと重たい鉄の鋳物ですが、つめたい感じがしないのは、表情が子犬のように可愛いから。といっても、香炉なので煙がでる口の部分が大きく開いていることにより、笑った顔に見えるのでした。でも、ジッと見ていると、今にもシッポをふりそうな、なんとも愛くるしい表情です。
狛犬といえば、神社の入り口に対で鎮座している神獣ですが、神社を守るという使命からか迫力のある怖い顔が多いと思っていました。ところが、そんな狛犬たちを一堂に紹介した『THE
狛犬! コレクション 参道狛犬大図鑑』(立風書房)という、三遊亭円丈さんが書かれた本を見てみると、実にさまざまな動きと表情をしているんです。日本全国の神社をまわって撮影した狛犬たちに感心しきり! 円丈さんがどうして狛犬の写真と撮るようになったかというと、円丈さんにとって狛犬はお友達だからです(詳しく知りたい方は読んでね)。ですから写真はもちろんおもしろいのですが、円丈さんの狛犬に対する友愛というか、熱い思いが伝わってくる文章は、とても楽しい気分にしてくれます。これを機に狛犬をちょっぴり意識したりして‥‥。
さて、いただいた狛犬。見た瞬間から置く場所を決めていました。玄関です。玄関の扉を開けたら、足元に狛犬がいるなんて、とっても縁起がいいし、ステキだと思いませんか?
後日、わが家を訪れた仲良し友達、きんのすけ(女性です)に、
「うちの玄関にね。狛犬がいるのよ。狛犬のコマ太郎っていうの」というと、
コマった顔をしたきんのすけは、
「あっそう、狛犬のコマ太郎ね」と呆れ顔でいいつつも、足元のコマ太郎を見ると、
「あら、可愛いじゃない! シッポをふってるみたいね」と気に入ったご様子。
「でしょう?」とニコニコの私なのでした。
2003年1月7日更新
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