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店長神保和香子

 まぼろし書店神保町店/第7回は『だまされる快感』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)


 「ジョーズ3D」「13日の金曜日パート3D」は映画館にて鑑賞。ステレオグラム登場時には平行法、交差法の両刀使いで立体視に熱中し、通常のパソコンモニタ画面を眺めているだけでも壁紙画像を立体視してしまったという過去を持つこの私。子供の頃から、錯視、からくり、だまし絵など、「楽しい裏切り(?)」を味わわせてくれる事物が好きでした。
 という訳で、今回のまぼろし書店は『だまされる快感』と題して、ささやかながらも「うしろめたい快楽」を与えてくれる本達をご紹介します。

「イリュージョン」 アマゾンへようこそ!

「イリュージョン」
エディ・ラナーズ著
河出書房新社
4-309-26362-3
税込価格3,990円

 手に取って、頁を繰っていくとまず「?」。本の真ん中から、上下逆さまに印刷されている頁があらわれるのです。もちろん印刷ミスではありません。この本は、裏表紙の側からは上下逆さまに読み進めるように編集されているのでした。
 そして、本の中身はもう、これでもかというくらいの「不思議大百科」。
 大小スケールの相対性、点に見る、昆虫擬態、踊る人形、歪められた真実、盲点、光滲、ブロッケンの幽霊、残像、モワレ、アナグラム、魔法陣、水平と垂直・知覚と現実、凸と凹、楽園幻想、海の怪・空の魔、迷路、パズル、パラドックス…めまいがする程の「幻影」への過剰なる蒐集欲。種々雑多ながらも魅惑的な項目が渾沌と陳列されており、ヨーロッパの「博物学趣味」を容赦なく堪能させられてしまいます。まさしく、『幻影礼讃の書』と言えましょう。

これからご紹介するのは「からくり愛好者」にとっては必読書、定評ある3册です。

「図説アイ・トリック 遊びの百科全書」 アマゾンへようこそ!

「図説アイ・トリック 遊びの百科全書」
種村季弘・赤瀬川原平・高柳篤著
河出書房新社(ふくろうの本)
4-309-72667-4
税込価格1,890円

 「視覚」にまつわるトリックを網羅した一冊。錯視、ゆがんだ遠近法、隠し絵、だまし絵、覗きからくりなどなど。洋の東西を問わず、人間は、だましたり、だまされたりするのが大好きなんだなぁ〜と感心してしまいます。そこには、宗教的な寓意が描かれているのだ、などと解説されても、「要するに面白いから熱中して、より凄い作品を創ろうとしたという事だよね」と思ってしまう私でした。
 やはり、私が好きなのは、「錯視」の項目。その中でも、「多義図形」というジャンルが面白い。有名なのはルビンの壺でしょうか。黒地に白い壺が描かれている絵を見つめていると、ふと反転して向かい合った二人の人物の顔に見えるという、あの図形。地と図柄が反転して見える、その瞬間の混乱した感覚がたまらなく愉快なんです。 
 もちろん、M.C.エッシャーの版画も大好物。まぼろし書店でも、近い将来にエッシャーの特集をしたいですね。

「図説だまし絵 もうひとつの美術史」 アマゾンへようこそ!

「図説だまし絵 もうひとつの美術史」
谷川渥著
河出書房新社(ふくろうの本)
4-309-72615-1
税込価格1,890円

 「だまし絵を見るとは、たんに描かれた対象の迫真性に打たれることではない。そうではなくて、その迫真性が画家のレトリカルな技法の産物であることを享受することなのである」(本書序文より)。かっこいいですね〜。
 例えば、「蠅と貼り紙」という項目があります。
 15世紀、フランドルのある画家が描いた修道士の肖像画。敬虔な表情の修道士が描かれているのですが、その前景として文字の刻まれた板が描かれており、その上に一匹の大きな蠅が止まっている。何故に蠅。死の象徴として?宗教的な文脈においては、頭蓋骨の上に、イエス本人の胸に、すでに蠅は止まり始めていたそうな。同時代の、ドイツのある女性の肖像画では頭を包む白布の上にくっきりと蠅が、明らかに見ていて邪魔な位置に。イタリアの聖母子像では天使の脇の下に、聖母の足下に、幼子イエスの目線の先に、そして貴婦人の立つ壁にこれ見よがしに。
 「図像学的には死を暗示している」という建て前の下に、だまし絵的意匠を描き入れるのが「流行」したんですね。「これ見よがし度」が加速していく様子なども興味深い。
 大層豊富な図版が収録されているので、画集としてだけでも十分楽しめるのですが、「なるほど、美学とはこのような思考・分析を行う学問であったか」と納得させてくれるアカデミックな内容にも、きっと、ご満足いただけるでしょう。

「図説からくり 遊びの百科全書」 アマゾンへようこそ!

「図説からくり 遊びの百科全書」
立川昭二(ほか)著
河出書房新社(ふくろうの本)
4-309-76015-5
税込価格1,890円

 上記2册は「視覚」にまつわるトリックを取り上げていましたが、本書は、文字通りの「メカニズムとしての『からくり』」を集めています。
 からくり仕掛けの元祖はおよそ2000年前、アレクサンドリアのヘロンと言われています。数学の教科書に載っていた「ヘロンの公式」のヘロンです。数学者でもあり、エンジニアでもあったようで、蒸気機関、圧搾ポンプ、サイフォンなどの原理を発明し、数多くの遊技機械を創作しました。たとえば、「流れる水で鳴く鳥」とか「祭壇の火で踊る像」とか「林檎を持ち上げるとヘラクレスの矢に射られて、しゅっしゅっと鳴く竜」とか「祭壇に点火すると神殿の扉が自然に開く自動ドア」とか。オートマタの歴史はその起点から「珍奇なるもの」であり、精密な自動人形とか、自動装置満載の人工庭園であるとかを産み出し、産業革命前のヨーロッパの自動機械製作の黄金時代へとつながっていきます。
 わが日本には、江戸時代に機械時計の技術が伝来し、傀儡師たちのあやつり人形の伝統や、歌舞伎のからくり仕掛けの流行などと相まって、「からくり人形」の精密なる機巧を産み出したのでした。
 からくり人形芝居の竹田近江、加賀の魔術師・大野弁吉など、時代毎に大物からくり師が活躍した江戸時代。江戸末期のからくり儀右衛門(本名・田中久重)は明治8年、銀座に田中製作所を設立、この田中製作所が後の東芝になるのです。う〜ん、まるでプロジェクトXのようだ。
 自分の知識や技術を思うがままに「無駄に」使いたいという、『遊びの本能』を、存分に発揮した東西のからくり職人たち。彼等が創作した、あくまで非実用的な装置の魅力に、私達は抵抗出来ないのです。

 参考文献として、次のような書籍もあげておきます。
・「からくり人形 微笑に隠された江戸ハイテクの秘密」/鈴木一義著/学研(学研グラフィックブックス)/4-05-400215-3/税込価格1,638円
 江戸からくり人形にしぼって解説されており、撮りおろし図版がかなり豊富なので、再現された「精密なメカニズム」をじっくりと味わう事が可能です。 
・「錯覚の世界 古典からCG画像まで」/ジャック・ニニオ著/新曜社/4-7885-0888-5 /税込価格3,990円
 心理学の専門書ではあるのですが、豊富な図版とエスプリの利いた解説で楽しめます。多種多様な「錯視」の解説は本当に興味深いものでありまして、科学的説明を読んだ後に、やっぱり「そうとしか見えない」錯覚を味わうのもなんともひねくれた愉しみであります。
・「夢の宇宙誌」/澁澤龍彦著/河出書房新社(河出文庫)/4-309-40096-5/税込価格/609円
 この本の半分を占める「玩具について」は、多くの「からくり愛好者」のインスピレーションの源(率直に言うとネタ元)になっていますね。記述された内容は引用可能でも、澁澤龍彦の、幻想的な語彙を多用しながらも嫌味にならない文体は容易には引用出来ません。
・ 「大江戸奇術考 手妻・からくり・見立ての世界
/泡坂妻夫著/平凡社(平凡社新書)/4-582-85083-9/税込価格714円
 江戸時代の「手品・仕掛け・からくり」ならこの本におまかせ。紋章上絵師という粋な本業をもつミステリ作家・泡坂妻夫が、江戸時代に花開いた日本独自の「手妻」文化を、愛を込めて案内してくれます。「飛び加藤」「果心居士」など、知っているようで実はよく知らない幻術師達もきちんと解説されていて、お得な一冊。

 次に、「からくり仕掛け」や「トリック」を愛してやまない二人の作家の、「からくり精神」溢れる愛すべき作品を紹介しましょう。

「乱れからくり」 アマゾンへようこそ!

「乱れからくり」
泡坂妻夫著
東京創元社(創元推理文庫)
4-488-40212-7
税込価格651円

 日本推理作家協会賞を受賞した、泡坂妻夫の初期代表作。不可解な連続殺人の舞台は、ねじ屋敷と呼ばれる洋館と、その庭園に造られた巨大迷路。からくり玩具で財を成した一族をめぐる事件なだけに、「からくり仕掛け」に関する著者の蘊蓄と愛情が炸裂しています。

「しあわせの書 迷探偵ヨギ・ガンジーの心霊術」 アマゾンへようこそ!

「しあわせの書 迷探偵ヨギ・ガンジーの心霊術」
泡坂妻夫著
新潮社(新潮文庫)
4-10-144503-6
税込価格420円

 内容には一切触れられません。これぞ、「マジシャンでありミステリ作家でもある」泡坂妻夫にしか書けない、大傑作!この本を読んだ貴方は、必ずや、気心知れた友に「しあわせの書」をプレゼントしたくなるでしょう。

「ドールズ」 アマゾンへようこそ!

「ドールズ」
高橋克彦著
角川書店(角川文庫)
4-04-170406-5
税込価格588円

「闇から覗く顔 ドールズ」 アマゾンへようこそ!

「闇から覗く顔 ドールズ」
高橋克彦著
角川書店(角川文庫)
4-04-170407-3
税込価格588円

「闇から招く声 ドールズ」 アマゾンへようこそ!

「闇から招く声 ドールズ」
高橋克彦著
角川書店(角川文庫)
4-04-170424-3
税込価格660円

 これまた内容には一切触れられません!のではありますが、シリーズ第一作で登場した「あるキャラクター」が、思う存分活躍する二作目の「闇から覗く顔 ドールズ」が今回のお勧めです。 江戸情緒あふれる仕掛け物を題材に、 「紙の蜻蛉」「お化け蝋燭」「鬼火」「だまし絵」の四つの謎が語られます。読後感の爽やかさもこのシリーズの大きな特徴。是非、第一作めから通読してください。

「遠山式超立体写真集 Touch it!」 アマゾンへようこそ!

「遠山式超立体写真集 Touch it!」
ナムコ・遠山 茂樹著
小学館
4-09-385518-8
税込価格1,600円

 「おおっっっ」驚嘆の声を出さずにはいられない、掛け値無しに「究極の」立体写真集が出版されました。
 警告!書店でこの本の見本が出ていたとしても、心の準備無しに、専用眼鏡をかけるのは大変に危険です。あまりにもリアルな立体画像が違和感無く見えてしまうために、驚きの叫びをあげながら手で頁の上を撫で回すなどの大袈裟なリアクションで、周囲の一般大衆の皆さんの注目を集めてしまう怖れがあります。それほどに、「遠山式立体表示法」は革命的な技術なんですね。特に、眼や神経に全く負担をかけずに立体視出来るという点が素晴らしい。
 500円玉が、ビー玉が、麻雀牌が、ロウソクの炎が。見事に立体に見えます、というより「今、そこに在る」ようにしか思えない、それほどに脳がだまされてます。
 実物をお試し下さい、とお勧めするしかありません。だまされる快感を味わってみて下さい。

 第7回『だまされる快感』、いかがでしたか。
 皆様からのご質問、ご要望など、お便りをお待ちしております。
 どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。


『秘密基地大作戦』
『疾風の新着情報!!』
『疾風の新着情報!』
『入魂の一冊』
『名画座の時代』
『あのころの風景』


2004年10月8日更新
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