南陀楼綾繁
12月某日
大学図書館ノ書庫ニ潜リ
早稲田古書街デ歓談スル事
朝9時に起きて、西日暮里の道灌山下まで歩く。さすがに12月だなあ、かなり寒くなってきた。バス停からバスに乗り込み、早稲田へと向かう。ちなみに、上野から早稲田まで通っているこの路線はしょちゅう利用していて、通りの風景もおなじみだ。10時過ぎに早稲田到着。大学図書館に入る。今日はとっくに締め切りを過ぎた同人誌の原稿に取り掛かる前に、ココで夕方まで資料調べをして過ごそうという計画だ。
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図書館
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図書館で資料調べ、と聞くと、「そんな辛気臭いこと」と云われるかもしれないが、知りたかった疑問が手元の本で判明していったり、初めての本に出会ってコーフンしたりできる、しかもタダでという点では、アミューズメントパークで一日過ごすのと変わらない楽しさがある。じっさい、昨夜は遠足前夜の小学生並みに、明日調べたい本の所蔵を図書館のサイトで確認してメモをつくったりと、気分が高揚していた。
まず一階の参考書コーナーで、辞典類に当たる。パソコンが持ち込めるので、主要な記述はそこに書き抜き、長いものはコピーする。そこまでで二時間。見ておくべき本のタイトルがいくつか見つかったので、地下書庫に降りる。地下二階分の広大な書庫に、明治から現在までの恐るべき量の本がつまっている。この間をさまよって、データベースとカンを頼りに本を探していく過程がたまらない。国会図書館は閉架(請求して書庫から持ってきてもらう)だから、自分で見つける楽しみが薄いんだよなァ。
調べた本について、グダグダ書くのはやめるけど、見た本のタイトルを並べておこう。『出版人物事典』、『日本出版百年史年表』、『近代日本大出版事業史』、『日本出版文化史』(岡野他家夫)、『商戦三十年』『日本出版界のあゆみ』(小川菊松)、『日本出版販売史』(橋本求)、『新聞雑誌記者となるには?』、『出版広告の歴史』、『思い出の七十年』(原田三夫)……。ほかのヒトには無味乾燥かもしれないこういった本が、たまらなくオモシロイ。これで、調べたことをもとに原稿書かなくてもよければ最高なのだけど。
そのあと、新聞雑誌書庫に移り、4時まで。6時間ほどで合計50冊ほどに目を通しただろうか? ワリとスピーディーに調べが進んだのではないか。満足して図書館を出て、早稲田通りの一本裏の道を歩く。腹が減ったことに気づき、〈勝芳〉という定食屋が開いてたので入る。もう夕方だからイイだろうと、ビールにコロッケ、それにカツ丼。
さて、定番の古本屋だ。今日は全部回れないので、早稲田通りの高田馬場に向かって右側を歩く。〈安藤書店〉でさっき図書館にあった松本昇平『業務日誌余白 わが出版販売の五十年』(新文化通信社)を1000円で見つけ買う。文庫が揃っている〈文省堂〉では、ミステリを二冊、文学書の〈平野書店〉では保昌正夫・栗坪良樹編『早稲田文学人物誌』(青英舎)を。保昌正夫はつい数週間前に急死されている。
途中、青山辺りのギャラリーと見まがうかの店があり、それが〈五十嵐書店〉の新店舗だと知り、びっくり。歴史・国文学の老舗だが、つい先日思い切ったリニューアルをやったとは聞いていた。一階は安い本と、ビジュアルブックを置き、地下には専門書となっている。明るくてゆったりした店にいると、妙に落ち着かない気持ちになった。コレはぼくが昔の店になじんでいたからだろうか? こういうつくりの店では、逆に雑多な品揃えになっている方が楽しいと思うのだが(たとえば、大阪・緑地公園の〈天牛書店〉とか)。
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古書市
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高田馬場駅まで行き、〈BIG BOX〉の入り口でやっている古書市を覗く。ココは西武新宿線の入り口もあるし、人通りも多い。おまけに土曜日で学生のコンパの待ち合わせが多く、どいつもこいつも携帯片手に本の台に寄りかかっていて、めちゃくちゃに邪魔。6、7年前までは上の階でやっていて、落ち着いて本が探せたものだが。「日本でいちばんIQの低い古書市」と命名。それでも、平野謙の『純文学論争以後』(筑摩書房)、『わが戦後文学史』(講談社)の二冊ほかを安く買えてヨカッタ。
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格闘家
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また早稲田通りをてくてく戻り、古書街のなかほどにある〈古書現世〉へ。若旦那・向井透史さんが迎えてくれる。棚を見ていると、さっきまで調べていた誠文堂新光社の社長の追悼集『おやじさん 小川菊松追悼録』を見つけ、即買う。そのうちリブロのアラキも来たので、外に出る。格闘技ファンや選手が集まる〈格闘家〉という居酒屋を教えられるが、そこにはもちろん入らず、ホルモン料理などを出す居酒屋に入る。10月にリブロで行なった「sumus」フェアでは、向井さんもチラシを配るなどして手伝ってくれたので、三人で成功を祝う。
向井さんから早稲田の古本屋のおやじさんたちのステキすぎる逸話(いつか全部書いてほしい!)を拝聴し、イイ気分になったので、高田馬場まで行って線路沿いの路地にある〈こくている〉というバーへ。感動的にウマイ水割りをつくるおじいさんがやってるバーなのだが、前に行ったのはもう3年前か。店はあったけど、ナカに入ったら、若い男性がバーテンさんだった。前のマスターは引退されたそうだ。しかし、いまのマスターが水割りをつくる手元を見ていたらそっくりで、味も昔のと同じ。聞けば最後の数ヶ月、一緒に働いて水割りのつくり方を伝授されたとのこと。エー話や。そのあと〈ブックオフ〉に寄りたいというぼくの願いに呆れもせず、二人とも付き合ってくれる。ああ、本好きはハナシが早くてイイなあ。本ではじまり、本で終わった早稲田の一日だった。
2003年1月30日更新
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