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串間努

第4回「先生やりすぎです」の巻


新聞に寄りますと!

新聞見出し

  東京調布市の市立F小学校で、二十二日、教師が死んだハトを教室で焼いたうえ、子供約十人に食べさせたという、ショッキングな事件が明るみに出た。食べたのは、四年生と一年生の男女児童で、話を聞いた父母も仰天、ハトをめぐる学校ではありえないような出来事に教育関係者は大きな衝撃を受けている。
 学校関係者の話によると、ハトを食べさせたのは同校の理科主任A教諭(五十九)。
 児童や父母の話では、児童達は「鳥を見つけてきたごほうび」「頭が良くなるから」などとA教諭から言われて食べたという。
 食べた一年一組の男子児童は「友達が食べていたので『おいしいの』と聞いたら『うん』と言ったので僕も先生からもらった」。また一年生の女の子も「ハトの死がいを焼き鳥にして食べた。先生にもらった」と認めている。
 A教諭は「児童達は拾ってきたとき『これは食べられるの』と私に尋ね、毎日のように理科室をのぞきに来ていた。そこでキジバトの皮は標本に、骨は墓に埋め、肉は食べさせようと思った。異論はあろうが、私自身、戦争中に飢餓の中でいろんなものを食べてしのいだ。この飽食の時代に、肉片を食べさせることは児童達にいい教訓になるのではないかと思って、あえて食べさせた。児童はおいしいと言っていた」と弁明している。
 しかし、波紋の大きさに同夜になって、「学校で食べさせたことはまずかったかもしれない。申し訳ない。教師を辞めるつもりだ」と話している(昭和60年5月23日 読売)」

 基本的にボクはハトを子どもに食べさせたという点は非難したくない立場です。ハトはフランス料理でも食べる。日本の食習慣になじんでいないといっても、地域によってはイルカだって蜂だって食べる、少数派だからといって食材を区別するのはどうか。学校で鳥を食べたのがショッキングな問題として取り上げられたのではないだろう。食パンを食わせたというのであればニュースにならない。ハトだから報道される。ハトが平和のシンボルだからであろうか。ニワトリは食べてよくてハトだとショックというのは、どういうことかニワトリに向かってとくと説明してもらいたい。

 ハトを食べさせた。ということよりも、理科教師が「ハトを食うと頭がよくなる」ということがちょいと怪しからんのではないか。
 それから、戦争中の飢えの体験を子どもたちにさせたかったというのも何か勘違いしているのではないか。
 ハトの栄養組成を調べてみたが、資料がない。特にニワトリよりもビタミンやアミノ酸が豊富ということも聞いたことがないので、ビタミンB群なり、アミノ酸なりが豊富であることを証明しないと、頭がよくなるとは言えないではないか。
 学校でハトを焼いて食べさせるほどポップな先生が、「頭がよくなるよ」と効能効果を第一に、おばあさんのようなことをいうのがバランスを欠いていて滑稽である。「鳥をみつけてきたごほうび」という言い訳に至っては、動物的な報酬主義で、あんたはライオンかい! と突っ込みたくなるな。
 ボクとは意見を異にするが、戦争の飢えを体験させるという先生の教育信条を徹底させてくれたほうが、いっそ気持ちがいい。
 先生、ハトの肉食べたって、すいとん食ったって、子どもは飢えの追体験はできませんぜ。第一、子どもは「おいしい」って言っている。先生だって先生の同時代人だって、子どもの頃飢えの教育を受けたわけではない。しかし食料が逼迫した時代を体験したから、やむなく受け入れたわけで、そんなことはどんな世代であっても再現性があることであり、特に教訓とするべき問題ではないと思う。
 論点が拡散してしまうが、もう一つ。59歳で教師を辞めるというのは人生設計上でかなりの痛手ではないか。定年退職させてあげたかった。で、刑事事件でもないのにどうして新聞社にバレるの?

●書きおろし


2002年9月10日更新
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