「掘れば湧く」と言われるほど温泉に恵まれた諏訪湖畔。上諏訪と下諏訪の2つのエリアに分かれており、観光ホテルの建ち並ぶ上諏訪に対して、下諏訪の魅力は宿場町の面影と共同浴場の湯めぐり。温泉好きにとって「超」が付くほどメジャーだが、下諏訪の町から足を伸ばせば毒沢鉱泉。小高い山中に3軒の宿が点在している。
宮乃湯
沢乃湯
神乃湯
毒沢とは物騒な名前だが、字のごとく毒にも似た個性的な泉質が特徴で、古くは信玄の隠し湯とされていた。宿は手前から宮乃湯、沢乃湯、神乃湯といい、そのなかでも神乃湯は「秘湯を守る会」にも名をつらねる人気の宿。宮乃湯は大正12年創業の老舗で、秩父宮殿下もご休息なさったとか。
そこにきて沢乃湯の、言葉は悪いが脱力感ある外観。目隠しするかのように玄関先を覆う手書きのポスター。温泉水を使用して作った「沢乃湯ジェル」を一押しで売りたいようだ。神乃湯の駐車場はわりと混雑していたというのに、沢乃湯の場合はどこに置いたらよいか迷うほど、見事に誰も訪れてはいなかった。
宿泊営業はとっくにやめたらしく、いまは日帰り入浴を専業としているようだ。もはや役目を終えたと言わんばかりに、くたびれたガイドブックがロビーに置いてあった。調度品も年季が入っているが、すさまじいのは浴室であった。
長年の歴史が壁や床を変色させ、より一層のひなびた印象を放っている。たいていの人は入浴をためらってしまうかもしれないが、これを嬉々とするのが温泉マニア。酸化して茶色に濁ったお湯がたまらない。源泉を口に含んでみると、びっくりするほど不味く、舌にびりびり感が残る。毒沢とはよく言ったものだ。
客室の一部は休憩室として開放されている。急須にお茶っ葉を入れて...は面倒なので、ミネラルウォーターを開ける。ぬるめのお湯にたっぷりとつかった後だけにごくごくといきたかったが、この水もまた毒沢鉱泉を使用したものだった。良薬口に苦しとはまさにこのことか。
毒沢鉱泉の3軒のなかでは最も地元客率が高いものと思うが、この湯をすがって遠方から訪ねる客もいることだろう。素朴な温泉にこそ神秘が宿る。そんな気がする。
沢乃湯
源泉/毒沢鉱泉(含鉄(Ⅱ)-アルミニウム-硫酸塩泉)
住所/長野県諏訪郡下諏訪町星が丘7075 [地図]
電話/0266-27-2670
交通/JR中央本線下諏訪駅より約2.8km
料金/大人500円(中学生以上)、小人250円
時間/10:00~19:00(休憩室の利用は16:00まで)