神奈川県の温泉の最近のブログ記事

横浜や湘南だけが神奈川県じゃない。本当はダサいんだ、と田舎者代表として日々訴えているのだが、今日ご紹介するのはその極めつけ。御用邸やヨットハーバーで有名な湘南葉山の星山温泉、その名を「稲龍神山スポーツランド」という。山に囲まれた集落の外れのさらに外れ。たどり着いた先はご覧の有り様。


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廃材の山とバラック小屋がいくつか。スポーツランドのスの字もない。これで客を迎えるなど信じがたいが、ここを訪れる客は寛容というか、むしろこの状態であることを望んでいるのだ。


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40年ほど前はアスレチック遊具がいくつかあったそうだが、転機は平成元年。井戸を掘ったら鉱泉だった、と。先代であるお父様の強い確証だというから、もはや御神託にも似た奇跡とでも言うべきか。いつしか温泉施設が本業となり、そして浴室はこれで一応の完成形。


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ステンレスのバスタブとサイケデリックな絵が放つ強烈なインパクト。壁一枚隔てた向こう側で薪を燃やしており、しばらくすると我慢比べの熱湯になる。しかもマンツーマン体制なので、ほかに客が来たら待たせておくという、現代社会においてはなかなか珍しい非効率性。


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浴室以外に大小の休憩室がある。
「もうけさす人に油断は禁もつだ あとに思はぬ穴があるぞえ」
「身は主人医師や薬は使い人 己が病は己が心で」
「まっすぐに行けば迷はぬ人の道 横筋かいに行きてたづねる」
など、外壁にはありがたいお言葉が並ぶ。


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大勢集まってここで宴会したら楽しそうだが、最大の欠点といえば、皆が風呂に入るまでに時間がかかりすぎるということか。


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もうひとつの建物は、客が日曜大工で建てたという。つまり何でもありなのだ。


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これからだんだんと進化するかもしれないし、長年の積み重ねがこの状態なのでたぶん何も変わらないだろうし。そもそも世間がバブルで浮かれているさなかに、当時の世相と逆行するような手作り感、自然との調和を(意図していないだろうが)生み出したことに敬意を表したい。


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集落の外れにある倉庫と思しき建物とお稲荷さん。


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稲龍神山スポーツランドへの進入路。車高の低い車には厳しい。


稲龍神山スポーツランド
源泉/星山温泉(泉質は不明)
住所/三浦郡葉山町下山口230
電話/0468-78-8377
交通/JR横須賀線逗子駅よりバス15分(京急逗子線新逗子駅経由)
     JR横須賀線衣笠駅よりバス16分、いずれも「水源地入口」停徒歩14分
料金/500円
時間/9:00~17:00、毎週水曜日定休

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「まぼろしチャンネル」の連載を引き受けたときから、いつか紹介したいと思っていたのが大船ラドン温泉。東日本大震災による原発事故があってから、ラドン温泉(放射能泉)の話題は丁寧に取り上げたいと思っていたが、思いがけずその機会は早くにやってきた。昭和47年の開業以来、長らく地域のレジャースポットとして愛されてきた同施設だが、なんと6月末日をもって閉館するというではないか! もう一刻の猶予もないのだ。

大船ラドン温泉があるのは横浜市栄区だが、戸塚区や鎌倉市との市区境にも近く、いわば町外れ。周囲には田園風景もまだ多く残る地域だ。隣接する定泉寺は「田谷の洞窟」で知られ、鎌倉時代に真言密教の修行の場として掘られた洞窟は、江戸時代に再び掘られた部分とあわせて全長1kmに及ぶという。現在公開されているのはその半分にも満たないが、曼荼羅や仏像などの彫刻に圧倒されるはず。いにしえの信仰に触れたあとは、温泉を楽しみたい。

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ステージ付きの大広間では、昼間からカラオケの歌声が響き渡る。来館者の年齢層は高く、大泉逸郎の「孫」などが流れるにいたっては、微笑ましい光景でもある。土日は演歌歌手を招いての歌謡ショー、平日は社交ダンス教室やビンゴ大会など、健康ランドの定番イベントを連日開催。リクライニングチェアが並ぶ休憩室、ゲームコーナー、マッサージルームなども備えている。家族やグループで訪れては、日がな一日を過ごす。レジャー施設ではかくありたい。

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浴室は時代遅れな印象を否めないが、開業当初の評判はどうだったのだろう。室内の大部分を岩風呂が占めるが、背丈以上あろうかという巨石を並べている。当時の価値観からすれば、贅を尽くしたと言えるだろう。お湯に身を沈めてみれば、目の前は中国の桂林か、はたまたベトナムのハロン湾か、という迫力。地下200mから湧出する黒湯の温泉を引いており、ジャグジーの勢いで泡立っている。これだけでも客を呼べるが、パンフレットの謳い文句は「滝のある温泉」。露天風呂は定泉寺の崖と間近に接しており、落差にして3mほど滝が流れ落ちている。崖には洞穴があって、注連縄で祀られているが、田谷の洞窟と繋がっているのだろうか。頭上は緑が覆い、山奥の温泉場を訪ねているかのような錯覚を受ける。

いよいよ、大船ラドン温泉のメインテーマである「医学の温泉 ラドン室」へ。
「ラドン温泉」「ラジウム温泉」を掲げる温泉地や温浴施設は各地にあるが、ラドンもラジウムも自然界に存在する放射性物質の名前。花崗岩などに含まれるラジウムが、自然崩壊の性質によって気体のラドンへと変化する。ラドンは呼吸や皮膚によって血液中に取り込まれ、新陳代謝の促進などに効果があるという。そして、ラドンから放出される放射線(アルファ線)は、微量であれば体内を活性化させる作用(ホルミシス効果)があるという。医学的に確立した理論はないが、放射能泉(ラドン温泉・ラジウム温泉)は療養泉として国内外で認知されている。

ガラス張りの室内には、大型の発生装置6台によってラドンが送り込まれている。ラドンは無色無臭だが、室内を閉め切っているがために、塩素消毒のツーンとした臭いが鼻を突くし、お湯につかっているとやがてのぼせてくる。1回につき5~10分くらい、その後1~2時間休憩し、1日2回くらいの入浴が望ましい。4~5日続けると効果がよくわかるというが、毎日通うほど暇ではないし、そもそも悪い症状を抱えているわけではないから......。ラドンもしかりだが、温泉は病気の特効薬ではない。忙しない現代生活から離れ、身も心も解放して過ごすことが、健康へのいちばんの近道だと思う。しかるにこの野趣あふれる環境、勝手気ままな空間は、神奈川県のオアシスだと断言できる。

壁にはラドンの概要や効能が掲げられているが、興味を惹いたのは以下の一文。
「1963年以降、日本ドクターズクラブの研究スタッフは、物理学や医学界の諸先生のご指導によりラドン発生装置を研究開発し、各地にラドン温泉センターを開業した」
ちなみに、1963年は日本が動力試験炉の発電に成功した年。

ラドン発生装置についてインターネットで検索すると、「ラドン開発事業団・日本温泉医学研究所」がヒットする。開発事業団の研究によって、1号機が開発されたのは1972年。直属の学術機関として「ラドン温泉医学会」の名が記されているが、この医学会こそが日本ドクターズクラブなのだろう。そして1972年といえば、大船ラドン温泉が開業した年。医療機関を含めると、ラドン発生装置を導入したのは全国で100施設にも及ぶというが、大船ラドン温泉はその火付け役だったと言ってもよいだろう。

あと数日で39年の歴史に幕を下ろす。原発事故によってラドン温泉は再び注目されたが、その矢先の閉館はとても残念。一時代を築いた施設として、長く記憶に留めておきたい。

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大船ラドン温泉
源泉/横浜温泉(ナトリウム-炭酸水素塩泉)
住所/横浜市栄区田谷町1459
電話/045-851-1526
交通/JR東海道線・横須賀線・根岸線大船駅西口よりバス6分
    「洞窟・ラドン温泉前」停前
    ※大船駅西口より無料送迎バスもあり
    国道1号線「原宿」交差点より大船方面へ。「田谷」交差点を北へ。
料金/大人1,500円、小学生900円、幼児520円
    夜間割引(17時以降)は800円
時間/10:00~22:00(休日は9:00~22:00)

※平成23年6月30日をもって閉館


リンク
ラドン開発事業団・日本温泉医学研究所
ラドン健康プラザ湯~とぴあ内のページです)

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Author


    シダ トモヒロ
    -Tomohiro Shida-
    大学時代より国内各地とアジア諸国をおもに旅する。また高校時代から同人誌や機関誌の編集に携わり、98年創刊時より「旅の雑誌」編集人。趣味は旅行、ビリヤード、野球観戦。

    ミニコミ誌HP:
    旅の雑誌ONLINE

    温泉&野球ブログ:
    旅は哲学ソクラテス

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