当たり役、沢田部長刑事の芦田伸介
往年の人気番組に「七人の刑事」がある。ハミングのテーマ音楽が、とても印象的であった。そして七人の個性ある役者が揃っていたのも人気の要因だろう。
私が中学生時代であった。父は芦田伸介のことを、若いのに生意気な声を出してやがる、とテレビを見ながら文句を言っていた。確かに彼は、渋い声を出していた。それはまるで地底怪獣バラゴンの吼声にも似て、迫力あるものであった。しかしよく考えてみると、大正10年生まれの父より、芦田の方がいくつか年長なので笑ってしまいそうになった。
「七人の刑事」は、声に特長のある人が多く出ていた。南刑事役の佐藤英夫もそうだ。独特の鼻にかかった声で、犯人を怒鳴って威嚇する場面が多く見られた。我が家では佐藤が出て来ると、「鼻たん、鼻たん」と呼んでいたのを思い出す。
さて芦田は、この番組でハンチングに黒ブチ眼鏡、チョビヒゲというスタイルが様になっていた。かつて交通事故の名残りともいえる、ほほにかかる涙じゃない傷が余計に凄みを増していた。同じように傷のあった長谷川一夫は、メークで徹底的に傷を隠したが芦田はそんなことはしなかったようだ。果たして役者としてどちらが良いかは判らないが。
この番組以降、彼は「氷点」でその人気をさらに高めた。映画でも日活を中心に活躍。小林旭の脇を固めた作品が印象的である。「太平洋のかつぎ屋」(61年日活)でもいい味を出していた。タイトルは、戦後の闇屋も顔負けだ。陰のある人物、ヤクザの大物などでしっかりした存在感が売り物でもあった。サビの利いた声は天性の物で他者の追随を許さぬところ。八十一歳の死(肝臓ガン)は、役者人生を生き抜いたともいえるが、現在も健在なら山田洋次監督の、時代劇映画で老いた武士役か何かで枯れた味わいを出してくれたと思う。
1917年生、99年没
島根県出身
43年「血銭芙蓉」で映画デビュー。大学在学中、満州に渡る。戦後日本に戻り民芸に入団。61年TVドラマ「七人の刑事」で人気を得、66年TVドラマ「氷点」でその人気を不動のものにする。益々の活躍が期待されたが、99年1月9日肝臓ガンのため死去。 |
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2004年11月25日更新
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