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店長神保和香子

 お待たせいたしました。まぼろし書店神保町店/第9回は「青春の瞬間/早稲田」刊行記念!『懐かしの町・街角散歩/後編』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)


「タモリのTOKYO坂道美学入門」 アマゾンへようこそ!

「タモリのTOKYO坂道美学入門」
タモリ著
講談社
4-06-352723-9
税込価格1,680円

 タモリの『良い坂の条件』とは、「急勾配で、風情ある湾曲を持ち、周辺に江戸情緒があり、その名前に粋な謂れがある」だそうです。 「日本坂道学会」副会長であるタモリが、坂道探索道の成果を嬉し気に披露してくれるのが本書。
 東京都内37の坂がひと坂4頁単位で紹介されていて、前半2頁には、タモリの独断的坂道紹介文・本人撮影の坂道画像。そして「周辺の三坂」としてご近所に存在する学会評価の高い坂もきちんと案内しています。その坂の学会評価が一目でわかるように、「坂道実力診断」なる星取り表も。その坂の「坂道っぷりがいかに素晴らしいか」を語るタモリの文章は、意外に真面目で読みごたえがあり、 その相思相愛具合(?)に羨望を感じる程の入魂ぶりであります。
 後半2頁では、メインの坂を中心に、坂道探索ルートがイラストマップ付きでわかりやすく解説されており、散歩欲を心地良く刺激します。小さいサイズながらも江戸時代の古地図がレイアウトされているのが心憎い工夫で、寺院などがそのままの位置にある事や、武家屋敷跡なので緑が豊かである事、などがわかって、時代小説好きである私は「やられた!」という感じでありました。

「赤線跡を歩く-消えゆく夢の街を訪ねて-」 アマゾンへようこそ!

「赤線跡を歩く-消えゆく夢の街を訪ねて-」
木村聡著
ちくま文庫
4-480-03685-7
税込価格950円

 建物ウォッチングが好きな私は、徒歩で、あるいは自転車で、路地から路地へと徘徊する事があります。そんな時、「デジカメで良い感じの光景を撮影したい気持ち」と「自分がこの場所にいる、今、この瞬間を大切にしたい気持ち」との板挟みになってしまうのです。特に狭い路地などでは、住民の方々の生活の場へ踏み込む異端者として、出来る限り自分の存在感を消していたいと思い、カメラを構えるのもためらわれるのでした。
 この「赤線跡を歩く」を開くと、まず著者から読者へのお願いとして、大変に印象的な文章が書かれています。「もしこれらの街を訪ねるとしても、ひとりでひっそりと、行って欲しい。そしてさっと立ち去って欲しい。」
 吉原、洲崎、千住、品川、鳩の街……東京から関東各地、そして関西と、刻一刻と風化の進む「赤線跡」の街並みを、著者は豊富な写真で紹介していきます。説明文が書かれた時点で失われている建物も多く、とても貴重な記録だと思います。
 タイル張りの外壁にステンドグラス、洒落た円柱や、ロマンチックなバルコニー。特殊な歴史を持つ、興味深い建築物の写真の数々だけで、本当に見応え十分の写真集なのですが、各地区ごとの説明のさり気ない文章にも、「赤線跡の街と現在そこに住む人々」への細やかな気遣いが感じられて、不思議に爽やかな読後感を覚える一冊です。

「長屋迷路」 アマゾンへようこそ!

「長屋迷路」
中里和人・写真 中野純・文
ピエ・ブックス
4-89444-383-X
税込価格2,709円

 「長家迷路」という書名は伊達では無く、この写真集の頁を捲るうちに我々は、露地植えされた観葉植物やら褪色した青トタン壁を背景に咲き誇るバラやら誇らし気に物干竿ではためく洗濯物やらの過剰な色彩が溢れる狭い路地を現実に彷徨っているような気分になり、それは夢見心地ながらもほんの少しの不安が混ざった、醒めかけた夢の中でもう一度この場所を訪れる事は出来ないと知りつつ楽園を歩いているような悲しい予感を含んだ陶酔感なのだった、その陶酔は「小屋の写真家」 でもある中里和人の色彩溢れる写真の力によるものなのか、縦書きながらも左から右へ読むように配置された中野純の句点を排した迷路のような文章のせいなのか、頁単位あるいは見開き単位で写真が配置されていないという革新的な編集方法が、このまま進むべきか新しき枝道を探索すべきか曲り角をきょろきょろうろうろしている記憶を呼び起こすからなのか、きっとそれらの相乗効果なのだろう。

「青春の瞬間 早稲田 50's-80's」 アマゾンへようこそ!

「青春の瞬間 早稲田 50's-80's」
まぼろしチャンネル発行
4-9901833-1-2
税込価格1,800円

 本を手に取って、まず、「熱い本だなぁ!」と感じました。
 それは第一に、製作スタッフの熱い心意気。そして、昭和という時代の熱気なのでしょう。
 私は残念ながら、早稲田大学とはご縁がありません。学園祭などでキャンパスにお邪魔した事すらありませんでした。それでも、色々な形で「早稲田大学への愛を語る人々」を見ました。アルバイト先のおじさんに連れて行ってもらった飲み屋さんで隣に座っていた青年。就職した会社のおじさま方など。
 想い返せば、10代の頃に愛読した少女漫画の中にも、しばしば「W大」は登場しました。憧れの先輩は「W大生」と決まっていたものです。ガロの「学生街の喫茶店」というよりは、かまやつひろしの「わが良き友よ」。そして、私にとっては、早稲田松竹のある街である早稲田。
 でも、『青春の瞬間 早稲田 50's-80's』を読んで、少しだけわかったような気がします。どうして「早稲田は特別」な存在なのか。
 それは、昭和という暖かい時代、早稲田大学という魅力的な舞台、そして早稲田で「青春を謳歌」した心熱き若者たちとの、幸運な出会いが生んだ、「特別な瞬間」だったのではないでしょうか。
 あのモノクロ写真をもう一度見直したい…と思った私でしたが、そうでした、私の『青春の瞬間 早稲田』は現在、職場の上司に貸したまま、戻って来ない状態なのでした。ある時代の記憶を共有する者として、彼も 『青春の瞬間 早稲田』に魅せられてしまったようです。(それほど気に入ったのでしたら「まぼろしチャンネル」で購入してください!)


 第9回『懐かしの町・街角散歩/後編』、いかがでしたか。
 街角散歩特集といいながら、東京中心の内容になってしまって申し訳ございませんです。
 いずれは、もっと幅広い内容の「街並み探索」も特集したいと考えていますので、皆様からのリクエスト・情報提供など、心よりお待ちしております。
 どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。


『懐かしの町・街角散歩/前編』
『だまされる快感』
『秘密基地大作戦』
『疾風の新着情報!!』
『疾風の新着情報!』
『入魂の一冊』
『名画座の時代』
『あのころの風景』


2005年2月16日更新
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