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2月某日 ばすニ乗リ池袋ヲ訪レテ日曜ノ街デ買物シマクル事 |
南陀楼綾繁 |
今日は日曜日。朝から、雨がしとしと降っている。ここのところ、ゆっくり街に出る余裕がなかったので、久しぶりに午前中から出かけることにしよう。ウチから歩いて1分のところにあるバス停で、池袋行きのバスを待つ。山手線で行ってもイイのだけれど、今日はナンとなくバスに乗りたい気分なのだ。浅草寿町発−池袋駅東口(草63系統)のバスに乗り込む。いつもは、巣鴨とげぬき地蔵に行く老人でいっぱいだが、今日はワリと空いていた。
故・田中小実昌さんは、バスに乗るのが大好きで、とくに用事がなくても、終点まで乗って同じルートをまた引き返したりしたらしい(コミさんが生前最後に出したのは、『バスにのって』(青土社)という本だった)。ぼくはまだ、そこまで修行が足りないが、せめて、バスに乗る機会があったらなるべく逃さないようにしている。
終点のひとつ手前、豊島区役所前で降りる。そこからちょっと歩いて、高速沿いの〈光芳書店〉という古本屋(本店)へ。池袋に数店をもつ店だが、サンシャイン通りのはずれにあるので、本店には昨年はじめて来た。一階、二階あわせての在庫が多いところや、ヘンな本が見つかりやすいところが気に入って、最近はたびたび足を運んでいる。今日も、一階に入るなり、笠原和夫『鎧を着ている男たち』(徳間書店)を発見。名作映画『仁義なき戦い』の脚本家で、昨年末に大部のインタビュー集も出ている(直後に死去)が、こんなエッセイ集を出していたとは。「やくざは男社会のパロディ」というサブタイトルどおり、映画の取材をつうじて出会ったやくざのエピソードが山盛りの本だ。
二階に上がる。インターネット販売が主力のためか、棚の本はほとんどパッキングされているし、値段も高め。しかし、レジ回りの「新入荷」コーナーでは、いい本がビックリするような値段でよく見つかる。今日は、雑誌『面白半分』の1978年の6冊が一冊300円で出ていた。半村良が編集長の号が半分、筒井康隆の編集長が半分だった。この雑誌は200号以上あるので、集める気はなかったのだが、あまりにキレイなので、全部買ってしまった。何気なくひっくり返すと、裏表紙には「サンヨーレインコートを着た野坂昭如を篠山紀信が撮るとこうなる。」という広告が載っていて、笑う。ほかに、吉行淳之介監修『世界ドジくらべ』(スポーツニッポン新聞社出版局)500円も買うが。この頃の作家って、ずいぶんヘンな仕事をやってるんだなァ。
そのあと、サンシャイン通りの〈HMV〉へ。CD屋に入るのも久しぶりだ。新しいミュージシャンを捜す気力もなく、前から聴いている倉橋ヨエコの[礼]と[人間辞めても]、小島麻由美の[愛のポルターガイスト]、そして、ユニコーンの三枚組CD+DVD[ULTRA
SUPER GOLDEN WONDERFUL SPECIAL……(もっと続く)]のベスト盤を買う。ユニコーンは解散直後に好きになって、カラオケ(たまには行くんです)でよく歌ったものだ。それにしても6666円は高いか、安いか。買いおわって下に降りると、一階の映画館前のチケット売場には、長蛇の列。昨日が初日のロマン・ポランスキー監督《戦場のピアニスト》を観るためか。それとも、SMAPのクサナギ主演の《黄泉がえり》が目的か? たぶん、後者だな。
ココまで来たら、新刊書店も覗いておきたい。で、〈リブロ〉池袋店へ。文芸書売り場では、この間まで二階のギャラリーでやっていた「江戸川乱歩展」に関連して乱歩の本を並べている。その隣では、知るヒトぞ知る版元「深夜叢書社」のフェアをやっている。おお、スゲエ。もう新刊では手に入らないと思っていた中井英夫『他人(よそびと)の夢』が一冊だけ残っていたので、即買う。売場に出ていた舎弟のアラキを昼飯に連れ出して、あれこれ話したあと、今度は〈ジュンク堂書店〉を覗く。三階で、昨年倒産した社会思想社の「現代教養文庫」が、自由価格本として安く売られていた。持ってなかった、中薗英助『夜の培養者 生きていた731細菌部隊』、山路愛山『現代金権史』、秋山正美『ロング・ロングセラーズ 半世紀を生き抜いた本の魅力』を買っておく。レジでカネを払うときに、大きな紙袋をもらう。ココまでの荷物が増えすぎて、持ちきれなくなったからだ。
二時間ほどそそくさと池袋を歩き回って、ハッと気づけば、もう二時。まだこれからやるべき仕事が残っているのだ。慌てて大荷物を抱え、仕事場に向かう南陀楼であった。
2003年3月31日更新
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