園長 ペリプラ葉古
その8−ムジナ
次の柵をのぞいてみましょう。地面に穴が掘ってあります。
穴はどんな動物が入っているのでしょうか?
ああ、タヌキのようですね。
おや、もう一頭入ってますよ。あれは……。
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ムジナという名前、きっと聞き覚えがあるだろう。
「同じ穴のムジナ」ということわざがあるからだ。
よからぬことを企む仲間同士のことをこう呼ぶ。
そう、あなたと悪友のことだ。
だが、実際にムジナを見たことがある人は多くないだろう。
北海道と沖縄を除く全国に普通に生息しているのに、
あまりにも見た人が少ない謎の動物、それがムジナである。
ムジナと同じ穴に住む動物のほうは身許が割れている。
他でもない、そいつはタヌキなのだ。
文福茶釜でも証誠寺の狸ばやしでも平成狸合戦ぽんぽこでも
主役をはったタヌキ。日本人にとても親しみ深い獣である。
タヌキといえば雄の生殖器の巨大なることが特徴らしい。
信楽焼きの置物を見てもそのことは一目瞭然であるし、
「たんたんタヌキのキン●マは〜♪」という歌によって、
子どもにまでも知られている。こんな動物は他にはいない。
性的能力は棹の長さではなく玉の大きさで決まるはずなので、
雄タヌキはさぞ絶倫なのであろうと想像されるが、
現在のところなぜか生物学的には実証されてはいない。
だからタヌキおやじと呼ばれて喜んでいる場合ではないのだ。
さて、タヌキの同居人ムジナの正体を考えてみよう。
タヌキと同じような所に住み、同様に悪賢い獣といえば、
まずはキツネを思い出すのが日本人の常識であろう。
ともに化けるのが得意で、人様に悪事を働く。
狸寝入りや狐憑きなど、その名を使った成句が多い。
たぬきそばにきつねうどんで、庶民に馴染み親しまれている。
生物学的にも、タヌキとキツネはともにイヌ科で同類なのだ。
にもかかわらず、ムジナはキツネではない。
タヌキに似ているといえば、アライグマも忘れてはいけない。
ラスカルを思い出してもらえばわかるように、
タヌキもアライグマもずんぐりと小太りで、目の周りが黒い。
タヌキは英語でracoon dogというが、
このracoon(ラクーン)はアライグマのことなのだ。
しかしながら、アライグマは元来日本には生息していない。
同じ穴に住みようがない以上、ムジナであろうはずがない。
結論を言おう。
ムジナはアナグマなのである。
民家のそばの雑木林などにも住んでいるにもかかわらず、
いまいちネームバリューに欠ける獣、アナグマなのである。
名前の通り穴に潜んでいて、昼間はあまり外に出てこない。
おまけに体型、顔つきともにタヌキによく似ているので、
たまたま野外で出会ったとしてもタヌキと誤認される。
知名度が低いのはそんなところに理由がありそうだ。
くだんのことわざ「同じ穴のムジナ」というのも、
よく考えてみるといいがかりのようなものなのだ。
タヌキは自分で地面に巣穴を掘ったりはしない。
穴を掘るのはもっぱらアナグマである。
気のいいアナグマが掘った穴を、タヌキがちゃっかり利用する。
それが真相なのだ。
なのに、タヌキと同様に悪党にされてはたまるまい。
ましてや押しかけてきたのはタヌキのほうなのだから、
せめて「同じ穴のタヌキ」という表現に変えて欲しいものだ。
占有権はあくまでアナグマ(=ムジナ)のほうにある。
あ、ダメか。
そうすると、ますますムジナの知名度が下がってしまう。
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【ムジナ】
食肉目イタチ科の哺乳類アナグマの別名。ニホンアナグマは本州、
四国、九州の都市近郊から高山の森林まで広く分布する。狩猟獣
であり、その肉は「たぬき汁」として食されることが多い。
2002年12月25日更新
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