まぼろし書店神保町店/第11回は『万博と近未来の夢』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)
「トータルリコール現象」とは。公開前には雑誌やインターネットで大層話題になるのに、いざロードショー公開されると、誰も話題にしていない、史上最高の制作費は何処に消えたのか。SF超大作にしばしば見られる現象です。ところで、「愛・地球博」。まだやっていますよね……。
さて、まぼろしチャンネル世代にとっては、万博といえば当然ながら「1970年のこんにちは」大阪万国博覧会。
大阪は遠いから最初から遠い夢だった、家が貧乏だった、「大混雑で月の石は見られないらしい」と強引に説得された、などなど。様々な理由で悔し涙をのんだ子供達の記憶には、あのべらぼ〜な「太陽の塔」が燦然と輝き続けているのでしょう。
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●「まぼろし万国博覧会」
串間努
ちくま文庫
4-480-42078-9
税込価格998円 |
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昭和45年3月、大阪吹田市で日本万国博覧会が開催された。テーマは「人類の進歩と調和」。
串間努少年は、少年マガジンのグラビアを眺めながら考えた。万国博…!なんだか、すごいモノらしい。しかし、千葉に住む6歳の小学生にとっては大阪はもうほとんど、外国だ。万国博覧会とは、努少年にとっては、アポロが月に行ったことと同じ位に絵空事であった。
月日は流れ、大人になり日曜研究家となった彼の元に、「行きたくて行きたくてたまらなかった、あの万博」についての本の執筆依頼がやってきたのだ。日曜研究家は調べまくった。新聞記事を検索しまくった。当時の資料を段ボール箱単位で落札した。独自のアンケート調査も行った。
そして、この 「まぼろし万国博覧会」が出来上がったのです。大阪万博に関するあらゆる事が、無慈悲なまでに徹底的に調査されているのです。昭和にっぽんの最大のお祭りだった「万博」を、今こそ追体験しましょう。
とにかくデカいソ連館。とにかく並んだアメリカ館。チェコスロバキア館で働いていたコックさんは西ドイツへ亡命。ブタの形の蚊取り線香そっくりのガスパビリオン。ガスパビリオンのコンパニオンのパンチラを見た奴が、それを自慢していたという証言あり。べらぼ〜に強烈な「太陽の塔」は、あの丹下健三設計のお祭り広場大屋根をぶち破ってそびえ建つ。
全国津々浦々から押し掛けた家族連れ達。万博に行くため、「法事」と偽って、子供に学校を休ませる。興奮のあまりゲロを吐く子供。初めて乗る新幹線、初めての洋式トイレ、初めて見る動く歩道、初めて見る外国人。万博見たさに、青森から無賃乗車で大阪までやってきて補導された家出小学生。
万博には何があったのか、そして万博を訪れた人々は何を見て何を感じたのか。万博運営に関わった人々は何を考え、何を得たのか。太陽の塔・顔面で籠城した「目玉男」は何を訴えたかったのか。それら全て、あらゆる雑多な事象の集合体が「あの大阪万博」であり、「まぼろし万国博覧会」は万博行きのタイムマシンなのです。
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●「インスタント・フューチャー 大阪万博、あるいは1970年の白日夢」
都築響一
アスペクト
4-7572-0715-8
税込価格2,520円 |
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なんといっても、この写真集には圧倒的なグルーブ感が再現されている!きらびやかで、ノーテンキで、ポップでサイケデリックな時空間。へんてこりんな形のパビリオン群。蛍光色とストロボの氾濫するインテリア。マイクロミニにブーツのコンパニオン達の笑顔。
今日の我々が失わざるを得なかった「明るい未来信仰」が最大に輝いた狂気のプレゼンテーション。
1970年といえば、ジミ・ヘンドリクスが、ジャニス・ジョプリンが、ジム・モリスンがドラッグで命を落し、遂にビートルズが解散してしまった、「サイケな日々の終焉」の年でした。もちろん知識としては知っていたけれど、そういう時代背景にあのべらぼ〜な「大阪万博」があったんだなぁ、と腹の底から再認識。この「インスタント・フューチャー」は、そんな、説得力を持つ写真集なのです。
都築響一の、デザイナーとしてのレイアウト能力と「へんなもの好き」ならではの優れた触覚が、この本のクレージーな魅力を生んだのでしょう。
「まぼろし万国博覧会」とこの「インスタント・フューチャー」で『大阪万博書斎内ヴァーチャル体験』は完璧です。是非ともお試しあれ!
「大阪万博に行きましたか?」
友人・知人に訊ねてみましたが、関東・東北出身者が多かったせいか、万博体験者はゼロでした。なぜか、「奥様は万博体験者」のケースが多く見られました。「本人はそれほど興味があったわけでもないのに、関西に親戚が居たから万博に行ってるんだ。俺はもんのすご〜〜く行きたかったのにぃ!」
そんな彼等は、「つくば科学万博」の時には社会人となっていたので、自分の稼いだお金で堂々とリベンジしたのです。「でも、何を見たかなんて、ほとんど覚えていないよ。あはは」
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●「つくば科学万博クロニクル」
洋泉社MOOK
4-89691-886-X
税込価格1,260円 |
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という訳で、次にご紹介するのは「科学万博 つくば'85(正式名称/国際科学技術博覧会)」をまとめた「つくば科学万博クロニクル」。
主要パビリオン紹介、つくば万博グッズのコレクション、科学万博小ネタトリビア集、などの定番コーナーはもちろんしっかりと押さえてありますが、私の個人的な注目コーナーは「音楽で聴く科学万博」。
巨匠・富田勲作曲の「すてきなラブ・パワー」/ボーカルは何と野宮真貴。歌詞は一般公募だった「科学万博音頭」/歌は五木ひろし。開会式のテーマソング「一万光年の愛」/西城秀樹は科学技術庁長官の前で「85年は科学の男として頑張る」と宣言した。
他にも貴重な音源勢ぞろいでして、レコードジャケット(CDではない)のデザインでも80年代テイストが満喫できます。
そして、この本の最大の特徴は、本編である読み物部分が、大変に真面目に、真摯に、取材・編集されているという事。大部分の頁は「当時、科学万博を実際に動かしていた人たちの生の声」に割かれており、技術畑一筋に歩んできた人々の証言は、コスモ星丸すら覚えていなかった私にも、知的興奮を与えてくれる楽しいものばかりなのです。
「芙蓉ロボットシアター」。世界的に有名な工業デザイナー、ルイジ・コラーニのデザイン画が出来上がって来てみると、奇抜なロボットのデザインが黒い紙にマーカーで「ササッと」描いてあるだけだった…。
「ソニーのジャンボトロン」。2000インチ、高さ42メートル×幅48メートル×奥行き24メートルの超巨大映像装置。無名時代のビル・ゲイツもエレベータで登り、筑波山を眺めたという。印象的なのは屋外ならではの「蚊と蛾対策」。夏の夜にジャンボトロンを点けたら、茨城じゅうの蚊と蛾が集まって来てしまうんじゃないか。画面の裏からバルサンを焚くという意見も出たが…。
「NEC C&Cパビリオン」。多人数RPGの先駆けだったC&Cシアター。当時の館長氏の言葉が熱い。「あの時C&Cシアターを楽しんでくれた少年たちが、大人になって、こんな形のインタビューに来てくれている。これはまさに私が夢見てきたことなんですよ!」
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●「万国びっくり博覧会 万博を100倍楽しむ本」
橋爪紳也
大和書房
4-479-39114-2
税込価格1,575円 |
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そもそも、「万博」って何でしょう、誰がどういう条件で万博と認定しているの?むか〜し、ロンドン万博とかいうのがあって、大友克洋が「スチームボーイ」で壊した水晶宮はそこにあったんだよね?
私の素朴な疑問の数々に、抑制の効いた文章と適切に配置された画像資料で答えてくれる、適材適所な一冊が「万国びっくり博覧会 万博を100倍楽しむ本」でございます。
著者の橋爪紳也は1960年生まれの大阪出身。学校の遠足を含め17〜18回は大阪万博を訪れたという、バリバリの大阪万博世代。壮大なお祭り空間を満喫した少年は、やがて建築を学び、工学博士となり、都市工学・イベント学など多方面から『博覧会』を考察した多数の著作をものするようになったのです。
万博以外にも、日本では明治以来、数多くの博覧会が開催されていたという事実も恥ずかしながら驚きでした。「衛生博覧会」で大胆すぎる展示物が堂々と陳列されたり、「警察博覧会」でギロチンや拷問道具が展示されたり、それらがまた、大人気だったと言います。ホラー好きは人間の業なのでしょうか。
同著者の著作の中から、特に興味深いものを紹介します。
・「人生は博覧会 日本ランカイ屋列伝」/橋爪紳也/晶文社/4-7949-6489-7/税込価格
2,100円
博覧会の実現のために暗躍する「ランカイ屋」達の様々な人生の物語。
・「日本の博覧会 寺下勍コレクション」(別冊太陽 日本のこころ133)/橋爪紳也・監修/平凡社/4-582-92133-7/税込価格2,835円
寺下勍のコレクションの数々の中でも、極彩色の錦絵はひたすら圧巻。入場券などのチケット類も、時代を反映したデザインの変化が面白く、見飽きない。大阪万博の資料も掲載されてはいますが、ちょっと昔の「物見高い日本人が無邪気に楽しんだ博覧会」に関する様々な蒐集物、をおおらかな気持ちで楽しむべき本でしょう。
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●「奇想の20世紀」
(NHKライブラリー179)
荒俣宏
日本放送出版協会
4-14-084179-6
税込価格1,019円 |
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この辺りで、知の巨人・荒俣宏の登場でしょう!
「奇想の20世紀」が取り上げているのは、19世紀末から、ロンドン・パリ・ニューヨークと、世界の主要都市で盛んに繰り広げられた万国博覧会について。万博とは、まさに、「未来の予測」を具体的にヴィジュアル化した催しとして出現した、「20世紀の大予告篇」であったというのです。
万博を契機として登場した種々雑多な事象を、荒俣宏はいくつかのキーワードを軸に、ズバズバと分析していきます。エンタテイメント、発明と特許、人工速度、観光、ショッピング、セックスとセクシー、機械化された労働力、若さ、健康、美食……。どうです、面白そうではありませんか。
荒俣宏の本の嬉しい所は、何といっても、眼の保養となる図版が盛り沢山である事。自分には少し難しいテーマかなぁ、と思っても、美しい図版の数々を手元に置きたいという誘惑に、いつも負けてしまいます。しかも、数多くの図版の出典元の、ジャンル・時代・国籍の幅広さには本当に毎回、感服いたしております。
美しい図版を愛で、惜し気も無く開陳される博物学的知識を堪能する。まさに読書の至福のひとときですね。そしてさらに、荒俣宏の著作は、書店員として常に「面白いもの」を探している私には、強烈なるインスピレーションの源なのです。これだから荒俣宏はやめられません。
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●「彼らが夢見た2000年」
アンドリュー・ワット
新潮社
4-10-539101-1
税込価格\2,625 |
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19世紀の欧米で、人々はどんな20世紀を思い描いていたのでしょうか。雑誌、新聞、広告、絵葉書などから蒐集された豊富なイラストが、当時の人々が無邪気に夢想した「明るい未来世界」を語り、発想のおおらかさや、のびやかな絵柄が、純粋に眼を楽しませてくれます。
もちろん、荒俣宏が「未来予測のチャンピオン」と呼んだフランスの風刺画家、アルベール・ロビダの作品も数多く収録されており、見応え充分。
第11回『万博と近未来の夢』、いかがでしたか。
皆様からのリクエスト・情報提供など、心よりお待ちしております。
どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。
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2005年6月10日更新
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