No.08 愛知の西でみそぎの入浴

愛知県の北西部、その名もズバリ愛西市にはちょっと変わった温泉がある。永和温泉みそぎの湯といい、成田山霊観不動教会の信者専用の施設だ。「沐浴」という言葉があるように、宗教と入浴は密接な関係があり、日本の入浴文化も源流をたどれば寺院の施浴にあると言われている。ここ永和温泉は信者のみそぎが表看板だが、一般客にも開放しており、むしろそちらが殆どのようだ。インターネットで調べてみても温泉のレポートは数あれど、宗教団体としての情報はひとつも見当たらない。謎めいた施設なのである。


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田園風景の中の住宅地に永和温泉はあった。お堂というべきなのか宗教施設自体はこじんまりとしたもので、白装束というより単に白の長袖ポロシャツにスラックス、首から袈裟を下げたマネキンがお出迎え。センサーによって来客、もとい拝観を告げるインターホンが鳴り渡り、しばらくして隣の雑貨屋からおじさんがやってきた。ひと通り聞かされた説明はすっかり忘れてしまったが、みそぎ料として200円を賽銭箱ではなく、その上の紙箱に置いてください、と。そして御本尊の霊観不動明王にお祈りしてください、と。先週は福岡から温泉目当ての客がやって来たとか、おじさんは話し足りなそうだったが、きりのいいところでお風呂へ。宗教に勧誘されることはなかった。


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お堂の裏手に浴室があり、そのつくりは簡素そのもの。角材で柱を立て、屋根と壁は波板、湯船と床はコンクリートの仕上げ。「ここの板(ビニール)をこわした人は入湯禁止」は当たり前だが、「湯をさわった人(H19/10/6に抜いた人)は入湯禁止」は笑えない。ほかに注意事項としては「てい髪、散髪禁止」の一文も。さすがにこれは事前に済ませておくべきみそぎだろう。


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先客としておじさん3人が湯につかっていたが、聞けば毎日通う常連さん。
「会員になると100円で入れるんだでー」
「ここの温泉はたれ流しだでー。ほかんとこみたいにケチケチしとらんがね」
「兄ちゃん、昼間っから風呂に入って、水商売か?」
名古屋出身の知り合いに後日この話をしたら、愛知県民は自動車関連か公務員がステータスだと思っているらしく、平日休みイコール水商売という発想ではないか、とのこと。どこから来たのか?インターネットを見て来たのか?など、いろいろ質問を浴びせてくるが、おじさんたちの話す言葉は訛りがきつく、申し訳ないがよく聞き取れない。
「わしらが喋る言葉こそ標準語だがやー」


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永和温泉は40年ほど前から営業しており、当時から雰囲気は変わらないという。近隣には長島温泉や尾張温泉といった大型レジャー施設もあるが、おじさんたちいわく「えりゃー高い」そうで、「毎日通うならここの温泉がいちばんだ!」とのこと。ちなみにおじさんたちは信者ではないそうだ。


永和温泉みそぎの湯
源泉/永和温泉(ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉)
住所/愛知県愛西市大井町浦田面686
電話/0567-31-0146
交通/JR関西本線永和駅より徒歩20分
    東名阪自動車道弥富ICより約3.6km
料金/200円
時間/7:00~21:30


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    シダ トモヒロ
    -Tomohiro Shida-
    大学時代より国内各地とアジア諸国をおもに旅する。また高校時代から同人誌や機関誌の編集に携わり、98年創刊時より「旅の雑誌」編集人。趣味は旅行、ビリヤード、野球観戦。

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このページは、シダトモヒロが2012年6月14日 22:32に書いたブログ記事です。

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