赤城山は榛名山、妙義山と並んで上毛三山のひとつ。上州名物といえば空っ風だが、これは赤城山から吹き下ろす北風のことで、「赤城颪」とも言うそうだ。しかし、夏を迎えようとするこの日は、赤城山を峠を上るにつれ霧がひどくなってきた。そして、今回の目的地「御宿総本家」に到着したときは、あたり一面濃霧に包まれていた。
赤城温泉郷は赤城山南麓に点在する宿の総称で、その中でも御宿総本家の創業はひときわ古く、元禄2年(1689)だという。現地からは老舗の風格はまったく感じられないが、まず気になったのは「Many Interesting Objects are Displayed in our Ryokan. SOUHONKE」の文字。ここを訪ねる外国人はよほどの旅行通だと思うが。
玄関をくぐるとフロントマンが出迎えてくれた。内風呂は1階、露天風呂は3階にあるという。廊下には古今東西の雑貨が並んでいるが、それらに趣味の統一感はなく、お世辞にも高価な品には見えない。それはさておき、内風呂はすごかった。
無色透明の源泉は酸化して緑色に、さらに時間が経つと黄緑色に変わっていくそうだ。固化した成分が床一面に波紋を作り、湯船のふちでは滑らかに堆積している。鍾乳洞のメカニズムと同じで、自然の神秘、長い年月の賜物だと言えよう。宿は傾斜地にあるため片側の壁は天然の崖を利用しており、苔むした感じもたまらない。かつては女湯との間に窓を設けていたのだろうか。そこには古びた温泉分析書が置いてあった。
露天風呂は崖のギリギリにあって、いくら待てども霧は晴れず。景色は最悪だが、温泉マニアの楽しみはむしろ崖下にあった。湯船からあふれ出たお湯は崖下に捨てているが、そこだけ一切の植物が生えず、緑や茶に変色していた。湯量は毎日30トン。古くより「赤城山に霊泉あり、傷病の禽獣集まる」と言われ、「上州の薬湯」として知られているという。
館内の様子は以下の通り。旅行に非日常を求める人には打ってつけの空間だ。
泉質自慢にして記憶に残る宿。赤城山は登山やドライブなど観光スポットとして、古い人なら国定忠治の物語で有名だが、さらに南麓には地元で知られた「釣堀銀座」がある。群馬県には草津、伊香保、万座など名の知られた温泉は多いが、それらに対してここは秘湯感たっぷり。最近編入されたとはいえ、いちおう群馬県の県庁所在地、前橋市の一部である。
赤城温泉御宿総本家
源泉/赤城温泉(カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉)
住所/群馬県前橋市苗ケ島町2034 [地図]
電話/027-283-3012
交通/国道353号線「三夜沢町」交差点より県道16号線で約6.4km
(JR両毛線前橋駅より約24km)
料金/500円
時間/8:00~21:00(要確認)