鴻池綱孝
〈第十一夜〉 怪塔、現る(part2)
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テンガロン: 「筆者、万博に立つ」の図。うしろに見えるのが、首長竜「オーストラリア館」。本来のデザイン意図は、葛飾北斎作「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」!要参照。
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夢は現実となった。少年誌の巻頭グラビアを彩っていた未来都市郡が大阪の郊外、千里の丘に現出したのだ!そこには21世紀のモデルハウスたちが競うようにして建ち並んでいた。未来は約束されたかの様な景色だった。
この時より、僕はそれまでの「怪獣博士」を捨て、「万博博士」となるべく、全パビリオン名の暗記と特徴、その相対的位置の掌握にのめり込んでいくのである。
黒川紀章設計の『東芝IHI館』はその特異な姿から、別名『ウニゴン』とも呼ばれた怪獣的なパビリオンだったし、『オーストラリア館』はまるで首長竜だ。レーニン生誕100年に熱く燃えた『ソ連館』の威容ぶりも、もう異星人レベルだ。『三菱未来館』はその内部で「東宝」っぷりを炸裂。故円谷英二はここでの仕事が遺作となっている。
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東芝IHI館: 長谷川明氏によりCGで再現された「東芝IHI館」。もっと見たい人はhttp://www.konoike.org/3d/へGO!金属でこんなん出来ます?という、IHI(石川島播磨重工業)の押しの強さで、悪の枢軸と言わんばかりのデザイン。サザエさんで築き上げたアットホームな東芝の企業イメージなど微塵もない。
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怪獣怪人渦巻く会場のセンターに陣取り、無言のMCで仕切っているのが、岡本太郎作『太陽の塔』だ。
背面で「おまつり広場」に睨みをきかしているのが『過去の顔』、別名『黒い太陽』。信楽焼きのブロックで作られている。11本の炎は半透明の緑色のガラスモザイクだ。プリミティブで呪詛的な面構えである。
腹部にあるのは『現在の顔』で、童子のような力強さで、「現在から未来を睨む」という意味が込められているというが、現代人の苦悶の表情にも見えてしまう。東京の稲木市にある工場のテントの中で、実物大の発砲スチロールで作られ、FRP成型された。
頂部に輝くのは『未来の顔』だ。何の気負いもなく無邪気にキラキラ輝く未来の顔。鋼板にスコッチカル・フィルムを貼り付けた物だ。両眼からは夜間になるとショートアークライトがエキスポタワーに向かって二筋の光線を照射する。
ボディに走る、赤い稲妻ラインはイタリア製のガラスモザイクで世界中の赤いモザイクから太郎自身によって選び出された究極の赤である。
内部には全高45mの『生命の木』があり、生命の進化の過程が太古の生物や恐竜の模型によって示されている。その造形を担っていたとされるのが、怪獣デザインの第一人者であった成田亨氏だ。塔は怪獣の内臓を持っていた。
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ホステス: 万博では「コンパニオン」でなく「ホステス」とよばれた。左から、エキスポシスターズ(第一銀行)サンヨー館の子リス(サンヨー子リスの店)、ひょっこりひょうたん島のサンデー先生(十八銀行)、のばらちゃん(勧業銀行)、エスコートガイド(第一銀行)。サンデー先生は'64オリンピックイヤーの人。なのになぜか抜てき!?うしろはシスターズ姿のスキッパーちゃん(中島製作所)。
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'70年9月15日。183日の会期を終え、万博は大盛況のうちに幕を下ろした。
翌年春、竹林だった千里の丘に咲いた『エキスポ』という大輪の花は、その花芯ともいうべき『太陽の塔』を残し、跡形もなく消滅した。
同年4月。「帰って来て、ウルトラマン!」という、とうに忘れていた願いが3年越しでやっと通じ、本当にウルトラマンは帰って来てしまった。それは第2次怪獣ブームの幕開けでもあった。仮面ライダー等の等身大ヒーローも戦列に加わり,「万博博士」もトォーッ!とばかり「怪人博士」に変身。またも、怪獣怪人の日々へと突入していくのであった。季節は巡るのだ。
「奇形で異形」な怪獣と、「奇景で偉業」な万博。昭和40年代を飾るこの二つの強烈なイメージは、チクロや人口着色料とともに体内に摂り込まれ、僕の中の『生命の木』にしっかりと蓄積されている。
つづく・・・
2002年12月2日更新
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〈第九夜〉 すべての怪獣ブーマーへ告ぐ!
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〈第六夜〉 マルサン商店『エビラ』『アントラー』『ガボラ』登場
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〈第二夜〉 『マイ・ファースト・ウルトラマン』
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