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9月某日 新宿デ革命ノ熱気ヲ感ジ高円寺デ戦後ヲ思フ事 |
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残暑、残暑、サイザンショ(トニー谷)。うーん、今日もくそ暑いぜ。新宿駅からバスに乗って、新宿中央公園の近くで降りる。ココに入るのは初めて。新宿の西口にこんなに広い公園があったなんて。砂場で遊ぶ家族連れの近くに、ホームレスのおじさんがハダカで陽にあたっている。さらに奥に行くと、ビニールシートのテントが並んでいる。昼飯をつくっていたり、犬と戯れたりとけっこう楽しそうだ。公園の向こうには、新宿の高層ビルが見える。その一階には外車の販売店が入っている。この取り合わせに、なんだかとってもアナーキーな気分になったところで、新宿区民ギャラリーに到着。ここでやっている「大杉栄と仲間たち」という展覧会を見るのだ。
今年は、無政府主義者の大杉栄が関東大震災の直後に虐殺されてから80年目にあたる。これを期に、新宿や四谷でいくつかのイベントがおこなわれるのだ。この展覧会は、大杉栄や彼と親交のあった運動家たちの足跡を、写真や書簡でたどるもの。写真で見る大杉の顔は、目に力がある。じっと見ていると、そのまま取り込まれてしまいそうだ。この展覧会のために、いしいひさいちが描いた大杉の絵は目を強調している。一方、うらたじゅんが描く大杉は伊藤野枝と並んで静かに笑っている。いろんなイメージの大杉があるものだ。
壁に展示されている、大正時代の「労働運動社旗」と女性団体の「赤欄社旗」を写真に撮っていたら、「あのー、モクローくんですか?」と声をかけられてビクッとする。古書目録愛好フリーペーパーでしか使ってない、ぼくの異名を知っているとは何者? どこかで見張られていたのか? 「どなたでしょう」と聞けば、吉祥寺の古本屋〈りぶる・りべろ〉の店主だった。この展覧会の主催者の一人だとか。古本屋さんが登場して、革命が一気に身近になった(笑)。
このあとはドコに行こう。近くの角筈区民ホールでは夕方から鈴木清順が「疾風怒濤・大杉以降」と題してしゃべるらしいが、その時間まで待ってはいられない。やっぱり、古書展に行こうと、高円寺へ向かう。古書会館の入り口では、地べたに敷かれた筵に載っている本を手にとって眺める、くすんだ風体のおじさんたちが。さっき、中央公園で見たヒトたちとあんまり変わんないなあ。ぼくもその一団に混ざって、あれこれ漁る。
本日の収穫は、『廃物の利用と更生』(光文書院、昭和21年)。ペラペラのパンフレットだが、終戦直後の世相を反映して、「壜の口金で玩具を作るのには」「古新聞紙をかき餅乾しに利用」「古土管で門柱」などのリアルな廃物利用法が解説されている。300円は安い。ほかに、徳田秋聲の追悼特集の『藝林間歩』昭和21年11月が100円、入江徳郎・扇谷正造が小説風に新聞記者の日常を描いた『書かれざる特ダネ』話社(昭和23年)が200円と、今日は妙に、戦後すぐに出た本に目が行った。この時期の本は紙が悪いし、造本もいい加減で壊れやすい。でも、なんだか活気がある。『書かれざる特ダネ』は「プレスマン シリーズ1」とあるけど、続きは出たのだろうか? 「話社」という出版社も初耳だなァ。
帰りに〈高円寺文庫センター〉に寄る。さすが中央線に名だたるアナーキーな新刊書店。ちゃんと大杉栄コーナーがありました。中公文庫の自伝もあったけど、飛鳥井雅道編『大杉栄評論集』(岩波文庫)を手に取ったら、その奥に「この本はこの一冊だけです」という店のコメントが書かれていた。なんか買っておかないとマズイような気がして、レジへ。文庫にカバーしますかと聞かれ、いつも通りいらないと答えたのだが、よく見るとリリー・フランキー作の新しいカバーに変っていた。ちょっと欲しい気もするが、いまさら云い出せもせず、まあ、また近いウチに来るだろうと思って、店をあとにした。
2003年9月24日更新
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