まぼろし書店神保町店/第14回は『渦巻き(一の巻)』をお送りします。
(著者の方々の敬称は略させていただきました/商品の価格は税込価格です)
今回、次回に渡って、『渦巻き』をテーマに色々な本をご紹介していこうと思います。
「渦巻き文様」に強く惹かれる自分を意識したのは、いったい何歳頃だったでしょうか。とにかく子供の頃から、私は「渦巻き文様」の虜でした。洗濯機が洗いからすすぎへと淡々と作業を進めるのを凝視する幼稚園児。なんとも無気味な光景です。「風の藤丸」の木の葉隠れにも憧れましたですね〜。だって木の葉が渦を巻いているんですよ。鳴戸巻きのうずまき。コントの泥棒が持つ風呂敷の唐草文様。うずまきの「渦」という漢字を知った時の喜び。まさに「うず」そのものの「字」ではありませんか。表意文字万歳です。
成長するにしたがって行動範囲が拡がった私は、螺旋階段に憧れて建築探偵のまねごとをしたり、渦巻き文様の和食器を衝動買いしたり、@という記号に「uzu」なるニックネームをつけたりする大人になってしまったのでした……。
最初にご紹介する「渦巻き」は、記念すべき初登場コミックス作品であります。
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●「ワイド版 うずまき」
伊藤潤二
小学館
4-09-185816-3
税込価格1,200円 |
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ひょえ〜!伊藤潤二。まさに現代の恐怖を描くホラーマンガ家です。彼はうずまきの持つミステリアスな魔力に着目し、その名も「うずまき」という傑作マンガを産み出してしまったのです。まいりました。
うずまきに取り憑かれたある男の狂気とその死。そして、奇妙なエピソードの数々と、「うずまき」に封じ込められたひとつの町が崩壊するまで。
伊藤潤二の恐るべき画力無くしては、この作品は成立しなかったでしょう。彼の描く女性達の美しさは、本当に素晴らしい。「ホラー」への強い愛を感じさせる、極上のうずまき作品です。
[こんな本もあります]
・「暗黒神話」/諸星大二郎/集英社/4-420-13703-7/税込価格816円
・「孔子暗黒伝」/諸星大二郎/集英社/4-420-13701-0/税込価格930円
一般的には「妖怪ハンター」などで知られている、常に我が道を行くマンガ家、諸星大二郎。
彼の名を一躍世間に知らしめたのが、「暗黒神話」でした。日本神話を題材にしているので、古代の装飾古墳なども登場。同心円や、渦巻き文様も効果的に描かれています。そして、その壮大なストーリーに、学生だった私は心底!魂消ました。
「孔子暗黒伝」は「暗黒神話」と対を成す作品。この二作品を通読した時のめまいにも似た恍惚感。これぞ渦巻きです。
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●「キンチョウスタイル 素晴らしき金鳥CMの世界」
CM発掘調査隊・編
幻冬舎
4-344-80562-3
税込価格1,050円 |
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渦巻きと言ったら、蚊取り線香。
蚊取り線香に火をつけるその一瞬は、私にとって、ささやかな楽しみなのです。幼い頃、田舎のおばあちゃんちに泊まった夜の、「蚊帳と蚊取り線香」の想い出ゆえでしょうか。
日本の夏、金鳥の夏…そのものの、この表紙。思わず手に取らずにおれないトレビアンな装丁が所有欲を刺激いたしますね〜。表紙カバーをはがした本体部分のデザインも「金鳥蚊取り線香」そのものの意匠で、思わずあの懐かしい匂いを期待してしまいます。
この「キンチョウスタイル」、第一部は「金鳥CM名作選」。「網羅」もしていないし、「資料的」な編集もされておらず、取り上げるCMごとにばらばらな趣向で好き放題に紹介されているのです、そこが実に面白い。研ナオコのあっトンデレラ、あっシンデレラ。郷ひろみのハエハエカカカ。タンスにゴンの「亭主元気で留守がいい」は昭和61年でした。
第二部は、新聞連載をまとめた金鳥小説「父子水」と、書き下ろしの「迷い水」。大滝秀治の父と、岸部一徳の息子。二人の掛け合いはほほえましく、そしてしみじみ切ない。
老舗ながら、大胆な広告手法に挑戦し続ける金鳥(大日本除虫菊株式会社)。何歳になっても大人の男の色気を放ち続けるショーン・コネリーか、はたまた、原田芳雄のような、渋くてカッコいい存在といえるでしょう。
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●「二重らせん」
J・D・ワトソン
講談社文庫
4-06-183715-X
税込価格490円 |
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DNAの美しいらせん構造を解明した「ワトソン&クリック」のJ・D・ワトソンが、DNAの構造解明に成功するまでの過程をリアルに、そして赤裸々に語った爆笑のドキュメント。「感動のドキュメント」では無く、「爆笑のドキュメント」である所にご注目ください。
若くて才能に恵まれたアメリカ人ヒッピー科学者「ワトソン」と、偏屈なイギリス人科学者「クリック」が、情熱的に研究に取り組む様子は「感動」と言えなくも無い……のです。が、彼ら科学者のエネルギーは、研究対象のみならず「先陣争い」にも向いている訳でして、その仁義なき戦いぶりがすさまじい。ギリシャ神話の神様方も負けそう。嫉妬と野心が渦巻く研究者同士の争いを、余りにもあっけらかんと描いてしまうあたりが、大物は違うなぁ〜と感心させられます。ノーベル賞をもぎとった「ワトソン」博士、天才科学者に違いありませんが、クラスメートにこんな奴がいたら嫌だなぁ。
[こんな本もあります]
・「ご冗談でしょう、ファインマンさん 上」/R.P.ファインマン
/岩波現代文庫/4-00-603005-3/税込価格1,155円
・「ご冗談でしょう、ファインマンさん 下」/R.P.ファインマン
/岩波現代文庫/4-00-603006-1/税込価格1,155円
ファインマンさんは20世紀を代表する天才的な物理学者。ノーベル賞も受賞した。「ファインマン物理学」といったら有名な教科書だ。そんなファインマンさんの自伝エッセイなのですが、まぼろし書店神保町では、『痛快エッセイ』として椎名誠(の若い頃の作品)の隣に陳列することにします。
少年時代からの強烈な好奇心・アイディアと、それを元に実行するいたずら心で、人生を謳歌するファインマンさん。女性達からもモテモテ。親戚にひとりは居る変人の伯父さんがファインマンさんだったらいいなぁ。
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●「ゴッホの絵本 うずまきぐるぐる」
ゴッホ(画)結城昌子(構成・文)
小学館あーとぶっく1
4-09-727111-3
税込価格1,512円 |
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確かに、ゴッホの絵は「うずまきぐるぐる」ですよね。
美術の教科書サイズだと、どうしても、描かれているひまわりや、ゴッホ自身などに気を取られてしまうのですが、当然ながら実物の油絵はもっと大きいサイズで描かれていて、絵筆の跡も生々しく渦巻いているわけです。この本では、その力強い油絵の具の盛り上がりがよ〜く見えるように、大きなサイズで「ゴッホの絵」の部分・部分を見せてくれるのです。
幼い子どもの頃、油絵という言葉すら知りませんでしたが、「うずまきの絵の人」「てんてんの絵の人」としてゴッホやスーラにあだ名をつけていました。その頃の無邪気な好奇心を呼び起こしてくれる、楽しい本です。
第14回『渦巻き(一の巻)』、いかがでしたか。
皆様からのリクエスト・情報提供など、心よりお待ちしております。
皆様のお気に入りの「渦巻き物件」がありましたら、是非ご教授ください!
どうぞ、これから末永く「まぼろし書店・神保町店」をよろしくお願いいたします。
『まぼろし書店のおすすめ新刊/2005年・赤の巻』
『まぼろし書店のおすすめ新刊/2005年・黒の巻』
『万博と近未来の夢』
『雪月花のこころ/桜の巻』
『懐かしの町・街角散歩/後編』
『懐かしの町・街角散歩/前編』
『だまされる快感』
『秘密基地大作戦』
『疾風の新着情報!!』
『疾風の新着情報!』
『入魂の一冊』
『名画座の時代』
『あのころの風景』
2006年3月1日更新
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