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「ぶらり歌碑巡り」タイトル

歌碑

アカデミア青木

第6回 『箱根八里』


 日溜まりの公園で、暮れなずむ街角で、夜のしじまの中で、ひとり「童謡」を口ずさむ時、幼き日々が鮮やかによみがえる…。この番組では、皆様にとって懐かしい童謡の歌碑を巡ってまいります。今回は、『箱根八里』です。
 林間学校で箱根に行くと必ず歌ったこの歌は、『荒城の月』と同じく滝廉太郎が作曲したもので、小学校のレコード鑑賞で男声合唱の野太い響きを聞いた方も多いでしょう。歌詞の難しさは『荒城の月』に匹敵しますが、箱根の風景を見ながら歌うと不思議と意味がわかるような気になりました。この歌、作曲者はよく知られていますが、作詞者についてはあまり知られていません。作詞は、当時東京音楽学校の教授だった鳥居忱(とりいまこと)*が行いました。

歌碑

『箱根八里』(東京音楽学校『中学唱歌』明治34年 に発表)
 作詞 鳥居忱(とりいまこと、1853−1917)
 作曲 滝廉太郎(たきれんたろう、1879−1903)

第一章 昔の箱根

 はこねのやまは てんかのけん かんこくかんもものならず
 箱根の山は 天下の険 函谷関も物ならず

 ばんじょうのやま せんじんのたに まえにそびえしりえにさそう
 萬丈の山 千仭の谷 前に聳え後にささふ

 くもはやまをめぐり
  雲は山をめぐり

 きりはたにをとざす
  霧は谷をとざす

 ひるなおくらきすぎのなみき ようちょうのしょうけいはこけなめらか
 昼猶闇き杉の並木 羊腸の小径は苔滑か

  いっぷかんにあたるやばんぷもひらくなし
  一夫関に当るや萬夫も開くなし

 てんかにたびするごうきのもののふ
 天下に旅する剛毅の武士

 だいとうこしにあしだがけ はちりのいわねふみならす
 大刀腰に足駄がけ 八里の岩ね踏み鳴す

  かくこそありしかおうじのもののふ
  斯くこそありしか往時の武士


第二章 今の箱根

 はこねのやまは てんかのそ しょくのさんどうかずならず
 箱根の山は 天下の岨 蜀の桟道数ならず

 萬丈の山 千仭の谷 前に聳え後にささふ

  雲は山をめぐり

  霧は谷をとざす

 昼猶闇き杉の並木 羊腸の小径は苔滑か

  一夫関に当るや萬夫も開くなし

 さんやにかりするごうきのますらお
 山野に狩する剛毅の健児

 りょうじゅうかたにわらじがけ はちりのいわねふみやぶる
 猟銃肩に草鞋がけ 八里の岩ね踏み破る

  かくこそあるなれとうじのますらお
  斯くこそあるなれ当時の健児

 

旧街道

 『箱根八里』の歌碑は、箱根の芦ノ湖湖畔にある「県立恩賜箱根公園」の駐車場の脇に立っています。近くには東海道の旧道があり、歌詞に描かれているように昼なお暗い杉並木の道が続いています。
 鳥居忱は明治13年、25才の時に、東京音楽学校の前身である「音楽取調掛」第1回伝習生となり、西洋音楽の手ほどきをお雇い外国人教師のメーソンから受ける傍ら、教師らと外国の曲に日本語の歌詞を付けた唱歌を作りました。これが、『小学唱歌集』(明治14年)にまとめられ、日本人が西洋風の歌曲に親しむための足かがりとなりました。その後、鳥居は唱歌担当の助手として取調掛に残り、20年に取調掛が東京音楽学校に改組された後、教授として国語と音楽理論を教えるようになりました。『箱根八里』は、明治34年の『中学唱歌』に収められていますが、この頃には日本人の作曲レベルも向上し、唱歌集で日本人が作曲した歌が多数を占めるようになりました。

中学唱歌

 その後、唱歌の改良は、『金太郎』で見たように歌詞の「言文一致」へと進んで行き、鳥居らが作った旧来の漢文調の唱歌は田村虎蔵らの攻撃を受けるようになりますが、何もないところから唱歌を生み出した鳥居の労苦と業績を、今日、私達は素直に認めなければならないでしょう。

*鳥居忱 安政2年(1853年)、生まれ。作詞家・教育者。東京音楽学校(現、東京芸大)教授。唱歌教育の先駆者。代表作に『箱根八里』、『秋のあわれ』。大正6年に死去。享年64才。

江岸寺

鳥居忱の墓がある江岸寺(文京区本駒込)


[参考文献

『東京芸術大学百年史 東京音楽学校篇第一巻』音楽之友社 昭和62年

『新訂増補人物レファレンス事典』(日外アソシエーツ 平成12年)の「鳥居忱」の項]

場所:神奈川県足柄下郡箱根町箱根1「県立恩賜箱根公園」駐車場脇
交通:小田原駅より伊豆箱根バス又は箱根登山バスの「箱根関所・箱根町行き」に乗り、「恩賜公園」バス停で下車、徒歩2分


2003年7月15日更新
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[ああ我が心の童謡〜ぶらり歌碑巡り]
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