串間努 第7回
「ウイスパーカード」
の巻
※このページにある
麻丘めぐみのウイスパーカードの写真は、
「麻丘めぐみ応援会」さまよりお借りしました。
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おそらく昭和40年代生まれの20パーセントくらいしか知らないメディア、「ウイスパーカード」(いまは別の意味で使っている人もいるらしいが)。
「ウイスパー」とはささやくという意味である。ブロマイドにスターのサインが印刷され、下部にソノシートをついている。これをレコードプレーヤーにかければ、スターから私たちへささやきが聞こえるというシートなのだ。
この面妖なカードの発売に携わっていたのは、プラチナ万年筆と文化放送プロモーション。だが、もはやプラチナ万年筆に聞いても判らない状態だ。
「確かにありましたね。私も文房具屋に営業して、よく野口五郎などを売ったもんです」という元営業マンはいても、開発担当者は「販売会社が解散してどこへ行ったかわからない」とのこと。
そこで実用新案の番号をもとに書類を検索してみると、そこにはこう書いてある。
「●ブロマイド 表面に俳優・歌手の写真を表示した裏面に、関連した囁き、語り、音楽などを吹き込んだ音盤シートを重ね合わせたもの」
そして開発者は「Y・O」さん。取材をしようと電話帳で探すと足立区に同じ名前があった。だが、この方は全くの別人だった。ちょっと消息がつかめない状態だ。
ならば実物の内容を聞いてみよう……と思ったボクだが、レコードプレーヤーがない。そこで懇意にしている生活骨董屋のご主人に「レコードプレーヤーを貸して欲しい」と頼むと、「何に使うの。ウイスパーカードの再生? ああそれなら専用再生機があるよ」とのこと。うわっ! そんなものがあったのか。
それは「ソピック」(たぶん「SONO(音)」をピックアップするという意味?)という円柱で、コードを電源につないで、カード上に置くと自動に廻りだして再生する。でもちょっと壊れてたみたいで、同じところを延々と再生していた。仕方ないのでポータブルプレーヤーで再生。
例えば野口五郎ならこうだ。
「こんにちは。野口五郎です。
こんな便利なものができて、君と二人で話すことができるようになったんだけれど、君の声が聞こえないのがちょっぴり残念。でも、君がどんな返事をしているかは、だいたい見当がつくんだ。だから、そのつもりで話しますね。
君は今、何年生?(間)
ふーん、僕はね、今、高校の2年生。クラスはE組。席はね、左から1、2、3、4列目のね、前から2番目。だからね、悪いことするとすぐに先生に見つかっちゃうんだ。出席番号はね、うちの学校はアイウエオ順で、サトウだから18番目なんだ。君は?」
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ソピックとウイスパーカード
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……ささやくとはつまり、ウイスパーカードを買ったファンのあなただけにスターが話しかけるというつもりらしい。でも野口五郎さんは声優ではないので、一本調子で「きみは」なんて言っているのでなんだかそらぞらしい。
アグネスチャンはこのころはまだ日本語がたどたどしい。
「アグネスチャンです。日本語はもう、だいぶ慣れたけど、やはり日本語は難しい。でも、一生懸命オハナーシするから、聴いてね」
森昌子なんていきなり「タクサミッケ?」と来た。おいおいいきなりスゥエーデン語はないでしょう。とにかく台本がクサイのか、スターのみなさんのしゃべりがヘン。
実用新案がとられたのが昭和48年。いかにも1970年代初頭のお間抜けなカードである。
ただし、この頃は、パンチで穴を開けたカードを機械に通すとメロディが流れる玩具だとか、「リコーマイティチャー」というシートになった教育機器だとか、「音」というものをシートに記録して再生する媒体が流行していた。もちろんソノシートもそうである。
この間、ギフト商品の展示会に行ったところ、名刺カード型のCD─ROMをみたので、そういえば「ウイスパーカード」があったなと思い出した次第。
●「GON」を改稿
2003年5月7日更新
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