串間努
第8回「子どもの笑いのセンス」の巻
みなさん「ぎゃふん」ということばを覚えています?
「ぎゃふん」とは今から二十年くらい前までは、笑い話のオチとして使われていたことばだ。その頃の少年雑誌や学習雑誌には読者投稿の欄があって、笑い話やナゾナゾが載っていた。例えばこう。
「ねえねえ、お母さん、あそこの楽器屋さん、カタカナで引き算しているよ」
「え、どうして」
「だって、ハ─モ=カって書いてあるもん」
「ぎゃふん」
……という調子だ。
これは戦前の少年雑誌にも載っている話だから、きっと編集者が真似して使っていたに違いない(というか雑誌の笑い話コーナーの投稿って編集者の創作が多いのではと思います)。
とにかく笑い話は「ぎゃふん」で終わる。「へえ」でもないし「なるほど」でもない。やられた、参りましたの意味を表明しながら落ちをつけているのである。
もうちょっと現代的になるとこういうのがあった。遠足の観光バスガイドさんに出された問題である。
「トラックが、北海道から五〇〇台、東京から五〇〇台出発しました。さてどこで落ち合ったか」
「答え、仙台」。
うひゃあくだらない。こういうのを楽しんでいたのだから、当時と今とでは「笑いのレベル」が違ったのだろう。
「下はボーボー上はピチャピチャなーに」
「答え、おふろ」
というのも、昔はお風呂を下から燃していたからこそのナゾナゾであり、今のように浴槽の横に循環釜が付いているのでは、答えはわからないだろう。
時代の変化と言えば、一番ナゾナゾが「変わったな」と思えたのが「根性クイズ」。
「電線にスズメが三羽止まってました。漁師が鉄砲で打ったら、一羽だけが残りました。なぜでしょう」というものだ。これは非常にわけがわからない答えで「そのスズメに根性があったから」だって……。
しかしそのナンセンスな答えをみんなが知ることになると「ほかのスズメは飛んでいったけど、そのスズメは気絶してた」とか、相手の答えによって正解を代えるという、ルール違反の無茶苦茶なナゾナゾだった。
次に流行ったのが、「これはどっちだ」というクイズ。例えば壁を指さして「これはアルファ」。そして天井を指さして「これベータね」。次に鉛筆を指さして「じゃ、これは」と聞くのだ。アルファかベータしかないから、二分の一の確率で当たる。でも「なんで?」と、その意味を問われるので難しい。答えがわかりますか? 「アルファ」を指さすときは「歯」を出して言うのだ。つまり出ッ歯の形で「これは?」と聞く。「歯」があるから「アルファ」……くだらないです。
これがボクの小学校時代の笑い体験のうつりかわりだ。その後のことはわからないが、情報があふれているこんにちでは子どもたちの笑いのハードルは高くなって単純なモノは喜ばれないだろう。ダジャレはオヤジギャグとして「寒〜い」といれるご時世だ。しかし、言語センスやボキャブラリーはむかしより退化しているだろうなあ。20年あとの麻雀ではどんなダジャレが飛び交うのか心配である。
●「毎日小学生新聞」を改稿
2003年5月28日更新
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