田端宏章
第14回 風切り付き自転車に乗ろう!
「風切り」という物を御存じでしょうか?よく、高級外車の正面に付いている、人の形や動物の形をしたアレです。ロールスロイスやベンツの風切りなら誰しも頭に思い浮かぶ事でしょう。しかし、ここで取り上げるのは、車に付いている風切りではなく、自転車の風切りです。もともとはフォード社の車に付いていた風切りを真似して自転車にも取り付けたのが最初なんだそうですが、では風切りとは一体何のために付いている物なのでしょうか?もちろん、アレが付いているからといって、自転車の速度が速くなるわけではありません。そう、あれは自転車のステイタスシンボルなのです。
終戦から昭和40年代にかけて、工場地帯や商店街では実用自転車と呼ばれる耐久性のある立派な自転車が多く使用されていました。普通の自転車の何倍もする高級自転車ですが、一度買っておけば30〜50年はもつそうで、現在でも蕎麦屋、牛乳屋、新聞配達、銀行の営業用などで使用されています。問題の風切りですが、現在発売の実用自転車には風切りを付けた物が少なく、風切り付自転車は風前の灯火となってきています。無くなった理由として挙げられるのは、「実用的でない部分にお金をかけなくなった」、「尖った風切りは、通行人との接触の際に怪我の原因となる恐れがある」の2点です。まだ人々の心に「ゆとり」のあった時代には、風切りのデザインに凝ったりする余裕もあったのでしょうが、今ではコスト削減と機能性のみを追求するようになってしまいました。また、スピードが速くなるような形を好んで作られたため、流線形の物が多く、それも怪我や事故の原因になってしまったのでしょう。
私が風切りの種類に興味を示したのは8年ほど前です。街角で実用自転車を見つけるたびに、その種類や形を写真に撮って記録していました。ある人に風切りの写真を撮影していることを教えたところ、町田忍さんという人が沢山の風切りを記録しているので会ってみては、と言われました。これが庶民文化研究家の町田忍さんとの出会いでした。町田さんは、10年間で約150種の風切りを記録していました。その形もさまざまで、動物、英字、流線形、特殊型などなど、昔の自転車会社経営者たちの遊び心がふんだんに溢れているのです。
現在、風切り付きの自転車は「セキネサイクル」など数社が販売しています。一度買えば一生もつといわれる風切り付き自転車に、みんなで乗ろうではありませんか!
(たばた ひろあき 出版社勤務)
2003年1月29日更新
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