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日曜研究家串間努

第16回「修整液ミスノン」のガンジーさんの巻


 国産の修整液、最初の製品は丸十化成という大阪の文具メーカーが作った「修整液ミスノン」だ。
 修正といえば、私は履歴書を書くときに緊張で手が震える。履歴書は書き間違えたら修正が効かず、一からまた書き直しだからだ。住所、氏名のあたりで間違えることはまずない。だが学歴の欄になると、「○年○校卒業/入学」の繰り返しになるので、思わず「入学」と書くところを「卒業」と間違えたりする。汗をかきかき履歴書を何度も書き直したあとはどっと疲れ、気がつくと半日つぶれていたりする。
 だが、学校の先生が通信簿を書くほうがもっと大変だっただろう。1〜5までの成績欄はゴム印で○のスタンプを押すが、寸評欄は万年筆で書く。よくその欄が毛羽立っていたり、紙の色が抜けていたりすることがあった。先生がつい間違った文字をインキ消しで漂白して消したのである。

「修整液ミスノン」

 私が出た小学校では教室に担任の先生の机があり、そこで先生は事務を執っていた。机の上に二つの瓶が並んだインキ消しの箱があった。先生がやっていた手順を思い出すとこうだ。片方の瓶からガラス棒を取り出して何度か紙を擦り、次に隣の瓶のガラス棒で擦る。仕上げに吸い取り紙を巻き付けた黒板消しのような形をしたものを押し付けていた。そのガラス瓶には丸い眼鏡をかけたおじいさんの顔が描いてあったことを覚えている。

商標がカンヂー

 このインキ消しを作っていたのが、丸十化成だ。同社は昭和一〇年に野口忠二が創業。野口の実家が埼玉県行田市で足袋の晒し業(漂白)を営んでいたことから、晒し粉で万年筆のインキを消すことを考案、塩素を使った「ガンヂーインキ消」を翌年に発売した。
 「商標がカンヂーなのは当時、インド独立運動を非暴力主義で戦っているのを聞いて、その思想に共鳴したからです。晩年は風貌までもガンヂーに似ていました(笑)」(丸十化成株式会社)。
 同社は戦後もずっとインキ消を発売してきたが、昭和四〇年代に入ると筆記具の主流がボールペンなど、既存のインキ消では抹消できないものに変わってきたため、インキ消に変わる修整液の開発に迫られた。当初は、インキ消と同じように染料を分解して抹消出来る修整液の開発に取り組んだが、ボールペンインキの成分はメーカーや色によってまちまちで、一つのインキ消で全てに対応するのは困難だった。そのため、野口は「消せないのなら上から覆い隠せばいい」と発想を転換、文字を隠す役割を果たす酸化チタンと、それを紙に固着させる樹脂とその溶剤、この三つの成分で構成された修整液を開発した。
 「当時は小売り店でも何に使うかさっぱりわからず売れませんでしたが、コピー機が普及してから認知されるようになりました」

水性タイプの修正液 ボトルタイプでハケで塗る方式で出発した修整液だが、携帯性が悪く、長く放置しておくと油性の溶剤が揮発してしまうなどの欠点があった。そのため、昭和五六年にはアクリルの芯を使ったペンタイプのものが、昭和五八年にはロッド式の修整液が、それぞれ開発されたがペン先が硬くなったり液の出る量が調整できずボタ落ちしたりと、使い勝手はまだ充分ではない。「蛍光ペンのように薄い被膜で書けないか」と考えた同社は長年の研究の末、分離しやすい酸化チタンの改良に成功。今年、キャップを取ってすぐに書ける「スラッ!と修正」を出した。有機溶剤を使わない水性タイプなので環境にも優しいが、水性だから乾燥すると、やや、しわが出きる。
 「修正する文具には液、テープ、固形と種類がありますが、なかなかオールマイティなのはありません。お客様によって使いわけをしていただくのが良いと思います」。
 修整液はこれからも成長していく可能性を秘めている。

毎日新聞を改稿


2006年4月19日更新
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