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「まぼろしチャンネル」の連載を引き受けたときから、いつか紹介したいと思っていたのが大船ラドン温泉。東日本大震災による原発事故があってから、ラドン温泉(放射能泉)の話題は丁寧に取り上げたいと思っていたが、思いがけずその機会は早くにやってきた。昭和47年の開業以来、長らく地域のレジャースポットとして愛されてきた同施設だが、なんと6月末日をもって閉館するというではないか! もう一刻の猶予もないのだ。

大船ラドン温泉があるのは横浜市栄区だが、戸塚区や鎌倉市との市区境にも近く、いわば町外れ。周囲には田園風景もまだ多く残る地域だ。隣接する定泉寺は「田谷の洞窟」で知られ、鎌倉時代に真言密教の修行の場として掘られた洞窟は、江戸時代に再び掘られた部分とあわせて全長1kmに及ぶという。現在公開されているのはその半分にも満たないが、曼荼羅や仏像などの彫刻に圧倒されるはず。いにしえの信仰に触れたあとは、温泉を楽しみたい。

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ステージ付きの大広間では、昼間からカラオケの歌声が響き渡る。来館者の年齢層は高く、大泉逸郎の「孫」などが流れるにいたっては、微笑ましい光景でもある。土日は演歌歌手を招いての歌謡ショー、平日は社交ダンス教室やビンゴ大会など、健康ランドの定番イベントを連日開催。リクライニングチェアが並ぶ休憩室、ゲームコーナー、マッサージルームなども備えている。家族やグループで訪れては、日がな一日を過ごす。レジャー施設ではかくありたい。

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浴室は時代遅れな印象を否めないが、開業当初の評判はどうだったのだろう。室内の大部分を岩風呂が占めるが、背丈以上あろうかという巨石を並べている。当時の価値観からすれば、贅を尽くしたと言えるだろう。お湯に身を沈めてみれば、目の前は中国の桂林か、はたまたベトナムのハロン湾か、という迫力。地下200mから湧出する黒湯の温泉を引いており、ジャグジーの勢いで泡立っている。これだけでも客を呼べるが、パンフレットの謳い文句は「滝のある温泉」。露天風呂は定泉寺の崖と間近に接しており、落差にして3mほど滝が流れ落ちている。崖には洞穴があって、注連縄で祀られているが、田谷の洞窟と繋がっているのだろうか。頭上は緑が覆い、山奥の温泉場を訪ねているかのような錯覚を受ける。

いよいよ、大船ラドン温泉のメインテーマである「医学の温泉 ラドン室」へ。
「ラドン温泉」「ラジウム温泉」を掲げる温泉地や温浴施設は各地にあるが、ラドンもラジウムも自然界に存在する放射性物質の名前。花崗岩などに含まれるラジウムが、自然崩壊の性質によって気体のラドンへと変化する。ラドンは呼吸や皮膚によって血液中に取り込まれ、新陳代謝の促進などに効果があるという。そして、ラドンから放出される放射線(アルファ線)は、微量であれば体内を活性化させる作用(ホルミシス効果)があるという。医学的に確立した理論はないが、放射能泉(ラドン温泉・ラジウム温泉)は療養泉として国内外で認知されている。

ガラス張りの室内には、大型の発生装置6台によってラドンが送り込まれている。ラドンは無色無臭だが、室内を閉め切っているがために、塩素消毒のツーンとした臭いが鼻を突くし、お湯につかっているとやがてのぼせてくる。1回につき5~10分くらい、その後1~2時間休憩し、1日2回くらいの入浴が望ましい。4~5日続けると効果がよくわかるというが、毎日通うほど暇ではないし、そもそも悪い症状を抱えているわけではないから......。ラドンもしかりだが、温泉は病気の特効薬ではない。忙しない現代生活から離れ、身も心も解放して過ごすことが、健康へのいちばんの近道だと思う。しかるにこの野趣あふれる環境、勝手気ままな空間は、神奈川県のオアシスだと断言できる。

壁にはラドンの概要や効能が掲げられているが、興味を惹いたのは以下の一文。
「1963年以降、日本ドクターズクラブの研究スタッフは、物理学や医学界の諸先生のご指導によりラドン発生装置を研究開発し、各地にラドン温泉センターを開業した」
ちなみに、1963年は日本が動力試験炉の発電に成功した年。

ラドン発生装置についてインターネットで検索すると、「ラドン開発事業団・日本温泉医学研究所」がヒットする。開発事業団の研究によって、1号機が開発されたのは1972年。直属の学術機関として「ラドン温泉医学会」の名が記されているが、この医学会こそが日本ドクターズクラブなのだろう。そして1972年といえば、大船ラドン温泉が開業した年。医療機関を含めると、ラドン発生装置を導入したのは全国で100施設にも及ぶというが、大船ラドン温泉はその火付け役だったと言ってもよいだろう。

あと数日で39年の歴史に幕を下ろす。原発事故によってラドン温泉は再び注目されたが、その矢先の閉館はとても残念。一時代を築いた施設として、長く記憶に留めておきたい。

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大船ラドン温泉
源泉/横浜温泉(ナトリウム-炭酸水素塩泉)
住所/横浜市栄区田谷町1459
電話/045-851-1526
交通/JR東海道線・横須賀線・根岸線大船駅西口よりバス6分
    「洞窟・ラドン温泉前」停前
    ※大船駅西口より無料送迎バスもあり
    国道1号線「原宿」交差点より大船方面へ。「田谷」交差点を北へ。
料金/大人1,500円、小学生900円、幼児520円
    夜間割引(17時以降)は800円
時間/10:00~22:00(休日は9:00~22:00)

※平成23年6月30日をもって閉館


リンク
ラドン開発事業団・日本温泉医学研究所
ラドン健康プラザ湯~とぴあ内のページです)

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母子ともに"ロタウイルス"に感染しました。4月中旬の話です。ロタウイルスとは、赤ちゃんの8割がかかるウイルス性胃腸炎で、嘔吐にはじまり、10日間くらい下痢が続く病気です。いやはや大変でした。赤ちゃんだけなら、なんとかなったのですが、高齢母まで感染するとは‥‥。予防接種を2回も打ち、インフルエンザは回避したと喜んでいた矢先のことで、1歳まで病気知らずにと思っていただけに、ガックリです。でも、なってしまったものは仕方がありません。思うように動かない身体にムチ打って、赤ちゃんへの水分補給とオムツ交換、そして洗濯を、ひたすら繰り返したのでした。感染力が強いウイルスなので、汚れた物は速攻洗濯しないと、旦那さんにも感染するからです。

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そんな時に視界に飛び込んできたのが、昭和のはじめ頃につくられた"バンザイマスク"です。この「バンザイ」という言葉は、当時多くの商品に使われており、私は世相を現しているものだと、長年思ってきましたが、今回、赤ちゃんの病気を経験したことにより、「病気にならなくてバンザイ」という意味で、つけられたのかも知れないと思いました。だって、今ほど情報がなかった時代に、インフルエンザが大流行したのです。人々は目に見えない病原菌に、ものすごい恐怖を感じたに違いありません。
バンザイマスクは現在のマスクとは、似ても似つかないデザインで、黒い小さな革でできています。未使用だったので状態もよく、鮮やかなオレンジ色のパッケージは、なんだか元気いっぱいなイメージで、病気も飛んでいきそうです。当時、マスクが大量生産され、メーカーが乱立したといいますから(No.11参照)、いかに目立つか、病気にならなそうか、アイディアを絞られたのでしょう。「衛生」、「安全」という文字もいいですね。そんな戦前のマスクは、何個か持っているのですが、おもしろくて、笑える商品名のマスクがたくさんあります。  

33-3.JPGさて、恐怖のロタウイルスですが、本当に10日間の滞在後、すっきりと出て行きました。しかし、大変なのはその後です。赤ちゃんは、はじめての病気で怖かったのでしょう。ものすごく泣くようになり、散歩の途中でも大泣きするし、抱っこばかり要求してきて、ベビーカーは乗らなくなるし、離乳食は食べなくなるしで、それはそれは大変でした。そんな赤ちゃんのご機嫌をどう回復させるか、「1に根性、2に根性、3に根性」と自らを励ましながら、「できることなら、避けて通りたいロタウイルス」と、しみじみ思ったのでした。ちなみに、これを機にベビーカーには、ほとんど乗らなくなりました(安いベビーカーにしておいてよかった!)。

 

気になる街角 

33-4.JPG手前の建物が壊された時に見ることができました。古い大きなアパートです。

 

新連載スタート! - まぼろしチャンネルニュース

老舗旅コミ誌『旅の雑誌』主幹のシダトモヒロさんによる、温泉の連載がついにスタートしました!
いかす温泉天国 http://maboroshi-ch.com/maboblog/shida/

国内や世界を旅した氏が、ここ数年ライフワークとしている温泉・銭湯。
訪れた数々の迷湯・秘湯・町場の健康ランドといった中から、地域の表情が色濃く残る共同浴場や、ローカルで激シブの温泉宿、時代から取り残されたレジャー温泉施設など、選りすぐりのディープ風呂旅を提案してくれます。
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