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アカデミア青木

第15回 ローティーンの放課後生活−昭和35年VS平成12年−
塾通い


 近頃の子供は忙しい。小学生の甥や姪に話を聞いてみると、塾や習い事が平日もぎっしり入っていて、友達同士で遊ぶ時間がなかなか取れないという。小生が子供の頃は塾通いは今ほど盛んではなく、近所の子供達と遊ぶ機会も多かったように感じる。むろん遊んでばかりではなく、家の手伝いもしっかりやらされた。ただ、これはあくまでも小生個人の体験で、もしかすると他の子供はもっと勉強していたのかも知れない。そんな不安がふと頭をもたげ、膨らんだ。そこで今回の昭和のライフでは、10代前半の子供達の放課後生活を取り上げ、彼等がどんな事をやっていたのか振り返って見たい。
 NHKでは、昭和35年以降5年置きに『国民生活時間調査』という全国調査を実施している。これは、国民の日常生活行動を時間に即して捉える調査で、放送番組編成・制作のための基礎資料として、また広く国民一般の資料として役立てるために行っている。そのデータを元に、10才から15才までのローティーンがどのような放課後生活を送っているのか、分析してみた。今回は、昭和35年と直近の平成12年を比べてみよう。

1.平日の放課後行動

 表1では、学校の授業が終了する平日の16時から寝るまでの間、ローティーンの男子が30分毎にどのような行動をしていたのかを、該当者の多い順に上位3位まで挙げている。昭和35年と平成12年を比べると、以下の点が指摘できる。
 ・16時から17時半までの「自宅外での勉強」(S35年)、並びに「授業・学内活動」(H12年)は、おおよそ「課外活動(部活動)」に該当する。
 ・16時半から18時の間は、「趣味(自宅外)」(S35年)、「趣味・娯楽・教養」(H12年)がトップを占めている。外で友達と遊ぶこともこの時間帯に含まれる。
 ・食事の時間が上位に来るのは、昭和35年では18時〜19時であるのに対し、平成12年では18時半〜20時と遅くなっている。これは、夫婦共働きの拡大、母親の帰宅時間の遅れが原因と考えられる。
 ・テレビの視聴が上位3位以上となるのは、昭和35年、平成12年とも17時半以降。ただし、昭和35年においては「ラジオの聴取」もベスト3に入っている。34年にラジオとテレビの広告費収入が逆転し、新聞各紙のラジオ・テレビ欄はテレビ中心の編成となり、35年には「ラジオ東京」が「東京放送(TBS)」に社名変更するなど、この時期テレビの優位がはっきりし出した。しかし、まだまだラジオは人気があったのだ。
 ・平成12年の20時から21時半にかけて「身の回りの用事」が3位となっている。その多くは入浴や歯磨きに当てられているようだ。

2.遅くなる就寝時間

 ところで、平均的な就寝時刻は、昭和35年で21時、平成12年で22時半。40年間で1時間半も遅くなっている。その原因は一体何か。それを解明するために、16時から寝るまでの間に、彼等がどんな行動にどれだけの時間を費やしたか調べてみた。

 表2の増減に注目すると、増加の幅が大きい項目は、「テレビ」、「学業」、「レジャー」、「身の回りの用事」(+15.7分)。このうち「テレビ」が+75.5分と突出しているが、これは40年の間に人々の嗜好がラジオからテレビへと移ったためで、「ラジオ」(−30.6分)と合計すると+18.1分と、第3位の位置に落ち着く。そのため、調整後は「学業」(+24.0分)が第1位となる。「レジャー」(+21.5分)との差はさほどないため、「よく学び、よく遊び、よくテレビを見た」結果、就寝時間が遅くなったといえる。
 一方、女子はどうか。女子の増加の幅の大きな項目は「テレビ」、「睡眠」、「身の回りの用事」(+18.8分)、「学業」(+15.4分)、「レジャー」(+12.5分)。女子の場合、「テレビ」(+75.5分)と「ラジオ」(−37.1分)を合計すると、+38.4分となり、こちらは男子と違って調整しても第1位となる。また、「睡眠」(+24.9分)が第2位となっているが、これは10才と15才の就寝時間の差が拡大したことによるのであろう。本業である「学業」は第4位で、その増加幅は「テレビ」の4割に過ぎない。「テレビの見すぎで就寝時間が遅くなった」と言われても、いたしかたない。

3.年々減少する、「仕事」、「家事」

子守り

 ところで、学業と並んで子供の頭痛の種であった「仕事」(アルバイト)や「家事」(家の手伝い)は、昭和35年当時どの位行われたのだろうか。

 表3によると、昭和35年の仕事時間は男子で平均8.4分、女子で平均5.8分。仕事をする必要のない子供も多くいたから、実際に子供が行った仕事の時間はこれをはるかに上回るだろう。だが、45年以降、仕事時間は急速に減少している。これは、子供がアルバイトをして家計を助けなければならないという状況が、国の施策等によって改善されたためだ。昭和39年の「母子及び寡婦福祉法」の制定や母子家庭救済のための様々な雇用事業(昭和34年11月に東京都が始めた「緑のおばさん」もその一つ。緑のおばさんは38年に区へ移管され、40年には区の正規職員となった)が軌道に乗ったのもこの頃だ。
 一方家事時間は、昭和35年に男子で15.1分、女子で34.6分あったのが、平成12年には男子が3.6分、女子が15.4分となってしまった。平成12年の女子の家事時間は、昭和35年の男子とほぼ同じだ。戦後、家庭の電化によって主婦の家事労働が軽減され、子供が手伝う必要性が薄れたからだろうが、何ともお寒い状況である。近年、教育関係者の間で「生きる力を与える教育」が叫ばれているが、まず家庭での家事教育から見直してはどうか。年に1回学校でキャンプに行って飯ごう炊飯するよりも、毎日家でガス釜を使ってご飯を炊く方が安上がりだし、技能も身に付くと思うのだが。
 次の『国民生活時間調査』が行われるのは、平成17年の秋。平成14年4月から公立の小中学校で導入された「完全週5日制」が、ローティーンの放課後生活にどのような影響を与えているのか。分析が今から楽しみである。


2004年1月26日更新


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