2月某日 初心ニ戻リ神保町ヲ回遊スル事
今年に入ってから、数えるほどしか古書展に行ってない。一月には銀座松屋や渋谷東京東横の古本市には足を運んだのだけど、ああいうデパート展は会場が広くて一回りするだけで疲れるし、そのワリに高い本ばっかりだしで、アマリ好きではない。その点、やはり神保町や高円寺、五反田の古書会館で週末に開かれる古書展は、戦前の本から最新のものまで、100円の雑誌から1万円のレア本まで幅広く、行ってみるとなにかしら収穫がある。このところ、仕事場に籠りきりであまり外を歩いていない。そうだ、神保町に行こう。土曜日の朝、早起きして電車に乗った。
人ごみが苦手なので、いつもは空いてる時間帯に行くのだが、今日ははりきったせいで、開場時間の10分前に着いてしまった。2日目(昨日が初日で人が集中する)なのに、入り口の前にはもう数人が溜まっている。10時になると、会場になだれ込んだ。霊感とか予感はあまり信じない方だけど、今日は一歩足を踏み入れたとたんに、なんだかイイ本にぶつかりそうな気がする。まずは、いつも安い本を代放出している〈あきつ書店〉コーナーへ。棚の前に立った瞬間、手がすっと伸びる。『文藝朝日』1964年12月号が200円。この号は以前の古書展でも見たコトがある。やはり〈あきつ〉の出品だった。戸板康二の短いエッセイが入っているのだが、そのときは他に買うものが多すぎて断念した。ココで再び見つかるとは、今日は調子がイイぞ。
あとは一気呵成に安い本を手元に抱え込む。勝本清一郎『こころの遠近』(朝日新聞社)300円、中野重治『文学のこと・文学以前のこと』(解放社)200円、日夏耿之介『随筆瞳人閑語』(高陽社、大正14年)1500円、青山光二『ヤクザの世界』(実業之日本社・ホリデー新書)、200円、『放送朝日』1967年11月号(特集・コマーシャルを創る人々)200円、『新日本文学』2冊、各200円、佐藤春夫『文藝他山の石』(好学社)200円、徳永直『小説勉強』(伊藤書店)200円……。こうして書き写していると不思議になる。オレ、佐藤春夫や徳永直なんてそんなに好きだったっけ? 正直云ってなんで買ったのかよく判らないけど、その場の雰囲気で手から離せなかったようだ。
ほかにも、花森安治の装丁の新田潤『煙管』(文明社)を一冊持ってるのに200円だから買い、美本だと高いハズの由紀しげ子『本の話』(文藝春秋新社)が再版で図書館票が貼られているからか500円と安かったから買う。それから、沼津の古典社(書物関係の本を多く出している小出版社)の『図書案内』第1号(1934年3月)が500円。既発表の著作目録や年表を再録したものらしいが、「全国蒐集家名簿」なんてのも入ってる。〈あきつ〉だけで13冊も買ってしまった。両手に本を抱えて移動する。
この日はとことんイイ日だったらしく、〈キヌタ文庫〉の平台の下を覗いていたら、野平健一『西暦1999 続矢来町半世紀』を500円を発見。この本、私家版なのでなかなか見つからなかった。某店でずっと3000円で置いている金子昌夫『山川方夫論』(冬樹社)がナンと200円。もう一冊、三橋美智也の「あヽ大阪城」、美川憲一の「戎橋ブルース」など、大阪をうたった469曲の歌詞を収録した『大阪のうた』(大阪都市協会)400円もオモシロイ。これ持っていれば、大阪のカラオケボックスでは無敵だろう。ほかにも4、5冊買ったけど書名は略。金額を合計してみれば判るけど、コレだけ大量に買っても1万円には達していない。やっぱり古書会館はスゴイ。
両手に袋を抱えて、〈田村書店〉の均一台前を通ると、まだ11時前だから他の店の前は誰もいないのに、ココだけは交通妨害せんばかりに人だかりがしてある。古書展帰りでまだ気分が高揚中のおやじたちの熱気がムンムン。こちらも釣られて何冊か買ってしまう。
神保町に来たら新刊書店にも寄っておかなきゃと、〈書泉グランデ〉に入る。もう20冊以上買ってるから、今日はこのぐらいにしておけばイイのに。荻原魚雷編『吉行淳之介エッセイ・コレクション1 紳士』(ちくま文庫)780円、押井守『獣たちの夜 BLOOD
THE LAST VAMPIRE』(角川ホラー文庫)600円と、『本の雑誌』3月号を買って、さらに〈高岡書店〉で竹熊健太郎『マンガ原稿料はなぜ安いのか? 竹熊漫談』(イースト・プレス)1200円を買う。その後、隣の〈ディスクユニオン〉を覗いて、交差点をわたって、〈岩波ブックセンター〉と〈日本特価書籍〉に寄ってと、いつもの行動パターンどおりに回遊する。最後に〈やまがた〉に落ち着いて、カツカレーを食べる。ココまでで2時間。なんと濃密な時間の過ごし方だろう。ああ、コレで今日が休みならなあ……。と、大荷物を抱えて、しょんぼりと仕事場に向かうのでありました。
2004年3月25日更新
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