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「ら〜めん路漫避行」タイトル

第13回 墨東デジャヴ〜
雑貨繚乱!団地テナントのみとうし
刈部山本

東京23区東部に墨田区がある。東京区内に在住・通勤されている方でも認知度が低い(失礼!)と思われるが、東武伊勢崎線東向島駅といえば、このような連載を読まれている中には「ああ!」と声が出てる方も居られよう。この駅付近、駅名表示に括弧して(旧玉ノ井)と記されているように、荷風の『墨東綺譚』や滝田ゆうの漫画『寺島町綺譚』の舞台となった私娼窟があった。 ならば旧遊郭物件巡り!…なんて定番通りにはいかないのがこの連載。まぁ遊廓跡はネタが沢山あるので、そのうち大特集を組むとして、今回は駅から西へ進路をとる。

駅に隣接するように東武博物館では東武鉄道の歴史が垣間見られる。屋外にはかつての国鉄の特急車両(485系あたり)を思わせるフォルムにクリーム色に小豆のラインが入るカラーリングの、デラックスロマンスカー1721系が切断された状態で実物展示されている。ビュッフェの他、初のサロン室が設置されていたそうで、子供の頃に憧れを持っていた、特急に夢を乗せていた時代を外観を見ただけで思い起こさせる。
このあたりは小さな民家が密集し、玉ノ井遊廓のシンボルともいえる「ぬけられます」の看板に見られるように、細い路地が入り組んでいる。この中の狭い路地の一つに、京成白髭線の廃線跡がある。京成線の八広駅と京成曳舟駅の間にあった向島駅から西へ約1.4km、玉ノ井駅(現東向島駅)を通り、白髭駅(白髭橋病院付近)へ抜ける路線で、このまま西へ三ノ輪橋駅まで延長し、王子電気軌道(現都電荒川線の一部)へ連絡する予定だったが、1936年に廃止となっている。
ちょうど終点となる白髭駅跡あたりにつくと、これまでの路地空間とは風景が激変する。この白髭橋東詰から鐘淵陸橋まで、隅田川に沿って南北へ延びる全長1km程、地上13階建ての巨大な壁。この圧迫感たら他にない。

白髭団地全景

1983年築のこの都営白髭団地は防災団地とあだ名されるように、大地震や火災が起きた時に団地そのものが防火壁となり、10棟全てが繋がり火の延焼を抑える。

白髭団地見上

発想そのものがTVまんがの合体変形ロボットで、団地マニアの間でも有名なのはその巨大さだけではあるまい。メカメカしさ、ギミック感をこのスケールで味わえることはまずないだろう。とにかくバカバカしいまでにデカイ。

ジョイント扉開閉
ジョイント扉UP

隣接する東白髭公園は避難場所として設けられ、先の白髭橋病院は災害時の救急施設として、この一体が防災都市として整備されている。極めつけは団地自体が消化機能を有し、消化銃が棟の所々から突き出している点だろう。まさに子供向けのロボットおもちゃ。ここで育ったらさぞ、警泥やヒーローごっこが楽しかったろう。

放水銃

団地が出来てから凡そ四半世紀が経過し、実質的に防災面で機能するのか疑問視されるのも時代の移り変わりとともに致し方ないのかもしれない。居住者の高齢化も進み、かつて団地といえば階下のスーパーや商店街が買い物に遠くへ行かなくても済むというので人気となったが、いまではその多くがシャッターを下ろしている。

シャッターマーケット

ここ白髭団地もご多分に漏れず…なのだが、こうした立地に敢えて若い方が自分のやりたい仕事を始める場を求める動きが出ている。団地北側の小テナントが集まるマーケットのひとつに、雑貨店チャームスケッチがある。作家の手づくり小物といったオシャレな委託品から、小学校の向かいの文具店にあったようなファンシーでどこか懐かしい文房具まで、とりどりの雑貨が所狭しと並んでいる。

チャーム内観

チャーム1

チャーム2

凡そいい年した男子が入れるような空間ではないものの、まるで駄菓子屋のような雑多感が居場所を与えてくれる。下敷きやノートの中にグッピーラムネの文字をみて救われる思いがした。このバランス感覚がこの店ならではの空間を生み出している。

グッピーラムネ

このシャッターが目立つ中にひとつ広がる空間が非常に面白いと思うのだが、店主さんにお話を伺ったところ、ネット通販や遠方からこの空間を求めて来られる方は多いものの、なかなか地元のお客さんが付いてくれないとのこと。確かにこうした新進の店と団地住民との感覚的乖離は根深いかもしれない。しかし都心にもこうした空きスペースは意外と多くあり、そこから新しいなにかが発信されるのは、いい活用方法だと思う。こうした店舗がいくつか揃えば、団地との新たな関係が出来、活気が出る可能性はなくはないだろう。こんなに面白い団地なのだから、やり方はいくらでもある気はするのだが、どうだろうか。

チャームさん外観

チャームスケッチ
13:00頃〜18:00
定休;月・水曜
東京都墨田区堤通2-7-16
お店HP:http://charmsketch.ciao.jp/ ※時間等変更の場合があります

このマーケットの中にもうひとつ、新進気鋭の店舗が存在する。それが麺屋とうしというラーメン店。周辺の空気感からは想像の出来ない、厨房設備の充実したキレイな店内にまず驚かされる。

らぁめん@とうし

若い店主がつくるラーメン[らぁめん(こがしネギ入り)¥600]は、醤油の立ったキレのあるもので、醤油ダレのまろやかさが印象的なスープに仕上がっている。あっさりとはしているものの、焦がしネギを添えることで満足感を与えている。麺は平べったく柔らかめでコシがありつつも、ポックリとした歯ざわりが食べやすい。チャーシューは厚みがありながら赤身の旨みがしっかりと感じられ、とろとろに煮込まれている。スープもそうだが、具に至るまで店主の仕事の丁寧さが伝わってくる。
この立地でこういうシンプルながら手の込んだラーメンが出てくるというのは一種のサプライズ効果があって面白い。あまり知られていない店ながら、わざわざ食べに来る価値はあると思う。

とうし外観

麺屋とうし
11:30〜15:00/18:00〜21:00
定休;日曜・祝日
東京都墨田区堤通2-6
※時間等変更の場合があります

このとうしが白髭団地北の新鋭なら、南の老舗に当たるラーメン店が存在する。自分はそこに何度となく行くほどソールフードと化しているのだが、取材拒否店として有名なのでここでも店の意向を貫かせてもらう。なに、検索すればすぐ見つかるのでご安心を。自分にとっては白髭団地と巡り合わせてくれた店であり、玉ノ井へと誘うスタート地点ともなった、いわば食べ歩き・街歩きの原点なのだ。ラーメン店不毛の区などと言われているが、なに、潜めばいくらでも良店が見つかる穴場なのだ。これからも度々、潜みに来ることだろう。

■参考資料■
集合住宅物語 アマゾンへようこそ!

「集合住宅物語」
植田実(著), 鬼海弘雄(写真)
みすず書房
978-4622070863
税込価格4,410円

・京都大学防災研究所 巨大災害研究センター「災害と防災の世界」
 白髭防災拠点 http://inpaku.dpri.kyoto-u.ac.jp/jp/think/town/example/e_japan/shirahige/shirahige.html
・荒川下流河川事務所発「荒川流域のポータルサイトARA」
 京成白髭線廃線跡の路地 http://itgis.ara.go.jp/nandemomap/map.cgi?MODE=disp&ID=10351&type=3&zoom=11



刈部山本

刈部山本(かりべ・やまもと)とは・・・
ラーメンなどのB級グルメを主食とし赤線跡・軍事遺跡・レトロ建築等を巡る路地裏徘徊人。
東京の下町、谷根千の路地裏に潜む古本喫茶を自営。レトロ少女マンガ・サブカル・町歩き等の古本・ミニコミが揃う空間で最高品質の珈琲と自家製ケーキを持て成す。
ふるほん結構人ミルクホールHP http://kekkojin.heya.jp/




2008年 3月26日更新
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