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トランクにつめた昔の牛乳ビンたち
その32 ガラスビンと生きる
庄司太一さんの巻 後編
弓屋かえる堂さえきあすか


 前回のつづきであります。

当日配られたパンフレット 『平成ボトルブルース』

当日配られたパンフレット

 

 私は庄司太一さんのボトルライブ会場にきていました。入り口まで人が溢れた店内に、恐る恐る足を踏み入れたんです。
 「どうもすみません」
 何度もあやまりながら人をかきわけ、カウンター付近の隙間に入り込んだ私は、ようやくホッとひと息。重たい荷物を床に置いて目線を前に移すと、黒い帽子に黒いマント姿の庄司さんこと「ビン博士」と、まったく同じ格好をした「偽ビン博士」(俳優の田代隆秀さん)が、対峙している場面でした。2人で「どっちが本物だ?」と場内をわかしています。私の前に立っている20代前半と思われる男の子も、大きな拍手をしながら時に声をあげて、庄司さんを応援していました。「彼もガラスビンが好きなのかな?」そんなことを思いながら、とても嬉しくなりました。

コンサート会場内

 右横には全長1メートルほどのスクリーンがかけられ、気泡がたくさんはいった美しいガラスビンと、懐かしい風景がつぎつぎと映し出されています。そして色とりどりにライトアップされたステージでは、ピアノ、パーカッション、ベース、ギター、ドラムス、コーラスの豪華メンバーと一緒に庄司さんのギターと太くて優しい歌声が響いています。
 1曲ご紹介しましょう。
 私が大好きな「ジャパニーズ・ボトルメーキング・ヒストリィー・ブルース」の1番です。
コンサート会場内 「そもそもわが国に製びん工業の起こるのは明治になってからのこと。幕末の江戸には加賀谷上総屋というギヤマン問屋が現れて、科学実験用の薬びんを造ったことが知られているが、一般大衆の手には決して届くものではなかったという、すなわち、加賀谷の系列になる腕利きの沢貞次郎が東京本所の松井町で薬びんの製造を開始したのは明治二年の、そう1869」
 ‥‥‥。
 歌詞だけみると、いったいどんな曲がつくのか、まったく想像ができないと思いますが、実にかっこいい曲がなのです。庄司さんは「この世にひとつくらいびんの歴史を綴った歌があってもいいではないか」と思い、鉄道唱歌のような長い曲をつくりたかったそうですが、現在4番までだとか。このほかには「牧歌的錯乱ロック・びんのハリケーン」、「ボトルブルース」、「ガラスびんパズル」などなど。びんだらけの摩訶不思議なライブでした。

トランクにつめた昔の牛乳ビンたち

トランクにつめた昔の牛乳ビンたち

 コンサートも無事終了。庄司さんに挨拶をして帰ろうと思ったら、見覚えのある顔が正面に。カリスマチャンネルでもおなじみ「日本絶滅紀行」の田端宏章さんです。
 「おひさしぶり! 元気だった?」
 「誰かと思ったら、さえきさん!」
 ちょっとはにかんだ感じの田端さんは、7歳も年下だというのに、いつも落ち着いていてニコニコと優しい笑顔です。私もつられてニコニコと穏やかな気持ちになります。
 「年に一度くらいしか会えなくなったね」
 なんて会話から、一緒にいた女性を紹介していただきました。イラストレーターの吉田稔美さんです。古い絵葉書を大量にコレクションしているというお話に、整理方法をお伺いしたり、田端さんの近況を聞いたりして楽しい時間です。
庄司太一さん 肝心の庄司さんはというと、歌っている時のパワフルな姿と違い、
 「どうだった? みんな楽しかったかなぁ?」
 と不安そうな顔をしています。こんな庄司さんのシャイな一面も女性心をくすぐるのでしょう。会場には庄司太一ファンの女性の姿が多くありました。
 「お疲れ様でした。楽しかったです」
 最近ちんどん屋さんのアルバイトをはじめたことにより、人前で表現するということの緊張感や楽しさ、難しさが少しだけ理解できたつもりの私です。まして、自分で作詞・作曲までしちゃう庄司さんのたいへんさを想像すると、
 「うーむ。勇気がいるよなぁ。私もがんばらなくっちゃ!」
 なんて元気になるんです。考えてみると庄司さんは今年で55歳。でも、まったく年齢を感じさせません。いつまでも若々しく、パワフルに自分の好きなことを表現している姿は、見る人にたくさんの夢と元気を与えてくれるのです。

 追記
 10月26日のチラシ配りは上手くいきました。親方の美香ちゃん、楽士はイワちゃん(男性)、ドラムはアッちゃん、そしてチラシ配りの私、合計4人でした。前回が失敗ばかりだったので一安心です。やっぱり早朝から庄司さんの朗読を聞いたおかげですね(その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編 参照)。

アッちゃんとわたし

アッちゃんとわたし

 『徳川夢声に出会った』(晶文社刊)のご案内

『徳川夢声に出会った』  『その19 へんてこケロちゃんの巻』でご紹介した濱田研吾さんが、2003年12月15日に『徳川夢声に出会った』という本をだされました。文通をとおして親しくおつきあいをしてきた私にとって、2003年最後の素敵なプレゼントになったのはいうまでもありません。
 明治から昭和という激変する時代の流れの中で、映画、ラジオ、テレビを中心に、さまざまな世界で大活躍してきた徳川夢声の足跡を、10年以上にわたり1人で追いかけてきた濱田さんの一途な情熱にただただ驚くばかり。ひと昔前の大衆芸能に興味がある方はもちろんのこと、みなさんにもぜひぜひ読んでいただきたいと思うのです。

 さてさて2004年もスタートしました。本年もよろしくお願いいたします。

弓屋かえる堂


2004年1月20日更新
ご意見・ご感想は webmaster@maboroshi-ch.com まで


その31 ガラスビンと生きる庄司太一さんの巻 前編
その30 『家庭電気読本』と上野文庫のご主人について‥‥の巻
その29 ちんどん屋失敗談とノリタケになぐさめられて‥‥巻
その28 愛国イロハカルタの巻
その27 ちんどん屋さんとペンギン踊りの巻
その26 「ラジオ体操の会・指導者之章」バッチと小野リサさんの巻
その25 針箱の巻
その24 カエルの藁人形と代用品の灰皿の巻
その23 『池袋骨董館』の『ラハリオ』からやってきた招き猫の巻
その22 東郷青児の一輪挿しの巻
その21 西郷隆盛貯金箱の巻
その20 爆弾型鉛筆削の巻
その19 へんてこケロちゃんの巻
その18 転んでもただでは起きない!達磨の巻
その17 ケロちゃんの腹掛けの巻
その16 熊手の熊太郎と国立貯金器の巻
その15 単衣名古屋帯の巻
その14 コマ太郎こと狛犬の香炉の巻
その13 口さけ女の巻
その12 趣味のマーク図案集の巻
その11 麦わらの鍋敷きの巻
その10 お相撲貯金箱の巻
その9 カール点滅器の巻
その8 ピンク色のお面の巻 後編
その7 ピンク色のお面の巻 前編
その6 ベティちゃんの巻
その5 うさぎの筆筒の巻
その4 衛生優美・リリスマスクの巻
その3 自転車の銘板「進出」の巻
その2 忠犬ハチ公クレヨンの巻
その1 野球蚊取線香の巻


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